巨大怪物体
鉄道博物館の地下に存在する特務機関『新幹線超進化研究所』東日本指令室・大宮支部――現在、そこでは予想外の事態が発生し、危機的状況に陥っていた。「一体どういうことだ!」
一連の話を聞き、休日のところを研究所まで駆け付けた速杉ホクトは、指令室のモニターに映る黒い怪物――元い、未確認巨大怪物体を険しい目付きで睨みつける。
「あれはこの前、倒したはずじゃ……」
先程から研究所で暴れ回っている未確認巨大怪物体は、三日前に栃木県片岡付近に出現したものだ。
厳しい戦闘の末、なんとか撃破させることに成功。そして、運良く残骸をそのまま回収することができた研究チームは、それまで謎に包まれていた巨大怪物体について調査を開始した。
しかし、その最中に原因は不明だが再生し、格納庫の中で暴走を始めたようだ。
「なんで再生なんか……!」
山瀬マサキが焦り混じりに声を上げても、指令長の出水シンペイは冷静にモニターを見つめるばかり。
出水は動揺しないように努めるが、音を立てて崩れていく建物を見て、握った手に思わず力が入ったのが分かった。
「再生の原因は分かりません。現在は格納庫に閉じ込めていますが、破壊されるのも時間の問題です」
刻一刻と状況が悪化する中、このまま黙って見ている訳にもいかず、ホクトはなんとか奴に対抗しようと打開策を考える。
「E6とE7、E2はメンテナンス中だったな……」
しかし、いくら考えても彼等に残された道はただ一つだった。
「今、出動できるのはE5のみ――か」
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「何してるんだろ、お父さんたち」
ドアを一枚挟み、ハヤトとアサヒも緊迫した表情でその様子を見ていた。
会話の内容は聞こえてこないが、彼等の険しい表情から察するに、状況は芳しくないようである。
「あの黒い怪物って、本物かな?」
「うーん……」
どうだろう、とアサヒが唸り声を漏らした時、不意に後ろから声が掛かった。
「どちら様でございまーす?」
「うわあ!」
第三者の声に、二人は驚いて同時に跳び上がると尻餅をつく。とうとう見つかってしまったかと振り返るが、そこに人影は見当たらず――では、声の主はどこなのか。
もしやと思い上を見上げると、そこには車掌風の帽子を被った丸っこい形のロボットが宙に浮いていた。
「ロ、ロボット?」
「わたくし、車掌ロボットのシャショットでございまーす!」
「シャショ……」ハヤトの言葉を遮るように、シャショットと名乗ったロボットは自分の身体から警報音を鳴らす。
「関係者以外の無断入場確認! 警報を鳴らしまーす!」
「うわっ、ちょっと!」
ハヤトは慌ててシャショットを取り押さえ、口元を塞いだ。
「しっ、静かに!」彼の腕から逃げ出そうとするシャショットを力尽くで抱きかかえる。おかげで警報音は鳴り止んだが、代わりにシャショットのディスプレイに数字が表示された。
「えっ、あれ? 適合率検出! 68……74……」
「え、なに?」
ハヤトの腕の中でどんどん上がっていく数字に、二人は恐怖心を煽られる。この状況で冷静に考えることが出来なくなったのか、または漫画の読みすぎか、アサヒの脳裏にとある二文字がよぎった。
「もしかして爆弾……だったり」
「えー! ちょっとアサヒ、パス!」
「いらない、いらない!」
ハヤトはシャショットをアサヒの方に押し付けると、当たり前だが押し返される。
そんな攻防を何度か繰り返している間にも数字は上がっていき、それが90まで到達した――瞬間、シャショットの電源が切れ画面が真っ暗になり、急に動かなくなってしまった。
「た、助かった?」
「ていうか、こんな騒いでたら流石に気付かれるんじゃ……」
中の人たちが気付く前に早くここから立ち去るべきだ。
アサヒは辺りに人がいないことを確認し、ハヤトの手を引いて来た道を戻ろうとする。しかし、彼等が走りだすよりも先に、外の騒ぎに気付いた職員によってドアが開けられた。
「誰だ!」
一斉に振り向いた職員たちは、二人の子供の姿にどこか拍子抜けしたような表情になる。
何故知らない子供がここにいるのか。どうやって入ったのかは分からないが迷子かもしれない。誰かが声をかける前に、二人の正体はすぐ判明した。
「ハヤト!?」
「アサヒ!?」
