Sentimental Venus

6月。今月に入って一気に梅雨入りし、不安定な天気の日が続いていた。
テレビの天気予報でも連日の雨の予報が特集され、曇りのち雨だったり午後から晴れかと思えば雨が降ったり、天気予報に傘を持つかどうかで悩む日々。

「まだ帰らないのか?結構降ってきたぞ」

朝は晴れていたもののだんだんと曇ってきた空は既に真っ暗になっており、今日の部活動は全部中止で、運動部も文化部もさっさと帰って療養と校内放送が入っていた。きっと明日は台風によって休校になることも無く普通に学校になるのだろうけれど。そういう所だぞ。
私もそろそろ帰らなければと思うけど、朝鞄に入れたはずの折りたたみ傘がなかなか見つからない。

「傘が見当たらないの。先行ってて」
「おう」

今日は久しぶりに幼馴染みと話しながらこの前のテスト範囲の勉強を教えてあげたお返しに何か奢って貰おうと思っていたのに。
カバンの中やロッカーの中まで探したものの結局見つからず、不思議に思いながらも玄関へと向かった。
仕方ないから幼馴染みにでも入れてもらおうとその背中を探し、傘に入った。

「悪いけど、ちょっと入れてくれない?
傘忘れてきちゃったん…だけ…ど………」
「?おう。俺ので良ければいいけど」

アイツの傘だと思って気兼ねなく入ったのに、その持ち主は菅原だった。私は語尾が消極的になりつつも驚きでしかなく、ポカンとしたまま菅原を見つめていた。そうしている間も彼は呑気に「どうした?」なんて聞いてくる。

「えっ!?あ、ごめん菅原!
間違っちゃって……アイツ知らない?」
「実は俺今朝寝坊して傘忘れちゃってさ。「俺は折りたたみあるし」ってさっきこの傘貸してくれてな」
「そ、そっか!」

幼馴染とは家族ぐるみの付き合いがあって、何でも相談できる中。外見も性格もいいからか、高校入ってすぐに可愛い彼女ができ、3年経った今でもラブラブだ。そんなアイツに恋愛相談を持ちかけていた私は小さくガッツポーズをした。

「帰るべ」
「う、うん」

隣で傘を持ってくれている菅原をチラリと見て、うわぁぁと顔を抑える。いつもは普通に話せてるけど、こういう時何話せばいいかわかんない。通りかかった坂ノ下商店の引き戸に相合傘してる私達が映って、恋人同士みたいだなぁなんて思えてきた。

「名字さ、」
「う、うん?」
「テスト終わったらさ、今度の休みどっか出かけね?それとも部活?」
「いや、うちはもう大会終わったから何も無いけど菅原、バレーは?試合近いんでしょ?」

しまった。普通にうなづいていれば一緒に出かけられたのに。なんて思いつつも話を続ける。

「今度の日曜は体育館の点検があるから自主練だけだべ。
昼からになるけど………」
「行きたい!」
「だべ?
じゃ、今度の日曜は駅前集合な!」
「うん」
「つっても俺、お前と出かけたいってだけでバレーばっかだから、どっか行きたいとことか考えといてよ」
「はは、毎回そう言ってるよね。わかった」
「頼むな」

それじゃあまた明日、と別れてからふと気づいた。

「出かけたいと思ってるって、思ってくれてるんだ…………」

爽やかな外見と誰にでも平等に接する親しみやすい菅原とは、高校になってから出会った。班活動をきっかけに話すようになり、クラスが分かれても廊下などでよく話したりする。良い人から友達になり、気付けばふとした瞬間に彼を目で追っている自分に気がついた。
私だって、クラスも部活も違うからいつだって彼と話せるきっかけを探している。せっかくの機会だからと、自室に入るとすぐさまクローゼットを開ける。いつも通りの服じゃダメだよね……せっかく2人で出かけるんだから。いつもは澤村とか同じ部のみっちゃんとか、複数人で遊ぶけど。
晴れることだけを願って今度の日曜日のことを考えた。世間はさほど特別ではない日も、私にとっては特別な日。

すぐに時間は過ぎ、日曜日。
雨上がりの空は青く、最高の日になった今日は、遊んだり話したり、いつもと違う特別な日になった。

「………この前はお互いに傘なくてよかったよ。たまには2人でもいいな」
「それがさ、次の日机の上に乗ってたんだよね。
"ごめん"って書いた手紙と一緒に」
「え、窃盗!?」

菅原が驚くのを私は気にせず続ける。

「帰ってきたし、窃盗ではないと思うよ。それに、私的には菅原と出かけられて嬉しかったからいいんだけど……っ!?」

なんてことを口走ってるんだと口を抑えるものの、菅原はバッチリ聞いていたみたいで少し照れくさそうにしていた。

「私は偶然とか全然信じてないんだけど、こういうのも悪くないかなって思ったり……?
えっと、その………」
「おう」

うまく言い訳もできず、しどろもどろになりながら顔を隠すように下を向く。

「………ごめん、好きです」

この声が届くまでがヒロインへの5秒前。

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