ランク戦を見にいくことが好きだ。年3回あるシーズンマッチのランク戦はもちろん、模擬戦や個人戦をぼうっと見ているだけでも楽しい。自分もB級だからという理由だけじゃない、戦いや各隊それぞれの戦術を見ているとわくわくするのだ。
 あーあ、わたしもいつか解説席座ってみたいなー。解説席ってA級の人かたまにB級上位の人が呼ばれたりするけれど、わたしたちB級中位は呼ばれることは少なくって。どうせ呼ばれたって隊長レベルの人ばっかりだよ、諏訪さんとか荒船とか。

「というわけで柚宇ちゃん、来シーズンこそわたしを是非解説席に!」
「え〜、やだ〜」
「なんで!」
「だってみのりん途中で寝たりしてそうだし」
「寝ないよ! わたしランク戦見てて寝たことないし!」
「うそだ〜」
「信用ゼロ! かなしい」

 防衛任務が終わり、帰宅までの間暇だったので太刀川隊室にお邪魔して柚宇ちゃんこと国近柚宇とお茶をしていた。
 話の流れで柚宇ちゃんにお願いをしてみたけれど普通にお断りされてしまった。つらい。A級でも寝そうな人いっぱいいるのに。ほら当真とか! でも彼はA級様だからたまに呼ばれてるので羨ましい。寝てはいないし結構的確な解説してるし、これが経験の差かあ……て思ったりする。
 B級上位に上がればわたしも呼んでもらえるかなあ、次のランク戦は6月にあるから……あと一ヶ月後だ。みんなに隠れて特訓しよう。目指せ解説席!


04 夢のまた夢


 ぽりぽりと持参した煎餅を食べながら柚宇ちゃんのゲーム技術を見ること数時間。何度も何度もお願いしてみるけれど断られ続けて。うわーん! なら誰にお願いすればいいんだ! 桜子ちゃんに声かけてみようかな。加賀美ちゃんとかオサノ氏実況やったりしないかなあ。今ちゃんの実況も見てみたいかも。
 どうすれば解説に呼ばれるのか、作戦を練ってみる。柚宇ちゃんにゲームで勝ったら呼んでほしいとかどうだろう。いやいや彼女に勝てるわけがない、却下だ。と考えたところでシュンと隊室の扉が開いた。

「お。中津」
「太刀川さんだ、お邪魔してまーす」

 気怠げに入室してきた太刀川さんに挨拶がてら煎餅を握りしめた右手をあげたらさらっと奪われてしまった。ラスト一個だったのにわたしのおにぎりせんべい……。

「中津暇なら試合やろうぜ試合」
「太刀川さんと戦ったりなんてしたらわたしのポイント5くらいになっちゃうからだめです! B級から落ちちゃう!」
「おまえいまポイントいくつだっけ?」
「えっと、確か8400くらい……? はっきりとは覚えてないけど」
「へえ。まあまああるじゃねえか。ちょっとくらい減ったって平気だろやろーぜ」
「これでもカゲにいっぱい取られたあとなんですよ! もう少し貯めてからにしてください」
「影浦と戦うなら俺もいいだろ。俺から奪えばいいじゃねーか、随分弱気だな」
「カゲは頑張れば勝てるときもあるし、同じスコピ使いとして勉強にもなるけど、太刀川さんにはボロボロにされる未来が見えてます。勝てない相手と戦うほどわたしは馬鹿じゃありません!」
「はは、馬鹿だけどな」

 太刀川さんに馬鹿って言われて悔しくて頬を膨らまして威嚇した。ついでに煎餅の呪いも一緒に向けてやる。
 太刀川さんのが馬鹿だもん、戦闘お馬鹿さん。頭の良さだって同レベルだと思うし。太刀川さんの学力はっきりとは知らないけれど、この間「俺が射手になるならアステロイドの形は切り餅にしたい」と真面目な顔で言っていたもん。お馬鹿だよ。

