メア×宇井



つぷり。おなかに穴が開く。普段ならすぐに治ってくれるはずだけれど、最近はあまり食事もしていなかったから回復が遅くって。ああ、死んじゃうかもなあ、なんて他人事のようにぽつりと呟いたら、目の前の宇井の眉間に皺が寄った。いたいな。おなかに手を当てたら、生温い液体が手のひらにまとわりついた。あは、ひとみたい。どくどくと流れる赤色のそれは生温かく足を伝って地へと滴る。お腹を貫かれているはずなのに、何故だか痛みを感じなかった。
「あは……なんで宇井がそんな顔してるの」
「……うるさい喋るな」
「おかしーな、メア、喰種だよ。メアが傷ついたら宇井はうれしいでしょ」
「今は味方だろ」
だから喋るなって言ってるだろうが、と掠れた声が耳に届く。ぽかりと空いたおなかの穴を塞ごうと布を押し当てる宇井は焦ったように絶望したように目を揺らがせる。痛みは感じないのに、感じないのにねえ、――死んじゃったらもう宇井に会えなくなると考えたら寂しくて仕方ないな。抱きしめたいな、でも宇井は嫌がるかもしれない。手が真っ赤だから、宇井の白い服が汚れちゃうから。さっきおなかなんて触らなかったらよかった。
「うい」
「なに……」
「メアね、宇井とさいごに仲良くなれて、うれしかったよ」
力がうまく入らないけれど、必死に腕を宇井の方へ持ち上げる。汚れていない方の手で宇井の頬に触れたら、ひんやりとしていてきもちよかった。
「メア、宇井に出会えてしあわせ、だいすき」
「私は、幸せだとは言わないからな」
いつもだったらすぐにふりほどかれるのに、今日はいいみたい。頬に触れたまま、へへっとわらった。
「………うい」
「なに、」
「なまえ、よんで」
めあ、って。最後に絞り出すように言ったそれは宇井に届いただろうか。ずっと気づいていたの、宇井から名前を呼ばれたことないなって。お前でも、インプでもなく、小悪魔でもなく、本名であるメアと。
手に力が入らなくなって、頬から離れた。宇井が掴もうとするけれど、空を切って地面へと落ちる。もう手どころか身体も、目も、あかなくなってきた。もしかしたら耳ももう聞こえなくなるかもしれない。だから、はやく、ねえ、……はやく。
「メア」
宇井の薄い唇が、メアの名前を紡ぐ。よかった、届いた、うれしい、でももうメアはうれしいと笑うことができない。くやしいな。
「……ありがとう、お前がいてくれてよかったよ」
ありがとうだって、ねえハイル聞いた?いま、宇井がメアにありがとうって言ったんだよ、うれしいな。うれしい。
あは、もう思い残すことなんてないや。