バレンタイン前衛戦

 バレンタインデー。去年にしろ、一昨年にしろ。その前にしろ。毎年、頬を赤らめた女の子が手作りなり市販品なりのチョコを持って、人気の少ない場所にオレを呼び出した挙句、「高尾くんの事、ずっと好きでした。付き合ってください」なんて定型文句を言う日だ。ぶっちゃけて言うなら聞き飽きた。
 まあ、勿論人前で出した事など無いのだが。そんな事言ったところで「リア充の僻みかよ〜〜」なんて小突かれて終わりなのが目に見える。人に好かれる。それ自体は喜ばしい。けれども、偶に思うのだ。"告ってくれたやつはオレの事見ているの?"と。交流の有無にかかわらず、オレの事を深く知らないのに。なんで好意を告げられるのだろうか。その勇気を無碍にするのは申し訳ないが、恋愛に現を抜かす暇があるのなら、バスケに現を抜かしていたい。
 
 ――と去年までのオレは思っていた。けれど、今年は違う。だって、今年はオレに恋愛的な意味合いで好きになった人が居るのだ。好きになってしまったと言うべきか。理由は全く分からない。けれど惹かれた。気付いたら、何もかも好きで堪らなくて、それを自覚したら苦しくなった。
 でも葛藤するのは止めたのだ。あのWCの日。並んで観客席へ頭を下げた時。横目で見えた、深々と九十度に曲がった身体を。
 来年、大学生になる。もう部活で喉が裂けんばかりの怒声を聞く事はない。真ちゃんと二人だけのレギュラー。オレに至っては、来年の座も危ういのだ。もっと研鑽しなくてはいけない。だから恋愛に現を抜かすなんて、とんでもない。
「でも好きなんだよなあ――!」
「うるさいぞ、馬鹿め」
「だって、真ちゃん!」
「だっても何もあるか。だからお前は阿呆なのだよ」
 平日なのに珍しく与えられた休養日のさなか。体育館の点検が行われるそうで、朝練終了後に監督から告げられたのだ。ここ最近オーバーワーク気味だったのを見事に容赦なく指摘され、部活どころかバスケに関連する全般の禁止令。監督の命令に従う他ないオレはこうして、監視役として巻き込まれで休養命令を喰らった真ちゃんと共に夕映えのオレンジ色が染める放課後の教室で二人仲良く椅子へ座っている。真ちゃんは練習に時間を取られた影響で積ん読にせざるを得なかった本の消化。オレはと言うと特に何もしていない。いや正確には先ほどまでしていた。だが、とっくに終えたのだ。自分の机の上に並んでいた課題の山々。その回答用紙の空欄は全て埋まっている。だから、暇を持て余していたのだ。オレの家は一七時にならないと、誰も帰って来ないから家の鍵は開かない。合鍵はちょっとしたトラブル(寝坊)に巻き込まれて忘れた。
 そんな訳で普段なら、さっさと帰っている真ちゃんを宿題という理由で引き留めて放課後の教室に二人仲良く居残りという訳だ。けれど、宿題は今さっき終わった。ぐっと背筋を伸ばし固まった筋肉を解す。
 後ろを振り向くと、初夏の新緑みたいに鮮やかな緑色にオレンジが差し込んで、ほんの少しだけ柔らかな雰囲気を醸し出す美麗がそこに居た。当然幻覚。本人は読書の真っ最中だ。しかもハードカバー。表紙からは内容が一切読み取れないが、中々に面白いものらしい。時折口角が持ち上がっている。ほんとに薄っすらとだが。後で借りよう。
 さて、思考が些か脱線してしまったが、問題は宮地サンだ。あの人に、どうやってチョコを渡すか。さりげなく市販品を渡すか、机の山に混ぜ込むか、それとも気合を入れて手作りを。
 そこまで考えて、オレは一気に恥ずかしくなった。手作りだなんて、ごりごりに本命を主張するものを渡してどうする。
「〜〜っ!?」
「高尾? 顔が真っ赤なのだよ?」
「いや、なんでもぉ!?」
「そうか?」
 いや普通に声裏返ったし。せめてそこにツッコミを入れろよ! と脳内で妙な反論を勢いよく返したところで落ち着け、落ち着けと一回深呼吸をする。だらだらと教室に居る訳にもいかないし、そろそろ帰るかと思い席を立つ。それだけで真ちゃんは何かを察したように、息を一つ吐いて本を閉じた。――パタン、と。
 
