薄暗い家の中。辺りにはゴミが散乱し、ところどころに赤いシミのようなものがある。
そこで聞こえるのは、恐怖の記憶しかない声か。足音か。怒号しかなかった。
隠れるように身を縮ませ、守り合うように互いを抱きしめ合う。
機嫌が悪い時はあいつに殴られ蹴られ、時には刃物類まで出てくることもある。なんとか機嫌を損ねないように。気配を限界まで消して生きていた。食べる物などまともに用意されない。辛うじて渡された食べ物を二人で何日もかけて食べ、あいつの食べ残した物のおこぼれでしのいでいた。暴力を振るわれても、泣き叫んだりすればもっと酷く扱われる。子供の高い声は嫌いなようで、普段から声を出さないように息を潜めていた。
本当にギリギリの生活だった。家の外に出たことはなく、あいつが出かけている時が唯一の休息だった。






あの子が泣いている。あいつに踏みつけられ、蹴られ、ボロボロになっている。助けなければ、守らなければ。意思とは反対に、身体は動かない。ならばと声を張り上げるが、まるで聞こえていないかのようになんの反応もしない。なんで動かないんだ。あの子を助けなければ。あのままじゃ死んでしまう!

血に塗れ、ボロボロのあの子がこちらを見た。
その目は怖いほど暗く、空虚で。


"どうして、守ってくれなかったの?"

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