ふたりの目線
季節は秋。ボーダーまでの道のりに並ぶ銀杏の木は黄色く色づき始めて、もう少しで柔らかくて独特の香りのした木の実が落ちてくるのかもしれない。茶碗蒸しの中で見つけたらちょっとうれしいあの木の実。
ブレザーの下にまだニットは着ていないけれど、少ししたら必要になるかもなあ、と思いながら隣を歩く荒船に「今日は一段と寒いね」と声をかけた。冷たい風が強く吹き付けるたびにふるりと震えてしまう。
「夏に比べりゃ過ごしやすい気温だが……流石にそろそろ寒くなってきたか」
「一気に気温が下がったよねえ。もう少ししたらボーダー本部にも暖房がつきはじめるかな」
「かもな。基本トリオン体だからその恩恵に気づきにくいけどな」
「まあ確かに。でもさ、寒い外からあたたかい室内にはいったあの瞬間とってもしあわせだよね」
「去年も言ってたな、それ」
「そうだっけ」
ボーダーについて、本部入り口へ足を踏み入れれば自動ドアが開く。中は二重になっており、ふたつめの自動ドアの前で手持ちのセキュリティカードをかざすことでようやく入ることができる仕組みだ。
ピッ、軽い音を立てて扉が開いた。その瞬間にぶわっと入り込むあたたかな空気が大好きで、寒い季節の楽しみの一つなんだけど、でも今日は暖房はまだついていないみたい。ちょっと残念。
そろそろさつまいもやかぼちゃのスイーツが出始めるね。ボーダーの食堂でたまに出会えるかぼちゃプリン、今年はたくさん食べたいね、となんでもない会話ばかりを繰り返しそれぞれの隊室までの道を歩いてゆく。あ、そうだ。防衛任務までの間少し時間があるから個人戦しようよ、そう荒船に声をかけるため顔を上げて、彼の姿をしっかりと視界に入れた。その瞬間に、自身の目線が以前よりすこし高くなっていることに気づいた。
あれ。荒船って、こんなに背が高かったっけ。
じい、と見つめていればわたしの視線に気づいた荒船がなんだよと言って不思議そうに目を細めた。
「荒船、背、伸びた?」
言えば荒船は「そうか?」とわずかに考えるような動作をしてから
「……まあ確かに伸びたか」
と言った。やっぱり伸びてた。気のせいではなかったみたい。いつの間にこんなに背が高くなったのだろう。高校入学時点でもわたしより背は高かったけれど、今では頭ひとつぶんほど身長差ができていて。いつも一緒にいたのに気づかなかった。いや、ううん、一緒にいたからこそ、日々の変化に気づけなかったのかもしれない。この一年で何センチくらい伸びたんだろう。春の身体測定のたびに1ミリ伸びたとはしゃぎなから荒船に報告していたけれど、彼からしたらそんなのほとんど誤差なのでは。なんだか急に恥ずかしくなってきた。
「よく気づいたな」
「一年生の時はもうすこし目線が低かったなと思って」
「目線の高さで気づいたのかよ。もっとわかりやすいものあるだろ」
「えー、たとえば?」
「制服のサイズはわかりやすいんじゃねえか。入学当初は今よりも若干大きかった気がするぜ」
「た、たしかに」
確かに言われてみれば一年生の頃の荒船はもう少しだぼっとしていた気がする。それが気づけばピッタリサイズだ。
「まあ、変わったのは身長より体格かもしれねえな」
「体格……」
ほう。なるほど。つまり上にも伸びて、横にも伸びたということなのだろうか。
そう考えていれば、また失礼なこと考えてんだろと頭の上に手のひらが落とされる。そのままぐっと押さえつけられて、そのままうぐっと変な声が漏れた。
「そんなに押されたら縮んじゃう!」
「もっと身長差が開くな」
「やばい。もう追いつけなくなっちゃう。負けない!」
ぐっぐっと荒船の手のひらを押し返すように背伸びをしてやれば、荒船がふっと笑みをこぼしながら言う。もう無理があるだろ、と。