 ****
 
 帰り道。夕焼けどころか、薄明の中。二人連れ立って道を歩く。影は伸び切り、宵闇の中へ溶け込もうとしていた。頬を掠める風は冷たく、真冬である事を如実に表していた。いつ雪が降り始めるのか分からない中、チャリアカーを漕げという無謀な話は流石の真ちゃんも言わなかった。言われた時点で即拒否していたが。
 下らない話題が続く。住宅街に立ち並ぶ石壁は声を反響させるどころか吸い込ませるばかり。冬特有の静けさこそオレ達の下らない会話で掻き消えているが、数秒沈黙を保つだけで静寂は戻ってくるだろう。オレらに限ってそんな事は有り得なかったが。
 さて、もうそろそろ分かれ道だろうか。と言う中で真ちゃんが淡々とした声音で突拍子もない話を振ってきた。
「それで? バレンタインはどうするのだよ」
「いやー……えーっと?」
「宮地サンへ渡すんじゃないのか」
「はぁっ!? いや、えっと……」
「なんだ、渡さないのか?」
 この堅物を額に嵌めこんだような男がバレンタインという言葉を口にしただけでなく、宮地サンへのアプローチに使わないかと言う疑問。とんでもない衝撃だった。そりゃあ、こいつが意外とお茶目なところがあるのはこれまでの付き合いで分かってはいたが、それとこれとは別の話だろう。
 しかもこいつオレが宮地サンへ本命チョコと呼ばれる類を渡すと確信してやがる。あぁ、全くその通りだが、なんとなく素直に言うのも癪に感じた。が、いつの間にか話術が上手くなっていた相棒の言葉に誘導されるがまま、多少逆ギレ気味に吐き出してしまったのだ。
「渡さねえとは言ってねえじゃん! ……あ」
「ならば、渡せばいい」
「いやいや、今のは無しっしょ!」
「一度言った事を撤回するな。ではまた明日」
「おい、待てって! ……だー、もう!」
 爆弾を落とすだけ落として、さっさかと己の帰路へ進んだ相棒を憎らし気に睨むも、もうどうにもならないなと肩を落とす。一度言ってしまったものは仕方ないのだ。あの堅物男の前では"やっぱなし!"は通用しない。つまりオレは意中の人――宮地サンにチョコを渡す事がこの瞬間決定したのだ。
 あぁ、相談なんてしなければ良かった。そう思いながらも時すでに遅し。オレは当日、どうやってチョコを渡そうかと考える羽目になってしまったのだ。
 
