悩みと決意

超進化研究所での出来事から数日後。
あれから何事もなく冬休みが終わり、今日から学校が再開した。登校したアサヒが教室に着くと、上田アズサの周りをクラスの女子が囲んでいる光景が目に入る。

「アズサちゃん見たよー! この間アップしたJSが舞妓さんになってみた動画!」
「可愛かったー!」
「再生回数すごいことになってたね! 流石人気JSユーチューバー!」

彼女が動画をアップした翌日、クラスの女子がこうしてアズサの周りに集まるのはお馴染みの光景だ。
アサヒもいつもなら彼女たちに混じって感想を言いに行くのだが、その前にぼんやりと窓の外を眺めているハヤトの様子が気になり、彼に声を掛けた。

「ハヤトくん、おはよう」
「ああ、アサヒ。おはよう」

「なんか元気ないね」そう訊くと、ハヤトが遠い目をする。

「この間のことを思い出しちゃうと、現実とのギャップがすごすぎて……」
「ああ……」

確かに、あの日家に帰ってからしばらくは放心状態だったことを思い出し、アサヒも納得したように遠くを見つめた。

「でもさ、また敵が現れたらハヤトくんが倒しに行くんだよね?」
「うーん……」

あまり乗り気ではない反応に、アサヒは不思議そうに首を傾げる。てっきりそうだと思っていたのだが、違うのだろうか。
「実は……」ハヤトがそう言いかけたところで、二人の間に割り込むように誰かが入ってきた。

「なに話してるの?」
「うわっ!」

突然現れた人物に、二人して大声を上げる。
彼女――上田アズサは二人の大袈裟な驚きように少し表情をムッとさせた。

「なによ、そのお化けでも出たみたいな反応」
「ご、ごめん。ビックリして」

あはは、と笑って無理やり誤魔化す。彼女の様子を見る限り、どうやら今の話は聞かれていなかったようだ。
しかし、一向に目を合わせようとしないアサヒたちを怪しいと思わないはずがない。そんな二人の反応を不審だと感じたアズサが、ジト目で伺ってきた。

「なーんか怪しい」
「い、いや別に大したことじゃ……」

じりじりと追い詰められた二人に助け舟を出すようにタイミングよくチャイムが鳴る。慌ただしく席に着き始めたクラスメイトに混じり、アサヒも「席に戻らないと」とすかさず促した。
アズサはどこか腑に落ちないような表情になったが、担任が教室に入ってきたのを見て「また後でね」と席に戻っていった。



そして、帰りのHRが終わり放課後。
帰る準備を始めた生徒たちが多い中で、一人早々に教室を出て行った生徒がいた。
そんな彼を追いかけるように、慌てて教室を出た生徒も一人。

「ハヤトくん、待って!」

彼女が前方を歩く背中に呼びかけると、ハヤトは立ち止まって振り返った。
「一緒に帰ろう」そう言って駆け寄れば、彼はいいよと答える。アサヒは、朝から元気がなく溜息ばかり吐いていたハヤトが心配で追いかけてきたのだ。

「今日は研究所に行かなくていいの?」
「いやいや、学校始まったんだし。それに……」

言いかけたところで口を噤んでしまった彼は、その場で立ち止まる。確か、朝も何か言いかけたところでアズサが入ってきて話が逸れてしまったのだ。
アサヒは取りあえず歩きながら話そうと声を掛け、玄関で靴を履き替えると外に出た。

「実はあの日、研究所でお父さんたちが話してるのが聞こえて」
「なんて言ってたの?」

いつものようにアサヒたちが校門を出て左に曲がると、すぐ目の前で見慣れない物が宙に浮かんでいた。

「お待ちしておりました〜!」
「うわあ! シャショット!?」
「な、なんでこんな所に!」

アサヒとハヤトは慌ててシャショットを取り囲み、周りから姿が見えないようにする。早めに学校を出たのは正解だったようで、シャショットはまだ誰にも見つかっていなかった。

「ワタクシ、相棒のハヤトくんを待っていたのでございまーす!」

あたふたする彼等のことなど露知らず、シャショットは呑気にそんなことを言っている。
そこで、ハヤトの頭の中に一人の少女の存在が浮かんだ。

「ていうかヤバイよ! こんな所アズサにでも見つかったら……」

彼女のことだ、『初めてJSがロボットを捕獲してみた』という動画を撮って全世界にその動画を流す――なんてこともありえる。
そうなれば、アサヒたちの父や研究所の人たちの迷惑になってしまうだろう。それだけは絶対にあってはならない。

「あ、アサヒー! ハヤトー!」

噂をすれば、アサヒたちの後を追ってきたアズサが手を振りながらこちらに近付いてくる。
アサヒは大きく肩を跳ねさせると、慌ててシャショットを抱え、ハヤトの腕を掴んで走りだした。

