ビタミン


※錦戸さんがNEWSを脱退した時のお話です。
 苦手な方はご注意ください。









廊下の壁にもたれかかって携帯をいじる横顔は真剣に画面を見つめとる。
俺に気づいてイヤホン外して、こっちを振り向けば鮮やかな青いスカートが揺れた。
メンバーカラーにかなりこだわる奴やから、今日は章ちゃんとなんかあるんかな。

「亮ちゃんお疲れー」
「おん、お疲れ。どうしたん?章ちゃん今日雑誌の撮影やろ?」
「え、章ちゃん?なんで?」
「青い服着とるから章ちゃんやないん?」
「あははは!ちゃうよ。そんなメンバーカラーに縛られてないで?」

くすくす笑う顔はいつも通りなんやけど、なんやろ。
なんかいつもと違う気がする。
外したイヤホンから漏れ聞こえる曲は珍しく関ジャニ∞やないのに、ものすごく聞きなれた曲。
なんでこれ聞いてるんやろ。

「亮ちゃん待ってた。今日これで仕事終わりやろ?」
「そうやけど、なに?」
「デートせえへん?」
「はあ?」
「私と今からデートしてください」

今、見てるのはどっちなんやろ。
‘亮ちゃん’か‘錦戸亮’か。
梨子の顔見れば大体分かるんやけど、今はどっちなんか分からへん。
言葉は有無を言わせない多少の強引さがある。

「よし!行こう!」
「は、え、ほんまに行くん?!」
「うん!」

強引に手を引かれて道路でタクシーを捕まえる。
窓の外はすっかり暗くて、今からどこに行くつもりなんやろう。
なんで、今日デートするんやろう。
分からへんことばっかりやけど、聞こうと思って梨子を見てもただ笑顔を向けられるだけやった。






デートで横浜って。
しかも観覧車って。
ベタすぎてなんも言えへん。
平日で人も少なかったからなんか上手く気配を消せたからなんか、特に気づかれることもなく乗れたんはほんまに良かった。

「うわ!すごいで?めっちゃ綺麗!」

窓に両手付けて夜景を見る姿はほんまに子供っぽい。
楽しんでるならええけどさ、これってデートなん?
子供と保護者やろ。

「…なんやねん」
「ん?亮ちゃん見てる」
「やめろや」
「ええやんかー!よっ!イケメン!」
「きっしょ」

こっちをじっと見る視線に耐えられへん。
なんやろ。
いつもと同じやのになんか違う。
これは誰を見とる?

「最後やなーって思って」
「なにが?」
「錦戸亮とデートするん」
「別にこれからもできるやろ。デートっていうか保護者やけど」
「ちゃうやん。…NEWSの錦戸亮とデートできるんは今日で最後やろ」

眉を下げて笑った梨子にはっとした。
違和感の正体はこれか。
関ジャニ∞としての‘亮ちゃん’とNEWSとしての‘錦戸亮’。
その微妙なところを見とるからどっちかわからへんかったのか。
会う前に聞いてたんはNEWSの俺のソロ曲。
青いスカートはNEWSのメンバーカラー。
梨子は俺のことが好きや。
それは自惚れでも自意識過剰でもない、まぎれもない事実。
梨子はずっと‘錦戸亮’が大好きで、これからもずっとそう。
せやけど、‘NEWSの錦戸亮’は今日が最後。

「どっちが好きやった?」
「ん?」
「エイトとNEWS」

思ったより震えた声が出てもうて自分でびっくりした。
夜景を見つめる横顔にそう問いかける。
今まで一度も聞いたことがない、聞けなかったこと。
どっちが好きとか、どっちかを辞めろとか、いろんなことを言われてきた。
でも俺にとってはどっちがとかそういうのはなくて、どっちも‘俺’やった。
一番近くで見てきた梨子は、どう思ってるんやろう。

「私にとって‘錦戸亮’はビタミンみたいなもの。あったら元気になれる、最高のビタミン。誰にも負けない、元気の源」

穏やかに笑って髪を耳に掛ければ、腕に黄色いブレスレットをしとることに気づいた。
梨子が身に着ける、俺の2色。

「ビタミンの色は黄色と青。どっちも大事で、それぞれに効果があって、たくさんの人を元気にしてくれる。私は今日までその2つのビタミンをいっぱい貰ってきた。ほんで、明日からは一つになる」
「黄色?」
「ちゃうよ。黄色いカプセルに包まれた青いビタミン。効果は今までと一緒や。…いや、もっと強くなるかも」

梨子の瞳に夜景が映ってキラキラ光る。
弧を描いた口元はほんまに愛おしそうで、黄色いブレスレットをした手が青いスカートの上をすべる。

「私が好きなんは‘錦戸亮’やもん。どっちがとかないよ」
「……そっか」
「ぐもんやな、ぐもん」
「お前それ意味分かって使ってるか?」
「……分かるし」

メンバーカラーに縛られてないなんて嘘。
全身に纏うのは俺の2色のメンバーカラーで、表情に出すのは‘錦戸亮’への愛。
梨子が‘錦戸亮’を好きでいてくれるから、何しても好きでいてくれるって安心できるから、俺は自分の好きな未来を選択できる。
ありがとうな。


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