 ****
 
「お前は馬鹿なのか」
「いや馬鹿じゃねえんだけど!?」
「ではアホだな」
「アホでもねえって!!」
「そもそも下手な小細工をしようと考える時点で無意味だろう」
「……はぁー!?」
「宮地サンは決して鈍感な人ではない」
 半月に一回ある全休日。真ちゃんのラッキーアイテム確保に駆り出されたオレは休憩に入ったファミレスでバレンタインにどうやって渡そうか決まっていない事を言ってみた。ら、この罵倒の嵐である。宮地サンが人の想いに敏感って、それは真ちゃんと比べての話で。普通の人からすれば十分鈍感の部類ではないか。現にオレの恋心だって1ミリだって気付いていない。
 じゅごごとドリンクバーから持ってきたメロンソーダを啜りながら、渋面を作った。若干愚痴っぽい言い方になってしまったが、あの人の頭はいつもバスケばかりだ。それはオレだってそうだし目の前に居る緑頭もそう。
 だから、ぶっちゃけて言うなら自分の気持ちにだって向き合っている余裕なんて今まで無かった訳で。WCが終わって、黒子の誕生会に参加した辺りから徐々に余裕が出始めてきたくらいなのだ。
「というか、恋愛相談をオレに持ちかけるな」
「いやいや!! さっきまで、バリバリ返答してなかった!?」
「それとこれとは話が別だろう」
「一緒に思えるんですけどお!?」
 ばっさり。にべもない。あぁ酷い相棒だ。思わずゴツンと重たい音を鳴らしつつファミレスのテーブルに額を落とした。勿論しょげたフリだが。現に目の前に居る相棒様は抹茶オレなんて可愛らしいものをゆったり飲んでいる。大体こいつだって、かのキセキ。チョコの十個や五十個は貰っているだろう。それでこの返答。本当に恋愛事に疎いのか、それとも呆れかえっているのか。
 "お待たせしましたー"などと、休日真っ盛りなこの時間にも働いているウェイトレスさんの手によって、注文したものが届く。ガッツリ肉が食べたかったので、ハンバーグと人気サイドが乗っかったの。真ちゃんは何を選べば良いのか分からず、結局サラダパスタに突っ走った。女子かよ。
「チョコこそ貰った事があるが、オレは誰かと恋愛などした事ないのだよ」
「え、告白とかされなかったのかよ」
「オレが? されるように見えるのか?」
「……いーや、お世辞にもそうとは言えねえや」
「だろう」
 もしゃもしゃとパスタについていた葉物を食べている姿は、うさぎのようだと一瞬思いつつ自分も肉を貪っていく。初めの頃こそ、大人しい草食系だと思っていたが、蓋を開けてみれば、とんでもない奇天烈面白人間だったものだから。こうして今でもつるんでいる訳だけど。
 下らない事を駄弁りながら食事を進めれば、男子高校生の胃袋も相まって完食するのに然程時間はかからなかった。無事にラッキーアイテム候補も集まった事だし、今日はここで解散しようと言う事で話は纏まった。昼間の混雑時というのもあり、予定が決まればあっさりだ。会計は面倒なので、席で料金を出し合い支払う人を決めれば後は一括。
「また明日なのだよ」
「おう、また明日な」
 ずらずらと並んでいる人波を横目にファミレスから退店すれば、真ちゃんとはそこで別れた。珍しい全休日というのもあり、バレンタイン用の材料を買いに行こうと家から近所のスーパーへ向けて足を動かすのだった。
 