「行くよ、ハヤトくん! シャショット!」
「うわっ!」

急に走りだしたアサヒのスピードにハヤトは付いていけず転びそうになる。しかし、なんとか持ち堪えるとアサヒに引っ張られるままに走った。

「……あれ?」

走り去っていく二人の後ろ姿を見て、アズサは不思議そうに首を傾げる。朝のことと言い、どこか様子がおかしいのは明らかだ。
しかし、彼女には何があったのか見当がつかなかった。

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しばらく走って人気のない道に辿り着いたアサヒは、ようやく足を止める。
「危なかったね」一息ついてハヤトの方を振り返ってみれば、彼は膝に手をついて荒い呼吸を繰り返していた。

「アサヒ、走るの速すぎ……!」
「わっ! ごめん、大丈夫!?」

なんとか呼吸を整え、汗を拭ったハヤトにシャショットが近付く。

「ワタクシ、ハヤトくんたちが研究所に入れないと思ってコレを持ってきたでございまーす!」

シャショットのお腹にあるスロットからShincaが出てきた。

「アサヒさんの分もあるのでございまーす!」
「え、私の分も?」

関係者じゃない人にそんなホイホイ渡してもいい物なのだろうか。しかし、せっかく持ってきてくれたのだからとアサヒはShincaを受け取る。
続けてハヤトもShincaを受け取ると目を輝かせた。だが、すぐに思い直したようで突き返す。

「いやいや、俺は俺で学校始まったんだし研究所には行けないよ」
「でも、E5の適合者でございまーす」
「そうかもしれないけど……」

ハヤトは昨日の、検査が終わって父親を探しに研究所内を歩いていた時のことを思い出す。
ホクトと出水、そして上層部の者らしき人たちが集まって話していたのが聞こえてきたのだが――その中でも、出水が言った一言が引っかかっていた。

『安易にあの子をシンカリオンに乗せろなどというのは、速杉指導長を苦しめるだけであるとご認識頂きたい』

その時の父親の思い詰めた表情を思い浮かべ、ハヤトは俯く。

「あの日のことは特別だよ……。それに、俺まだ小学生だしね」
「ハヤトくん……」

あの日、アサヒが帰った後に何があったのか事情は分からない。だが、彼がシンカリオンに乗る気がないことは理解できた。
シャショットもそれを察したようで、黙ってハヤトの様子を伺うように見ている。

「ごめん、シャショット。せっかく来てくれたけど……研究所まで送ってくよ」

「見つかるとまずいでしょ」そう言って力なく笑ったハヤトに、シャショットは何も言い返せなかった。

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学校から歩いて30分程。
目的地である鉄道博物館が近付いてくると、ハヤトのリュックに身を潜めていたシャショットからいきなり警報音が鳴った。

「大変、大変でございまーす!!」
「うわっ!」

リュックから飛び出したシャショットに、二人は何事かと驚く。しかし、次にシャショットの口から出た言葉に更に驚くことになった。

「漆黒の新幹線が出現したでございまーす!」
「漆黒の新幹線!?」

「漆黒の新幹線って……」アサヒは記憶に残っている例の動画の新幹線を思い出す。

「あの、動画でアップされてた新幹線のこと?」
「そうでございまーす!」

シャショットが言うには、漆黒の新幹線が現れると必ず巨大怪物体が出現するそうだ。そうなれば、E5――ハヤトの出番である。

「今こそハヤトくんが必要な時でございまーす!」

彼と目線を合わせたシャショットは、真剣な眼差しになって言った。
それでも――脳裏によぎる父親の姿に、ハヤトは苦痛な表情を浮かべる。

「できないよ。言ったでしょ、俺小学生なんだし……」
「そんなこと関係ないのでありまーす!!」

普段より幾分か大きな声がその場に響いた。

「ワタクシは、ハヤトくんが本当にやりたいことを教えてほしいのでございまーす!」

尚も力強い眼で見つめてくるシャショットに、ハヤトは目を見開く。

「ワタクシが出撃できたのは、全てハヤトくんのおかげ。一人では任務を全うできないワタクシには相棒が、ハヤトくんが必要なのでございまーす!」

シャショットの言葉が響いたようで、ハヤトの顔付きが変わった。思わずアサヒも励ますように彼の背中に手を置く。
力になってあげて――思いが伝わったのか、驚いたように振り向いたハヤトに微笑みかけると小さく頷いた。

「うん……分かった。行こう、シャショット!」

「ありがとう、アサヒ」決意を固めた彼に力強く頷いて、その背中を押し出す。
研究所の方へ走っていったハヤトの後ろ姿に、アサヒはただ一言「頑張れ」と声をかけた。
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