われても末に 逢はむとぞ思ふ

「瀬をはやみ〜」と同じ世界線。数年後。
夢主は≠あんず。



「お仕事お疲れ様。そろそろ家出るけど、どこに車付ければいい?」
『ああ、スタジオの場所送るからそこまでお願い』
「了解〜すぐ行くからね」

今日は私の兄と友人の結婚式。大学で出会った彼女はバレーボール選手だという事で、私の兄もそうだと話したところすぐに意気投合した。紹介したのは私で、同じ競技に通じてるからか2人はすぐに仲良くなり、気づいた時には交際から籍を入れるところまで発展していた。
泉は高校を卒業してからもアイドル活動をしており、今日の結婚式に来るのも少し迷っていたけれど、「どうせ周りはスポーツ選手と友人ばっかりだから気にすんな」という兄の言葉で参加を決めた。

私は高校を卒業してからスポーツ医学の道に進み、卒業後はそのままリハビリテーションセンターやバレーチームのサポートをしている。高校までゴリッゴリの文化部だったから最初の頃はキツかったものの、今ではすっかり慣れてしまった。勿論趣味である切り絵は続けていて、時折制作しては個人サークルにてイベントに参加したりネット販売している。

時の流れは早く、その間泉と顔を合わせない期間も長かったけれど、あの日の約束通り彼はちゃんと私の隣に戻ってきた。今は親公認の恋人として半同棲生活をしているけれど、今のところ結婚とかの話は全然していない。

「おまたせいたしました〜。お疲れ様、泉」
「さっきまでレオくん居たしそこまで待ってないよ。ありがとうね」

夜にラジオ収録があった彼は新曲の制作のために所属事務所が所持しているスタジオで友人と楽曲制作をしていたのだと。切り絵でウェルカムボードやテーブルの飾りを作って欲しいと事前に頼まれていた私は設営のため朝早く式場に行かなければならず、泉を車で拾ってそのまま一緒に行く流れになっていた。

「俺のスーツは?」
「後ろ。式場で着替えさせてもらえるから、とりあえず寝てていいよ?式場少し遠いし、着いたら起こすから」
「そお?じゃあ遠慮なく。帰りは俺運転するから、呑んでいいよぉ」
「ほんと?やったあ!ありがとう泉」
「はいおやすみ」

スタッフさんとの打ち合わせもあるから私もあまり気合を入れて顔を作ってはいないので、式場で少し整えないといけない。今日は忙しくなるぞ、と思いつつも大好きな兄と友人の晴れ舞台を楽しみにしている自分が居た。

ウェルカムボードもバッチリ。アクリル板に嵌め込んで受付のすぐ隣に設置した。署名の重石も同じデザインのアクリルブロックにしているし、各テーブルに飾られている花瓶にも少しの飾り付けをさせてもらった。ずっと趣味で続けてきて、自己満足で終わるんだろうなと思っていたけれど、兄も友人もここまで評価していたのだと依頼を受けたときは嬉しくて泣いたものだ。

「準備できた?」
「うん。もう大丈夫!泉は着替えたんだね、私も顔作り直してこなきゃ……」

会場間際になると他の参加者さんも来るわけだし、プロのスポーツ選手や仕事上知り合ったトレーナーの人もいる。私は新郎の家族なのでもてなす側としてしっかりしていないといけない。

「あ、これ使って」

そう言って泉がポケットから取り出したのは、有名ブランドロゴが刻まれたのリップのサンプルだった。

「え、何?どうしたのこれ」
「プレゼント。今日まで本職と副業で忙しかったんでしょ?」

今日私が着ているドレスは泉と一緒に選んだネイビーのオールレースフィッシュテールドレス。腰に黒いリボンを巻いて大人っぽく、それでいて上品な服装をしているからそれに合わせたヘアメイクにしてきたけれど。

「これ、派手じゃない?大丈夫?」
「今の流行はこのくらい発色いいんだって。くまくんが今度CMで出すやつ、サンプルで貰ったから。
俺がこの前あげたやつつけてくれるのは嬉しいけど、今日はこっちね」
「ええ、本当に大丈夫?」
「何?不満?……前に俺があげたやつは名前に似合う色を選んだから、似合いすぎると他の男が寄ってきちゃうでしょ。
大丈夫だよ、どっちでも可愛いから」
「……そういうのズルい」
「顔の良い恋人を持つと大変なんだよ」
「それ、泉にだけは言われたくないけど。
……じゃ、ちょっと行ってくるね」
「はあい」



渋々と化粧直しに向かう背中を見送って、泉は所々名前の芸術作品で染まった受付に視線をやった。そこには既に数人の列ができており、車も続々と入ってきているみたいだった。
俺と名前の3つ上のお兄さん。小さい頃から俺とも時々遊んでくれて、太陽みたいによく笑う人だ。そんな彼が結婚すると聞いて、まっさきに思い浮かんだのは、俺はいつ迎えるのかという事だった。
メンバーや知り合いにそういう雰囲気はまだ無く、自分もまだ先でいいかなと思っていたのだけど、兄と結婚する友人は同世代で。彼女だって俺との将来を望んでいるとわかってはいるけれど、やっぱりまだ色々と不安になる。
友人の花嫁衣装を見て、彼女は何を感じたのだろう。
輝かしくも、その輝きが永遠ではないという事を高校の頃に学んで、それを何となくではあるけれど彼女もあの一件から察している。自分はアイドルで。彼女の周りがどれだけ有名選手で固められていたとしても、一般人だ。俺と一緒に生きて、彼女は本当に幸せになれるのだろうか。


なんて馬鹿な事を考えているんだろうねぇ。俺は。



「おまたせ!変なところない?」
「うん、平気。いつも通りきれいだよ」
「ありがとう。私たちもそろそろ席座っちゃおうか」

白を基調としたチャペルはとても綺麗で、数回こういった結婚式をテーマにした撮影は受けてきたけれど、身近な人の晴れ舞台だと思うと自然と背筋が伸びる。
いつも以上にキラキラした顔で話す彼女をさりげなくエスコートしながら「ねぇ、」と話しかけた。

「俺が早く仕事辞めてって言ったら、どうする?」
「何それ?いやだけど」

キョトンとしたあと間髪入れずに拒否を示した名前は当たり前のようにその理由を続けた。

「まだ続けるって決めてるの。泉が失業したら私が養うんだから」
「ふうん?
ま、それが聞けて良かったかな」

彼女の進路選択に俺との将来が考慮されているのだと自惚れてしまう。
好きなことも仕事も両立して順風満帆。でも、わざわざ美術の道一択ではなくスポーツ医学の道に進んだのは俺と過ごす将来を考えてのことだと知っている。確実な収入源がある職に就いたと同時に自分の夢を諦めない姿がとても美しかったし、とても嬉しかった。
実際仕事関係の人と話していたり、ウエディングプランナーの方にウェルカムボード作成の件で今後も是非依頼をさせて欲しいと声をかけられている姿は輝いていて、正直負けてらんないって思う。

「俺たちもさ、近い将来絶対こうなるんだから。今日はお兄ちゃんたちのことちゃんと見ておかないとねぇ」
「っ、いずみ」
「絶対後悔させないから」

俺は後悔なんてするわけがない。
俺を隣に置きたいと彼女が望んでくれたそれよりもずっと前から、ずっと隣にいると決めていたのだから。お前の隣にいて後悔するなんてこと、絶対に有り得ない。

「俺と、本物の家族になってください」


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