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 緑間と別れた足で、そのまま製菓店へ。下手にプロ仕様なところを見に行ったところで仕方ないだろうが、一度は色々見て置くべきだと言う妹ちゃんからのありがたいアドバイスに従い、こうして足を運んだ訳だ。
 生まれてから16年。こういう店には縁など欠片も無かったが故に、扉を潜るのですら多少の緊張が走り関節の動きが思考についてこない。製菓店には二種類あり、調理器具や食器、ラッピング用品をメインに扱うところ。食品をメインに据え、ラッピング用品などはあくまで最低限という所。今回はネットで見掛けた店舗紹介のまま、食品メインのところにした。理由は特に目立ってない
 黒目をあちこち転がし、店内を見渡す。バレンタイン間近だからか、専用のコーナーがありそこへ向かって一直線。製菓から縁遠そうな男が居るからか、若干視線が居心地悪い。ケータイの未送信メールを開きメモを確認する。
 妹ちゃんからのお使いと、自分用の材料を確認すれば商品の値段を確認しながら、あれこれポイポイと籠に入れていく。妹ちゃんは友達に渡す用だと輝かしいばかりの笑顔で告げてくれた。ので兄としては余計な心配をする必要は全く無い。嬉しいやら、なんやらで多少複雑な気分だ。
 メモと、籠に入れた商品を何度も見比べ買い忘れが無いかを念入りに確認する。流石にリターンして買い直す勇気はない。
 随分と重くなった籠を片手にレジへ向かう。意外にも並んでいる人はゼロ。あっさり会計を済ませ、ポイントカード作成勧誘にはきっぱりと遠慮の意志を示すと、持ち込んだエコバックに品物を詰めて貰う。ぶっちゃけ商品の詰め方など1ミリも分からないので助かった。
 マニュアル通りの退店の挨拶を背に、帰路へ着く。
「高尾じゃねえか、随分大荷物だな」
「へ? ……え、ぁ宮地サン!?」
「おいおい、なんだってそんな驚くんだ」
「いやあ……だって、宮地サンこういう通り来なさそうなので」
 17時を知らせる時報があちこちのスピーカーから響き渡る。曲はなんだったか、小学校の時に音楽の授業で習った記憶があるが、覚えていない。音楽の授業なんて退屈なもの筆頭だから、真面目に聞いてなかった。
 マジックアワーが終わりかける、柔らかな金色が薄れ夜はもう直ぐ隣だ。随分重くなった荷物を片手に帰路を急いでいれば、突然かけられる声。こんな時間に誰だと思う間もなく、耳に飛び込んだハスキーボイス。分かってしまう。けれど、驚いたフリをした。
「ここロードワークのルート」
「あ、あー……そうだったんすね」
「逆に聞くがお前はなんでココに?」
「オレは妹ちゃんに買い出し頼まれたので」
「……バレンタインか?」
「そうっすけど、良く分かりましたね」
 宮地サンが何故こちらの目的を察する事が出来たのか。それは不明だが、こうしてだらだらと喋っている間にも宮地サンの身体は冷えてしまう。ロードワークの邪魔をしてはいけない、そろそろ立ち去るべきだろう。と思ったのも束の間、何故か苦々しげな顔でこちらを睨む宮地さん。
 一体どうしたのだろう。とりあえず、こういう時下手に突くと碌な目に合わない。生ものを多少とはいえ抱えているのでさっさと帰ってしまおうと、宮地サンへ軽く会釈をして挨拶をすればそのまま走り出す。
 バクバクと心臓がうるさい。だってびっくりしたのだ、あんな何かの期待が外れたような顔。何かを押し殺すような目の伏せ方。初めて見たから。
 肌を裂くような冷たい風が今はありがたかった。
 
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 駆け込み寺へと向かう気持ちで家へと滑り込む。バタバタと足音が家中に響き渡った。リビングでオレの帰りを待っていたのだろう。妹ちゃんが、何事と言いたげな顔で玄関に向かってきた。一先ず、妹ちゃんへ買ってきたものが入ったエコバックを渡すと、自室へ向かう。
 どさりと荷物を下ろし、着替えもせずベッドへ転がる。
 びっくりした、びっくりした。心中そればかり。宮地サンはオレに一体何を期待していたのだろうか。分からない。しばらくの間、枕に顔を埋めればうめき声をあげる。大声を出す気力もない程、オレの頭は宮地サンの事で占領されていた。
「お兄ちゃん!!」
「えっ!?」
「もう、チョコ作るから手伝って!!」
「お、おう! 分かった、分かったから!!」
 いつの間にか妹ちゃんがオレを見下ろしていた。蛍光灯の陰に隠れ表情は分からないが、相当お冠らしい。ふと時計を見たら、オレが帰ってきてから一時間は余裕で経とうとしていた。なるほどこれは怒る。妹ちゃんの背中を軽く押し部屋から出ていってもらうと、慌ただしく着替えていく。汚れても構わないラフな服。何しろ今から、チョコ作りなのだから。
 
