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他人には言えない秘密を誰しもひとつは持っている。それがとんでもなく非現実的でファンタジーなものであったとしても。私には現実であり、残酷な真実だった。



「レオン、考え直して。この事件は普通じゃないの。あなたも死ぬかもしれないのよ」
「平行線だ、サラ。君とはもう何度も話し合った、その度に結論は同じ。俺は真実を知りたい、それだけなんだ」
「私だって、この事件がおかしいことはわかってる。でも、レオンが危険な目に遭うのは考えたくないの。レオンが死んだら……そんなことばかり考えて、夜も眠れない」

ラクーンシティ警察署への配属を希望した私の恋人、レオン。
いまどき珍しい、正義感に燃える若者。
ラクーンシティで、連続して起こっている猟奇事件のことを知った彼は自らそこへ行き、事件の真相を明らかにすると宣言した。
それだけはダメなの。あなたはこれから、どうなるか知らないから、正義感だけで突っ走れる。

「お願い、レオン……1度だけよ、あなたが傷つく姿を見たくないの」
「何度言われても俺は行く。サラ、君がそれを止めるなら、ここで俺達の関係は終わりにしよう」
「どうして?私はあなたが心配なの、あなたが……」

死してなお動き続ける異形になって欲しくないから……そう続けようとして口を閉じる。私が知っていていい情報ではないのだから。そもそも、政府も警察も公式発表していない。これから起きようとしている惨劇も、その原因がウイルスであることも、真の目的も。
この世界の住人である私が知っていることではないのだから……



*



私が生まれたのは1995年、日本の首都東京。兄の影響でゲームやマンガに親しんでいた私はあるゲームの新作を心待ちにしていた。
それがBIO HAZARDシリーズ。
初めて触れたのは兄が友人達と楽しんでいたバイオハザード5だったけれど、私は4がお気に入りだった。理由は単純、操作する主人公レオンがかっこよかったから。
レオンのことを知りたくて、小遣いを貯めてレオンが出ているほかのシリーズ、世界観をもっと知りたいとレオンが出ていない作品も買った。ゲーム自体は下手だったけど、何十回もプレイしてその度に新しい発見があって。社会人になってからはリマスター版を購入したり。
その中でも私は4のレオンが大好きだった。政府のエージェントになり、初々しい新米警察官から頼れるクールな男になった姿がとても好きだった。もちろん6の落ち着きが加わったワイルドなレオンも好きだけど。
新作は今までのバイオハザードとは異なる様子だというのは知っていた。操作が全く違ったし、グラフィックも本当に鮮明で、そしてリアル。全く異なる恐怖に、発売日が待ち遠しかった。

けれど、その発売日を待つことなく……私は事故で死んだ。あっけない最後だったとおもう。
もうレオンには会えないんだ、なんて馬鹿みたいなことを考えていたら……


私は赤ん坊だった。


意識がはっきりしたのは一歳になる頃だったけど、私はたしかに赤ん坊になっていた。

飛び交うのは英語、両親は白人の特徴そのままであり、私もどこか私だけれど、鼻が高く彫りが深い西洋人の特徴を持って生まれていた。


それからは散々だった。ある意味では楽をしていたかもしれない。勉強や体の使い方は覚えていたし、時には天才と言われることもあった。生まれた時から誰が教えたわけでもなく二つの言語を理解出来たし、絵本ではなく小説や新聞を読む姿は奇妙な赤ん坊だと思われたに違いない。
天才と言われたのはほんの一瞬で、すぐに私は同年代の輪からはじかれた。
なにせ精神年齢が違いすぎる。体は若くても心がついてこない。無邪気に走り回ることもしない、ひたすら室内で本を読む姿は大人から見ても異常だった。
大学のえらい先生に診てもらったこともあるし、カウンセリングも受けたけれど、おかしいところは何もなく、ただ大人びているということだった。