新たな運転士

翌日、すっかりいつもの元気を取り戻したハヤトを見て、昨日の悩みは解決したのだろうとアサヒはどこかほっとした表情になる。
しかし、その日にあった席替えで隣の席がアズサになった時は少し嫌そうな顔をしていた。ちなみに、アサヒはアズサの後ろ――ハヤトの斜め後ろの席になり、幼馴染三人が揃ったという訳である。

そして、今日から始まった久々の授業に少し疲れを感じつつも、何事もなく放課後になった。



「終わった終わった! 土日は何しよっかなー」

うーんと伸びて大きな独り言を言うハヤトに、アズサは呆れたように溜息を吐いた。

「何しよっかなって、どうせ新幹線三昧でしょ」

「ねー、アサヒ」と同意を求めてくる彼女に、アサヒは否定も出来ず苦笑する。そんなアズサの言い方が気に食わなかったのか、ハヤトも負けじと突っかかってきた。

「どうせって何だよ! そっちはどうせ動画の撮影だろ?」
「ふふーん、当然でしょ! 人気ユーチューバーは視聴者の期待に応えないと! アサヒも楽しみにしててね!」

今から既に張り切っているアズサに、アサヒも新しい動画への期待が高まる。次はどんな内容になるのか話を聞いていると、ハヤトの携帯から着信音が聞こえた。

「誰からのメール?」
「うわっ! いや、その……」

彼にメールが届いているのが珍しく、アズサが画面を覗き込むようにして顔を近付ける。ハヤトは咄嗟に携帯を後ろへ隠すが、その不審な行動にアズサは怪訝そうに顔を顰めた。

「怪しいわね……何そんなに慌てて隠してるのよ」
「隠してない、隠してない。本当に何でもないから!」

彼の焦った様子からアサヒはなんとなくメールの内容を察したが、アズサには当然分からない。
「それじゃ、また来週ー!」急いで帰り支度を整え、教室を出ていったハヤトを益々不審に思う。

「怪しい……。アサヒ、何か知ってる?」
「えっ、いや……どうしたんだろうね?」

どこかぎこちない返事をしたアサヒは、余計な事を言ってしまう前にそそくさと教室から出て行く。そんな彼女にアズサの制止の言葉は届かず、いなくなってしまった幼馴染たちに不満気に口を尖らせた。

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「アズサちゃん怒ってるかな……」

帰宅後、夕食を食べ終えたアサヒは部屋に戻って先程の事を思い出し、独り言ちるように呟く。
そのまま溜息を吐いて仰向けにベッドに倒れ込むと、いつものように動画アプリを開いた。まずは新着動画といきたいところだが、指先は自然と例の新幹線の動画へ向かっていく。

(ハヤトくん、あの怪物と一人で戦ってるんだよね……)

謎の新幹線が走っているだけの映像をただぼんやりと眺めていたアサヒは、寝返りをうった際にポケットに違和感を感じる。そこで思い出したように手を突っ込み、ある物を取り出した。

「コレ、返すの忘れてた……」

彼女の手に握られているのはShincaだ。あの時、流れでシャショットから受け取ったShincaだが、研究所に行くこともない自分が持っていても仕方がないだろう。
せっかく持ってきてくれたシャショットには申し訳ないが、研究所に返すことにした。

「お父さんに返しといてもらおう」

そうと決まれば忘れる前にと、アサヒは早速父親のいる部屋へと向かった。



「お父さん、入っていい?」

ドアをノックし、入っていいか尋ねる。中から「いいぞー」と返事が返ってきたのを確認すると、ドアを開けて部屋に入った。
すると、マサキはベッドに仰向けになりながらタブレットでゲームをやっている。

「やっぱり何度やっても同じかー」
「何やってるの?」

「ああ、アサヒ」机の上に置かれたタブレットを覗き込むと、画面には"SHINKALION SIM"――彼等がシミュレーターと呼んでいたアプリが映っていた。

「それってハヤトくんがやってたやつ?」
「そう、それを少し改良したんだ」

話を聞くと、どうやらシミュレーターがアップグレードされ、スコアに適合率の高さが反映されるようになったり、全国の人たちが自由に端末アプリやアーケードゲームで参加できるようになったそうだ。

