砂月×加古
「はぁい、神原くん」
俺が作戦室から出てすぐの角を曲がったところで見知ったロングヘアーの女性が一人、片手にタッパーのようなものを持って歩いていた。そして俺の姿を見かけゆるりと手を振る彼女にひやりと笑みが固まったような気がした。
『加古さん』
「ちょうど良かったわ、用があったの。いま暇かしら?」
『あー、えっと…あはは、』
俺にしてはしどろもどろな返事だ。なるべく彼女の持つ容器に目を移さないように、気づかないように視線をそらしながら『レポート課題が、』と話題を変えようと試みたがこうして機嫌の良い加古さんーー特に良い炒飯を持っている時の彼女はーー簡単には折れてくれない。神原くんならすぐ終わるでしょう、と。まあレポートは終わらしてあるから問題はないのだが、いや、問題はあるが。
『……新作、ですか』
「ええ。神原くんのために作ったの、食べてくれるかしら?」
はあ、と一つ大きく息を吐いてそう聞けば綺麗な笑顔で返された。どうやら今日も俺の負けみたいだ、そんなこと言われたら食べるしかないじゃないか。昔からそうだ、俺は唯一加古さんにだけは敵わない。
どうぞ、と招き入れた作戦室内には今日はマオはいないから。この広い空間に二人きりだ。それも見計らって来たのならば加古さんは確信犯だろう。