莉緒×諏訪



どちらかの浮気が原因だとか、冷めたからだとか、そんな噂が何度も立ってるみたいだけれど。私たちが別れた理由は単純に多忙だったからだ。

『あら。諏訪』
「よー、なにしてんだ」
『特に何も。強いて言うなら、観察?』
「は、なんだそれ」

タバコを咥えて雑な動作で歩くこの男は、私と同い年で、どこぞの隊の隊長で、私の元恋人だ。といってもそれは高校時代の話なのだけれど。まだ私たちがボーダーに入る前、それなりに青春を送っていた頃の話で。

『あのサンバイザーをかけてる少年、関西からのスカウトらしいの』
「へー、まあまあイケメンだな」
『そ。イケメンなの』
「……おまえ、まさか食おうとしてねえだろうな!?何歳かは知らねえが相手は見るからにまだ高校生だろ!」
『あら、失礼ね。弟子にしようと思って狙ってるだけなのに』
「はあ?弟子ぃ!?」
『そうよ、なにか文句ある?』
「…向こうとの面識はあるのかよ」
『無いわ。私が一方的にあの子を知ってるだけ』
「……」
『なによその顔。ねえ、どうしたら振り向いてもらえると思う?A級の私の元に来なさいって言ったら来てくれるかしら?』
「あー、…俺だったらなんだこの女って思うけどな」
『それは貴方だったらでしょ。私は彼がどう思うかを知りたいんだけれど』
「だーっ、相変わらずクソ面倒臭え女だな!?」

ふん、それはこっちの台詞よ。と彼から目を離してサンバイザーの少年に視線を移す。

なんだこの女、ね。そんなの言われ慣れてるわよ。癖も性格のキツさも自覚してるもの。正直直したほうがいいのかと悩んだ時期だってあった。でも、それでも。あんたは文句こそ言うけれど、私から離れてなんて行かなかったでしょう?それは恋人という特別な枠組みから外れてしまったとしても。だからこそ安心して素を見せられるのよ。

  あ。

視線を感じたのかサンバイザーの彼と目が合う。その後ひらっと手を振ってみたらお辞儀を返されたからにやりと口元を緩ませた。

『…これは行けるわね』
「は?なにを根拠に」
『ふふ。女の勘よ!じゃあ行ってくるわ、あの子を手に入れる今世紀最大の告白をしに』
「あっ、おい!!」

ここから彼の元まで高さはそれなりにある。諏訪の言葉なんて無視してぴょんっと飛び降りた。そのまま華麗にグラスホッパーを起動して彼の元まで飛んでゆく。本部内でトリガーの使用不可とかそんなの知らない。私がしたいことを誰も止めることなんてできないわ。ギョッとした表情をした彼に向かってビシッと指を突き立てこう言いのけた。

『貴方。私の弟子になりなさい』

見えてないけれど観覧席にいる諏訪が此方を見て頭を抱えている様が想像できた。私が現れたことによって騒めいていたのが嘘みたいに静かになり、その静寂の中で彼のため息がここまで届いてきたような気がする。出た、山内さんだ、暴君、そんな小声で聞こえてくる。ほんっと煩いわね?!全員蹴散らせてやりましょうか?!まあ、周りは置いておいて今は目の前の彼のことだ。

「…いきなり現れた思ったら弟子て…」
『ええ、私貴方を気に入ったの。その容姿だけじゃない、貴方のそのステータスもね!』
「ステータス?」
『私の副作用よ。勝手に女の勘って呼んでるんだけど、その人が個性こう、伝わってくるというか見えるというか』
「なんやゲームみたいな話やなあ…俺には何が見えてるんです?」
『ふふ。貴方のはね!魅了よ!女の子の扱いが上手ってこと。まあ、簡単に言えばあれね、女たらし』
「たらし…」
『ええ。…そういえば自己紹介を忘れていたわね。私はA級狙撃手、山内莉緒。』

どう?弟子になってくれるわよね?

そう言えば彼は面白い人に目付けられてしまいましたわ、と笑顔を一つ落とした。これは承諾ってことでいいのかしら。彼は私とほぼ同じ、人を魅了することに長けたそれを持つ。そこに私は惹かれた。

私の戦闘スタイルは、まあ所謂色落としというやつだ。狙撃手の癖にグラスホッパーを入れてる大きな理由はそれで。長い髪も大きな胸も、トリオン体になれば外すことだって可能なのにそれをしなかったのも。

私の隊の隊長様はその戦い方を面白い、という。単純に私のスタイルが好きなだけなのかもしれないけど、それでも。冬島隊長のそういうところが私は好きだわ。

今世紀最大の告白に承諾を頂けて嬉しくて、背後にいる諏訪にピースサインを送った。