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 そうして迎えたバレンタイン当日。オレら一年生は普通に授業があるが、三年は違う。センター試験を終えた先輩らは、結果がどうあれ本命の受験へラストスパートをかける時期だからだ。もう終えている人も居るが、宮地サンは一般。大学によってはもう試験を終えている筈だが、どうだったか。そこまで詳しく把握していない。
 とにかく三年が自由登校になっている期間。今日来ているかどうかは全く分からないが、来ていないなら家に突撃していく心づもりで居る。いやまあ、多分居るだろう。三年女子とかその辺の呼び出しで。あ、なんか苦しくなってきた。
「しーんちゃん!」
「……何なのだよ」
「これあげるわ、副産物!」
「あからさまな余り物だろう」
「ちっげえから! 相棒からの贈り物ってやつ!」
「ふん、なら受け取っておいてやるのだよ」
 流石に校内で渡すのはリスクが高すぎる。その為、通学路で押し付けにかかった。ビニールに包まれた甘さ控えめのチョコクランチ(ビター)。真ちゃんは甘党だから、甘ったるく作ってあるとは言え使った材料も何もほぼ一緒だから、余り物と言っても差し支えない。
 真ちゃんもなんとなく察したのか、特に文句も言わずシンプルなラッピングのそれを受け取ってくれた。
 なんだかんだで丁寧にバッグへ仕舞ってくれた真ちゃんの姿に、些か擽ったい気持ちを覚えるも、朝練へ向かった。オレらのやり取りが、蜂蜜色の視界へ入っているなどちっとも知らずに。
 
 朝練、授業と来て、さあ放課後だと部活へ向かおうとしたが、急な体育館点検により中止の報せが現部長の裕也サンより届けられた。なんでも二年の先輩らが体育の授業中に、照明が不審に揺れているのを発見。その点検の為、体育館は明日まで閉鎖だそう。
 突然ぽっかり空いた予定には戸惑ったが、やる事は一緒。どっかかしらのストバスコートか、市営の体育館か。練習出来る場所を真ちゃんと検討していれば、校門近くを歩く蜂蜜色が視界を掠めた。ガタンと大きな音を立ち慌ててカバンを引っ掴む。驚く真ちゃんには心ばかりの謝罪を。「気持ちが籠ってないのだよ!」という怒声を後ろに、廊下を走っていく。早歩きするなどという考えは消え失せていた。
 走る、走る。頬を切る風は、教室中で焚かれた暖房のせいか酷く生温い。何故だか教師の姿は見当たらない。捕まらないのは良い事だと言わんばかりに速度をあげた。バッシュじゃない、ただの指定用上履きは酷く走りづらい。でも、そんな事どうだっていい。
 靴を履き替える間も惜しい、踵を踏み潰して外履きへ。パカパカと揺れるスニーカーが心許なくて。一秒でも早く、あの人を捕まえたい。そんな気持ちとは裏腹に、教科書が詰まったカバンは重いし、急に走り出したせいで息があがりやすい。ぜいぜいと、オレの呼吸音。ばくばくと、喧しいオレの鼓動。
 見苦しい走り方だろう。頬どころか耳も痛くて。コートも羽織っていないから、制服の布越しに感じる冷たさがより焦らせる。だって、あの人は寒いのが苦手だから。普段よりも歩く速度があがっているのだ。
 前方に入った黒と蜂蜜。冬の太陽を反射して輝くその姿が視界に入った瞬間、締まっていた喉をこじ開けて叫ぶ。
「宮地ッ、サン!!」
 驚いたのかその人が肩を跳ねさせる。その後、こっちを振り返った。今のオレ、どんな風に見えているのだろうか。そんな事を考える余裕は無くって。鞄から、シンプルだけどオシャレに仕上げたつもりのチョコを取り出す。呆然としている宮地サンの胸元へ、それを押し付けた。反射で持ったのを確認し、離れる。荒い息を無理矢理抑え込むと、「今返事しろなんて言いません。けど、あんたの為に作ったから捨てずにその腹ん中へ納めてください」とだけ言って、深々と一礼。顔も言葉も確認する事無く、「そんだけなんで!!」と言葉を投げ掛けると、学校へ逆戻り。
 言い逃げもいいところだ。でも、オレの本音はちゃんと伝えられたから。後は、宮地サン次第だ。
 冬の太陽が地面を柔らかく照らす、寒々しい日。オレは宮地さんに思いを告げたのだった――。