莉緒×鳴海



  貴方、綺麗な顔をしているわね』

風鈴の音のような、甲高い透き通った声が辺りに響いた。声をかけられた主は驚いたように目を丸め、読んでいた本から顔を上げる。

「え…おれ?」
『鳴海くん以外に誰がいるのよ』

我が物顔で手前の席に腰掛けて、少年の机に肘をついた少女の名前は山内莉緒。このクラスの者なら誰もが名前を知っているだろう、それほどまでにクラスの中心にいる彼女は、少年の顔を覗き込むようにまじまじと眺めてから『瞳の色とか、緑がかっていて綺麗ね』と言ってにこり綺麗な笑みを浮かべた。

「名前、知ってるの」
『クラスメイトなんだから当たり前じゃない。流石に下の名前までは知らないけれど。」

変なことを聞くのね鳴海って、クスクスと笑いながら莉緒は彼の手元に持つ本に視線を向けた。

『鳴海って休み時間によく本読んでるけど、読書好きなの?』
「え、あ…うん。」
『ふうん。ならミステリーとかも読むかしら?推理小説』
「まあ…それなりに」
『そう。私の彼氏もね、見かけによらず本を読むのが好きみたいなの』

貴方たち案外気が合うかもね、見た目のジャンルは真反対だけれど。見た目も派手で、台風のような性格をした彼女が言う"気が合いそうな彼氏"が、今後自分の人生に深く関わってくる男だというのを今の彼には知る由がなかった。