TF-1

 あるとき、私は叔母と会うことになった。ホグワーツ2年目のイースター休暇のときの話だ。父は仕事でアフリカにて長期滞在をしてたため、僕は母と2人で夏休みを過ごすことになっていた。ところが、彼女の体調が突然悪くなり、私がホグワーツ特急に乗る頃には、入院3日目を記録していたのだ。そのため母の姉であるエイドリアン叔母に面倒を見てもらうことが決まった。1人でも大丈夫だと手紙に書いたのだが、両親は私が人狼になって以来、すこし過保護になっていたので、私の願いは聞き入れてもらえなかった。幸運にも休暇は満月と被らなかったため、狼に変身する心配をしなくてよかったのが、彼らにとっての決め手だった。

 これは叔母との心温まる休暇を記したものではない。そもそも、私はあの休暇中、叔母とは一度も顔を合わせなかった。

 あちらのスケジュールの問題で、休暇の2日目から、叔母が家に来ることになっていた。そのため1日目は母の見舞いに1人で行った。叔母は未婚で、面倒を見る家族がいないと母から聞いた。「それに、ちょっと、魔法族のことが___あまり好きじゃないけれど、いい人よ」___当時は叔母のことが理解できなかったが、リリー・エバンスという友達について知った今なら、とてもよく分かる。ある日突然、今まで知らなかった世界と、あるいはその住民と交わることになった時、私の知る限りでは2種類の反応があるのだ。

 一つ目は、リリーや私の母のようなパターンだ。戸惑いつつ、適応していくタイプ。

 だが時々、戸惑いがいつまでも消えず、異邦人に今までの生活や人々を破壊された気分になり、それらと敵対してしまう人がいる。リリーの姉や、私の叔母のようなパターンである。彼らは周りで起きた変化が許せなかった。私がそれまで叔母に会ったことがなかった(実際はそれから数年ほど、母の葬式の時まで会っていなかったのだが)理由がそれだ。叔母の敵の血が半分入った私を、彼女はよく思っていなかった。
 だが母が入院したあたりから、嫌悪よりも同情が勝ったのだろう。2週間だけなら、と彼女はベビーシッターになることを承諾した。ただ、当時の私はもうじきティーンエイジャーになろうとしていた頃だったので、「ベビー」という文字が付くのを嫌がっていた。






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 僕は朝食のシリアルをつめこんだ後、叔母がやってくるまでにあと3時間残っているということを確認した。それまでになにをして時間をつぶそうか悩んだのだが、ソファに寝転ぶとすぐに寝落ちたので、大して心配する必要はなかった。昼でもないのに寝てしまったのは、人が来る緊張で昨夜十分に眠れなかったせいだったと思う。

 僕は奇妙な夢を見た。見たことのないブロンドの美女と話している夢だ。彼女は僕を「リーマス」とあたかも仲の良い友人のように呼んだ。彼女は白いTシャツにライダースジャケット、それからショート丈のパンツを履いていた。僕には慣れない格好だった。彼女のふとももに視線がいかないよう、何度も自分に言い聞かせる必要があった。
 僕は彼女の(あるいは彼女が誰かから借りた)水色の車に乗っていた。彼女の運転は下手ではなかったが、よく手を離したり、よそ見をしたりするので、事故が起きるのではないかと、僕はずっとヒヤヒヤしていた。
 時間は夕方に、車内に差し込む光は気づけばオレンジ色になっていた。彼女はいったん車を停めていたので、僕は窓から景色を眺めることができた。左側、道路の柵の向こう側は海だった。しばらく僕らの間には沈黙が流れたが、突然物音がした。何かの叫び声のような、とにかく耳障りな騒音だった。

 それが何だったのか、僕にはわからない。そこで夢から覚めたからだ。僕は誰かが玄関のチャイムを押していることに気が付いたが、それと同時に、ここは僕の家ではないという事にも気が付いた。いや、確かにここは僕の家であったのだが、家具や壁の飾りなどは、僕の知っているものと全く違っていた。それに、暖炉が金属になっていた。そのままの意味だと語弊があるかもしれないが、本来ならばそれはレンガでつくられていたはずだったのだ。それが、黒色の金属(叩いてみたときの音からそう判断した)になっていた。上から塗装されたわけではない。もとからあったレンガ製の暖炉が、きれいさっぱり消え去ったかのようだった。
 チャイムを押す音が、だんだんイライラとした感じになってきたので、僕は慌ててドアを開けた。そして、開けた後から後悔した。だって、これは僕の家ではない可能性があるし、それか、なにかの罠なのかもしれない。いったいどこの誰が、無力なホグワーツ生に対して、それも休暇中に、罠なんかを仕掛けるんだとは言いたくなるが、それでも事態の中心にいた僕は怯えていた。

 ドアを開けて、ブロンドヘアーの美人を視界に入れると、僕はハッとした。夢の中のあの人だった。夢で見たのとまったく同じ格好をしている。
「ハーイ。あんたがジョン?ご両親はもう行ったの?」
 ジョン?僕の名前にはたしかにジョンが含まれてはいるが、それはミドルネームだ。僕は人違いなのではないかと思った。
 僕の沈黙を警戒だと受け取ったのか、彼女はすこし腰をかがめて言い直した。
「まずわたしから名乗れってこと?いいけど」「わたしはエイドリアン・ホーウェル__よろしく、坊や」
 僕は息をのんだ。名前は、叔母のそれだ。今日から2週間、僕の面倒を見ることになっていた叔母の。だが。
「え、あなたがエイドリアン叔母さん?」
「叔母さん?ううん、わたしとあなたは親戚じゃないけど。それにわたしの兄弟のうちだれかが子供を産んだって報告も来てない」
 彼女は叔母___つまり、僕の母親の姉というには若すぎる。誰が見てもそうだ。
「…僕はリーマス・ジョン・ルーピン」
「リーマス?変わった名前ね。それに、ジョンがミドルネームだったんだ」
「なにも聞いてなかったんですか?」
「ううん。ただ、うちのジョンをよろしくってだけ」
 ていうか、敬語はやめてよね。彼女が付け足した。
「これから2週間、あんたとわたしで楽しく暮らしていくためのルールその1。お互い敬語はナシ。オーケイ?」
 僕が頷くと、彼女は満足そうな顔をした。
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