 ポイントに関しては荒船が弧月使いの時にバチバチとやりあった形跡が残ってて、意外にもマスタークラスのスコピ使いである。ちなみわたしは弧月ではない、スコーピオンだ。色々使ってみて体に合ったのがスコーピオンだったから。弧月もたまにお遊びで使ってみたりするけど自由に動かしにくいんだよね。スコーピオンに慣れすぎてて難しく感じちゃう。旋空弧月はかっこいいなって思うけど。旋空スコーピオンとか誰か作ってくれないかなって思ったけど、普通に飛ばそうと思ったら飛ばせるからいらないか。そこがスコーピオンのいいところだしねえ。

「あーあ、解説席座ってみたいなあ」
「中津が? やめとけやめとけ、醜態晒すだけだぞ」
「太刀川さんまで!」
「どうせ今のすごかったなーとかかっこいいしか言えねえだろ」
「うっ」
「最後の締めでも今日の戦いは面白かったですとか小学生の作文かよ」
「まだ言ってないのに!」
「言うだろ?」
「否めない」

 確かにしっかり解説できないかもしれない。戦いに見入ってしまって、普通に観客になってしまうかも。それはだめだ。とりあえずわたしはこれから夢に向かって色々特訓をしなくてはならないということだけはわかった。東さんとか風間さんが解説の時はよく聞いておこう。ちゃんとメモもする。
 B級中位が嫌ってわけじゃないけれど、いつか上位に上がってみたいものだ。知り合いだってたくさんいる。犬飼とかカゲとか水上とか王子くんとか。もともとA級だった人もいるから特殊だけれど、あまり戦ったことない隊ばっかりだから新鮮味があって楽しいんだろうなあ。
 と考えたけれど上位に上がるということは中位の人とは戦う機会が減ってしまうということで。うーん、荒船隊と戦えなくなるのは寂しいかもしれないな。荒船は数ヶ月前に狙撃手に乗り換えてしまったし、前みたいに頻繁に試合する機会が減ってしまって。たまにブースに顔を出したりはするけれど、それでも減ってしまったことに違いはなくって。ランク戦くらいでしか彼とまともに戦える機会がないのだ。

 正直荒船が転向するまで攻撃手も狙撃手も、ボーダーの仲間に違いはないんだからそこまで変わんないだろうって思ってた。
 でも、でもね。実際は違うことが多くって。
 たまに狙撃手訓練場に行くことがあるのだけど、見たことない笑顔で楽しそうに、時には悔しそうに訓練するわたしの知らない荒船がそこにはいて。見るたびになんとも言えない気持ちになってしまうんだ。狙撃手になってから荒船は、なんだかとても遠い人になってしまったような気がしてしまう。

 それがものすごく寂しくて悔しかった。引っ張って、戻ってきてって叫びたいような気持ちになる。でもそんな事できないし、それになんだかその感情って……すごく醜いものなんじゃないかって思ってしまうから。
 だって荒船はさ、夢を叶えるために狙撃手になったわけで。それが嫌だと思ってしまうのなんて、普通に友達として良くないなあって思うから。なるべく考えないようにしていて。

 もやもやのもや。この気持ちがなんという感情なのか、わたしにはわからない。言葉にできない。でも、うん。だからといってわたしまで狙撃手になるつもりは無くて。そもそも向いてないと思う。遠くから敵をじっと待ち伏せていることなんて、できっこないから。

「A級になりたいなあ」
「そこまでして解説席座りたいのかよ」
「あの席にはボーダーの夢とロマンが詰まってるんです!」
「中津はA級に上がったとしても呼んでもらえなさそうだけどなー」
「それはつらい」
「ははは」

 けれども寂しく思うのは事実なので、これ以上彼との距離を感じたくないなあ。なんて。
 わたしのちっぽけの頭ではどうしたら正解なのかわからなくって。いっそのことわたしのほうから遠くなってしまえば寂しさが紛わされるんじゃないかとか、考えたりもしてしまう。でもそんなことしたって結局何も解決していないから。ああ、ぜんぶ神様が答えを教えてくれたらいいのに。

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