「大人よりも子供の方が高い適合率を持っている傾向があるみたいでね。まずはハヤトくんのような、高い適合率を持った子供を全国から探しだすことにしたんだ」

敵も常に進化している。彼一人では太刀打ち出来ない状況にも陥るかもしれない。そのため、新たなシンカリオン運転士を全国から探しだす。それが超進化研究所の当面の目標だ。

「新たなシンカリオン運転士か……」

シンカリオンの運転士、という位ならハヤトのような新幹線好きな人だろうか。もしくは彼以上の人物が現れるかもしれない。
アサヒがまだ見ぬ運転士に思いを巡らせてると、目の前にタブレットが差し出された。

「アサヒもやってみるか? シミュレーター」

マサキからタブレットを渡され、アサヒは「いいの?」と受け取る。自分の適合率は何パーセントか、好奇心には勝てずアサヒも挑戦してみることにした。
父親に簡単にやり方を教えてもらい、アプリを開いて名前を入力する。そして、いざ始めようとした直後――画面が真っ暗になり反応しなくなってしまった。

「……充電切れだ」
「えっ!? あー、ごめんごめん!」

線どこだったかな、と充電ケーブルを探し始めたマサキに、今ので完全に拍子抜けてしまったアサヒは「また今度にするよ」と言い残し、部屋を出る。

(私がシンカリオンの運転士なんて、まさかね……)

少し期待してしまった自分に笑いつつ、そこで当初の目的であるShincaを父親に返していないことに気付き、もう一度部屋に戻ろうとドアノブに手をかけた。
しかし、何故かそこで手を止めてしまう。

「やっぱり、自分で行こう」

父親に任せても忘れていきそうだし――そう思い直したアサヒは、Shincaを再びポケットに入れた。

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アサヒが部屋に戻ると、携帯に着信があったようで点滅している。誰からの電話か確認すると速杉ハヤトと名前が出てきた。

「ハヤトくんだ」

どうしたんだろうと折り返し電話をかけようとした所に、ちょうど彼から再び電話がかかってくる。
アサヒは突然のことに驚いてスマホを落としそうになるが、なんとか寸での所で掴み電話に出た。

「ハヤトくん、どうしたの?」
『アサヒ! ランキング見た!?』
「ラ、ランキングってなんの?」

食い気味に訊かれ、アサヒは電話ごしにたじろぐ。彼は「そう言えばアサヒは知らないんだった」と呟き、焦る気持ちを抑えて説明を始めた。

『この前、俺が皆に見せてたゲームって覚えてる?』
「ああ、うん。さっきまで見てたけど、それのランキングがどうしたの?」
『出たんだよ!』

「出たって……」まさかと思い聞き返すと、ハヤトの口から出たのは予想通りの答えだった。

『高得点を出した人が他にも出てきたんだ!』
「本当!?」

ハヤトの次に85.6%と高い適合率を出した人物がいる。
しかし、彼の時と違ってスコアは端末ではなくアーケードゲームで出されたため、秋田県にいることは確かだがその人物の詳細は不明だった。

『秋田に俺みたいな人がいるかもしれない。会ってみたいな!』
「秋田か……」

ハヤトなら今すぐにでも会いに行ってくると言いだしそうな勢いだ。幸いにも明日は土曜日で学校も休みである。
だが、勝手にそんな行動をすれば怒られるだろう。それはハヤトも分かっているはずだが。

『よし! 俺、明日秋田に行ってくる!』
「ええっ!?」

――どうやら、アサヒの予感は的中したようだ。

怒られるよというアサヒの忠告には一切耳を傾けず、彼の気持ちが揺るぐことはない。
「じゃあね!」と一方的に電話を切られたアサヒは、もう知らないやとスマホをベッドに放り投げたのだった。
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