綾菜×こすず




くしゃりと財布の中にずっと居座り続けるその一枚の紙は、もう随分と前に期限が切れてしまったクーポン券で。いつかこの企画が落ち着いた頃に一緒に行きましょ、とした口約束は未だに叶わないままだった。

駅前にできたばかりのおしゃれなパンケーキ屋さん。甘い匂いが漂うそこの前を通れば一周年記念のイベントがやっていた。…そう、もう一年も経つのね。私達高校生にとって一年なんてものは長くてたまらないはずなのに、一瞬のように思えてしまうのは私がこの一年間ずっとゆるりと時に流されていただけだったから。

別に、喧嘩をしたわけじゃない。悪いのは全て私なのだ。私が立ち止まっている間に彼女が前を歩いて行ってしまった、ただそれだけのこと。追いかけなければ、動かなければ、と頭の中では分かっているのに足を踏み出せないのは恐怖によるもので。私が彼女に追いかけることで彼女の道の邪魔をしてしまわないか、…彼女まで壊してしまわないか。そんな小さな不安が足に絡みついて上手く動けない。

「…前はあんなに行列だったのに…」

彼女と一緒に前を通ったこの店はその頃オープンしたばかりとあって賑わっていて、長い行列ができていた。並ぶことが苦手な私はさっさと横を通り抜けたけれど、何せ甘いものが大好きな彼女はちらりと興味深そうに店内を眺めていて。

「行きたいの?練習時間までまだ少しだけ時間があるから、行きたいのなら付き合うけれど」
「んー。魅力的だけど、時間がない時に急いで食べたって美味しく感じられないわよ」
「それもそうね。なら、全部終わってからこのお店でお疲れ会でもしましょ」
「あら、いいわね。たまにはいいこと言うじゃない!」
「たまにはって、いつもの間違いじゃない?」

そうして前をはしゃいで通り抜けたのが確か2年の春のことだったと思う。その頃は新入生の歓迎イベントや学園の頂点にいたvalkyrieとの仕事で忙しかったのだ。すずもknightsの月永くんが「王さま」だなんて呼ばれ始めた頃で忙しかったみたい。まあknightsの事情は正直あまり知らなくて、仕事の話はお互いあんまりしなかったから。でも、宗と月永くんは仲が良いみたいだし話はよく聞いていたのよね。

また今度、と約束して気づけば夏を迎えていた。