みのり×荒船×穂刈




『こちら中津、前方約3メートル先に目標を確認。オプショントリガー穂刈の使用の許可を』
「こちら荒船。穂刈の使用を許可する」
「乗れ、中津。導いてやる、お前の手が届くところまで」
『オプショントリガー穂刈をセット!ギリギリ網が届くか届かないかってところです!背伸びして穂刈!』
「ああ」

目の前には黒く光りツノが生えた、カブトムシがいて。じりじりと夏の暑さの中麦わら帽子と網を片手に走り回るわたしは立派な虫取り少女だろう。半パンで膝に絆創膏でも貼ったらもっと完璧だったけど、生憎虫刺されが怖くて長ズボンだ。

穂刈に肩車をしてもらい木へと懸命に腕を伸ばす。そう、わたしたち三人は三門市から少し離れたところにある森へと繰り出していた。全ては忌々しき夏休みの課題のため、8月に入ってすぐの出来事である。




何故高校三年生にもなってこんなものをやらされるのか。わたしと荒船は終業式の日、課題の書かれた紙を見て目を見開いた。わたしたち3年生は受験勉強に忙しいから課題がないのが毎年の恒例なのに、その少し下ボーダー隊員は夏休みに自由研究を一つ行えと書かれていたのだ。なぜ。推薦入試が確定しているからか。

荒船の方をちらっと見たら、何故かちょっと嬉しそうで。なぜだ。自由研究って響きにワクワクしてるのかな。こんな課題小学生以来だ。

そこで荒船が穂刈を連れて早朝にわたしのところへやってきたということだ。「カブトムシを取りに行くぞ」と嬉しそうな顔で。いや、なぜ。なにゆえカブトムシ。

どうやら前々から憧れがあったようだ。虫とか苦手そうなのに…カブトムシは男のロマンっていうやつかな?しかも前日に罠まで仕掛けてるという準備の良さに呆れつつ現在に至るというわけです。

そっと手を伸ばし網にカブトムシが入った感触を確かめてから逃げないように出口を塞ぐよう片手て握りしめてキラリとした目で下を向く。

『荒船隊長!目標捕獲しました!』
「おう、良くやった中津」
『穂刈の威力は半端ないですね!』
「穂刈だからな」
『うちにも穂刈一台欲しい』
「高いぞ穂刈は」
「俺をなんだと思ってるんだ、お前らは」

捕まえたカブトムシを首からぶら下げた虫かごにしまいつつ、穂刈に肩車してもらいながら荒船のところへと向かう。ほう、上から荒船を見下ろすのも悪くない。でもまあこの森のなかで3メートル級でいるのはまあまあ危ないから降ろしてもらった。

『重くなかった?』
「軽い方だむしろ。なんなら走れるぞ、中津を担いで向こうまで」
『わ、面白そう!今度やろう!もうちょっと周りに何もないところで』
「やめとけ、危ねえ」
『えー』

ガサ、ガサ。虫かごの中で動くカブトムシを見つめながら口を尖らした。まあ確かに危ない。

「カブトムシは自分の体の20倍の重さまで引き上げることができると言われている」
『ほう』
「何をどこまで持ち上げられるか、また餌の量などを化学的に分析し性別で比べようと思う。」
『ほう。よくわからないけど荒船って実は虫博士だったの?』
「いや、博士って言えるほどは詳しくねえ。全て映画による知識だ」
『映画馬鹿の鏡だね』