みのり



高校の合格通知を受け取って、中学の担任に見せたら驚かれたのを覚えている。あの中津がどうして、と。なんだかそれが嬉しくて、悪戯が成功した子供のようににししと笑ったのはもう何ヶ月も前のことだ。

そして憧れていた制服に身を通し、入学式を終え教室へと帰ってきたものの一番最初の学内イベントはテストだった。

『う うそでしょ』

思わず口から絶望の意が飛び出る。そんな入学してすぐにテストだなんてあるはずがないよね!と面白い冗談だと思って間には受けなかったのだけれど、紙が配られてくるではないか。おかしい。しかも普通に分厚い冊子型タイプだ。おかしい。おかしいよ…!

今日初めて会った担任の先生は基礎学力を測る簡単なテストだと言っていたけれど、配られた答案用紙を見て驚きすぎて目が飛び出たような気がする

……い、一問もわからない…

どうしよう!いや!どうしようもないけれど!あまりの難しさに周りの人たちが走らせるペンの音を聞きながらぽかんと紙を見つめることしかできなかった。えっ、進学校に入るためにそれなりに受験勉強だってしたけれど、こんなに難しいものなの…!?どうしよう、どうしよう。

そうだ!こういう時は!と筆箱の中から一つの鉛筆を取り出した。  否、取り出そうとした。うん?おかしい。空を切る指先に首を傾げつつ、今度は両手で筆箱を開いてみる。おかしい。いつも定位置に入っているはずのコロコロ鉛筆の神様が宿った鉛筆がそこに入ってなかったのだ。わたしの望みが絶たれた瞬間だった。つまり絶望である。

そのあとはどうやってこのテストを乗り切ったのかはわからない。

ひとまず記号問題は勘で埋めてみたし、数式も解くことは解いてみた。がしかし合ってる自信は一ミクロンもないのだ。神に祈ってみたけれど、神様はわたしの祈りに気づいてくれただろうか。せめて一問は合っててほしいところ。入学早々0点は笑えないもん。

はあ、とついた溜息はどんより重たい空気の中をかき混ぜるように溶け落ちてゆく。そもそもあの幸運のコロコロ鉛筆がなければわたしこの先この学校で生きていける気がしないし、最悪留年になる可能性だってある。入隊しようと思っているボーダーにも入れなくなるし、憧れの加古さんに近づく機会が無くなってしまうし、そんなの絶対許せなかった。