綾菜×こすず



少し時間が余ったからすずのところに遊びにでも行こうかしら、と駅前のケーキ屋さんですずの好きなフルーツタルトをお土産に買って、すずがいるであろう放課後の教室に入ったところだった。

あら。  珍しいわね。

夕日が差し込むオレンジ色の部屋の片隅で彼女はこくりこくりとうたた寝をしていて。金色に輝く髪が、夕日に照らされ橙色に染まっていた。

私が近寄っても起きないことから相当疲れている様子で。まあ、それもそのはず、イベント事の多いこの時期はプロデューサーである私たちにも毎日のように仕事が回ってくるのだ。どうせすずのことだから全て受け持って、寝る間も惜しんで仕事をしていたのだろう。…もうほんと、この子ったら頑張り屋さんの鏡ね?

けれど、時期も時期だ。冷暖房完備の校舎内はコートがいるほどに寒いわけではないけれど、人気のない教室の中はやっぱり少し肌寒いから。ブレザーを着ているとはいえこんなところで薄着で眠っていては風邪をひいてしまうかもしれない。

肩に羽織っていた薄手のストールをそっと彼女にかけてやりつつ、机に無造作に置かれた紙をちらりと眺めた。想像通りそこには"スターライトフェスティバル"と書かれていて。あまり人の仕事を覗くものではないけれど、それを見て、ああやっぱりと思った。

12月24日、街がキラキラと輝くクリスマスイブはすずの誕生日だ。そして同日、クリスマスにあるS1指定のスタフェスにknightsも出場するらしい。まあ、出ないユニットの方が少ないか。すずのことだし、自分の誕生日があるからって休みを取ったりなんてしないだろう。薄々わかってはいたけれど、うーん、どうしよう。

去年は色々あってお祝いできなかったから今年こそはお祝いしてあげたいな、と思っていたのだけれど、

  無理して頑張りすぎちゃうところは、あの頃から変わってないわね』

どうせなら当日、と言いたいところだけれどS1前日に時間を貰うなんて以ての外よね。リハーサルやら準備やらで忙しいはずだもの。イブイブライブだってあるのだから、前日も無理だわ。

何事も最後まで必ずやりきるし彼女のことだから。たまには休憩しなさいよ、と言ったって素直に聞きはしないだろうけれど。

せっかく寝てるところを起こすのは悪いから、お暇しようかしら。これはすずのお土産に買ってきたものだから置いておくけれど、保冷剤はついてるからここに置いてても平気そうね。

ことり、と机の上にケーキの入った箱を置いて。すず、頑張り過ぎるのもいいけれど、身体を壊さないようにね、そんなメッセージを書いた。名前までは書いてないけれど、私だとわかるはずだから。

ふふ、起きたらどんな返事が返ってくるのかしら。スマホ操作は苦手だけれど、メールは慣れたらお手紙のやりとりみたいで楽しいのかもしれなあと。卒業までにはメッセージアプリの使い方くらいはマスターしたいものね。

誕生日のお祝い、少し遅くなってしまうかもしれないけれど。しっかり祝うつもりだから楽しみに待っててね、すず。