二人を見て驚いたように声をあげたのは、ホクトとマサキだった。
「もしかして……」出水は名前を呼ぶ彼等と子供を見比べ、何者か察する。
「ハヤト! それにアサヒちゃんまで、なんでここに!」
ホクトと、少し遅れてマサキが二人に駆け寄る。少し怒気を孕んだ声に、ハヤトとアサヒは一瞬怯むと、口を揃えてごめんなさいと謝った。
「これ、忘れてったから届けようと思って……」
「私も、頼まれたやつ……」
ハヤトはポケットからShincaを取り出し、ホクトに差し出す。アサヒも封筒をマサキに手渡すと、怒られると分かっているようで身構えた。しかし、彼は怒ることはせず代わりに頭を撫でる。
「わざわざ届けに来てくれてありがとうな、アサヒ」
そもそも資料を家に忘れた自分が悪い訳で、娘の様子に反省もしているだろうと叱ることはしなかった。
でも、今ここにいるのは危険だ。早く帰らそうと二人をドアの外に出した時、指令室が地震のように大きく揺れた。
「わっ!」
アサヒは今の揺れでバランスを崩し、床に座り込む。
バリンとガラスの割れた音が聞こえ、慌ててそちらを見ると、窓ガラスの向こうであの巨大怪物体が暴れ回っていた。
「まずい、ここも見つかった!」
「この強化ガラスでは10分も持ちません! 避難するべきです!」
オペレーターの本庄アカギが溜まらず立ち上がる。
あと約10分――刻々と迫り来る時間に、流石の出水も冷静なままではいられず、顔色が悪くなっていった。
「やっぱり、E5を出すしか」
「出水も知ってるだろ! 適合者などいない!」
焦りからホクトが苛立ちを露わにした声で反論する。
出水の言う通り、それしか方法はない。しかし、それはあくまでE5の適合者がいればの話だ。未だに現れない者が急に現れるはずもなく、何も行動が起こせない歯痒さに彼は頭を抱えた。
「適合者、って」
会話を聞いていたハヤトがポツリと呟いた時、後ろから急にシャショットが現れた。
「適合者はいるのでございまーす!」
シャショットはその場でくるりと一回転すると、ハヤトの腕の中にすっぽり収まる。
「この少年でございまーす!」
「えっ、俺!?」
どういうことだと周りが一気に騒がしくなる。そんな彼等を宥めるように、シャショットは「手をお借りいたしまーす」と彼の手を引いて自分のお腹に当てた。
すると、またもやディスプレイに数字が表示され、それは一気に増加する。68、74、80と先程と同様に上がっていき、そして96.50で動きは止まった。
「適合率96.5%!?」
「なに、なんのこと?」
目を見開くホクトに、ハヤトは小首を傾げる。アサヒも何が起こっているのか分からず、ハヤトと彼の父親を交互に見比べた。
「すごい……」まるで、希望の光が見えたとでも言うように湧き上がる歓声。だが、本庄は大事なことを忘れている彼等に言葉をかけた。
「いくら高い適合率の持ち主だからといっても、シミュレーターすらやったことがないじゃないですか!」
「シミュレーター?」
聞き馴染みのない言葉に、ハヤトは少し考えると「あ」と声を漏らす。心当たりがあるのか、背負っていたリュックからタブレットを取り出し、あるアプリを開いて画面を皆に見せた。
「もしかして、このゲームのこと?」
「いつの間に……。ハヤト、これやったのか?」
アサヒはホクトが操作するタブレットを横から覗き込み、ゲームの画面を見る。
"SHINKALION SIM"というタイトルを進み、アプリのランキング一覧からハヤトの名前を探すと、一番上――最高順位の所に彼の名前があった。
「ハヤトが一位……!?」
「それがどうかしたの?」
キョトンとするハヤトを信じられないといった表情で見つめる。
ずっと探し求めていた人物が現れたのまでは良かったが、その存在は子供で、しかも自分の息子だった。その事実をどう受け止めるべきか、彼は思わず息を飲む。
「ちょっと待って下さい!」
今まで彼等の会話を黙って聞いていた新人オペレーターの三原フタバが思わず声を荒げた。
「本当にE5に乗せる気ですか!? 彼はまだ子供ですよ!」
「しかし、このまま手をこまねいていれば、最悪のシナリオになりかねないのも事実だ!」
出水が言ったことも、フタバが言ったことも否定できない。マサキが「速杉さん」とホクトの方を向くと、彼もまだ迷っているようで俯いたままだった。