「美雨は最近どうなの?彼氏さんと順調?」

はい、来たー。と内心げんなり思いながら、私はとりあえず目の前のグラスの中のカクテルを飲み干した。
30を目前の独身女性の懐はまぁまぁ余裕があり、都内の中でも比較的広めな部屋を借りている宿命は、何かと宅飲みの会場になりやすいということだった。
お酒を飲むのも、料理をするのも、友人と話すのも好きな私には全く苦ではないのだが、何分女性が何人も集まるとこういう話になるのは間違いない。

「何も変わらずだよ。喧嘩もないし、普通かな?」

我ながら当たり障りも面白味もない返答をしてしまったと思いつつ、これ以上を言えないから仕方ない。
案の定大学からの気の置けない仲間達は白白した目つきで私を見ながら、缶チューハイやボトルを空けている。ちょっと待って、そのボトルもう空いたの?


「美雨達付き合ってもう3年近いでしょ?いい加減彼氏さんもしっかりしてもらわなきゃ!」
「そうよそうよ!私達の中でも美雨は特にいい子なんだから!半端な覚悟で付き合ってるなら殴ってやるから!」


彼女達はいかんせん私を過大評価しすぎるきらいがあるが、この過保護さはむず痒さと共に嬉しさも感じる。
とはいえ、彼の名誉のためにもここは少しフォローしておこう。


「いや、本当に真面目が服着たみたいな人だから大丈夫よ!彼の仕事が落ち着いたら結婚すると思うし!」


この台詞はもう一年近く言い続けているが、彼の仕事が落ち着く日は中々やってこない。これは私もたまに心配になるのだが、目の下に隈を作りながらもわざわざこの家に来てくれる彼の姿を見ると、詰め寄ることは出来なかった。


「大体彼氏の仕事、公務員じゃなかった?何でそんなに残業ばっかりなのよ!」
「ちょっと景子!落ち着いて!あんた飲み過ぎ」
「さとみはこの子が騙されててもいいわけ?ただでさえ美雨は男運悪いんだから!」
「そ、それは否定出来ないけど…美雨もあれから色々経験積んでるしね!ね?」
「あ、あはは…」


大学時代にフリーターと3年近く付き合った挙句浮気されてフラれた経験のある私は、何も否定することは出来ない。
とりあえず景子はもう寝落ちだなと思い、寝室に毛布を取りに行く。今日はみんな泊まるならーと寝室を見回していると、一番のしっかり者で唯一の既婚者の真綾が寝室に入ってきた。


「景子潰れちゃった…相変わらずだね」
「やっぱり?さとみもそろそろ危なそうだから毛布二枚いるかな?」
「美雨…」


真綾の声色が急に真剣になるので、思わず私は振り向いて真綾を見つめる。私達の中でも一番の美人で芸術肌だった真綾は、画家として成功をおさめながら、映画監督と結婚した。
中々破天荒な恋愛経験を積んでいる、一番の頼れる姉貴分である。


「さっき景子は酔ってあんなこと言ってたけどね、結構あの子本気で心配してるのよ…最近仕事で絡む時はいつも美雨の話なのよ!自分だって彼氏と別れたばっかりなのにね」


思わずうるっとしてしまった。泣き顔も変顔も知られた仲だが、なんだか涙を見られるのは恥ずかしくて必死に堪える。


「もし、悩んでることあったらいつでも電話してね…主婦は毎日暇してるのよ」
「…主婦ほど大変な仕事はないんでしょ?」
「子供もいないし、お互い気ままな人間だから、案外気楽なものよ」


私からさらっと毛布を取り上げながら真綾は何事もないように言った。真綾も悩んだりすることがあるのだろうか。
部屋に戻るとさとみも潰れており、私と真綾は顔を見合わせて笑った。片付けを二人でする分、ベットは二人占めだ。

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