エースの頑張り
side Ace





「え?今、なんて?」
「脅迫状が届いたんだよ、エース。だから、次のイベントをどうするか、話し合うって」
いつものようにイベントに向けて練習していたら、ユウに呼ばれた。例の脅迫状がうちに届いたらしい。慌てて会議室に行くと、怒声が聞こえる。
「中止だ!」
「決行だ!」
会議室に入ると、すでに来ていた『WARLOCK』の関係者が争っていた。俺はそれを見ながら、入り口近くに座る兄貴に近づく。
「え、何?どうなってんの?」
「イベントを中止するか否かで意見が分かれている」
普段は飄々と軽い兄貴が険しい表情をしている。兄貴は学生の時に世話になったケイト先輩並み、いやそれ以上に空気を読めるので、普段はこんな顔をしない。それに俺は事態の深刻さを痛感する。
「今、どれくらい話しているの?」
「通報するか否かから揉めてる」
「うわぁ…ヤバェじゃん」
「ヤバいんだよ」
わざと軽口を叩きながら兄貴の隣に座ると、兄貴は険しい表情で言った。
「今更、中止にできるか!チケットだって全部売れたし、宣伝もすんでる!!何より、今までの練習を無駄にしたくない!」
「だからって、観客に何かあったらどうする?!いくら脅迫状だけとは言え、決行して被害が出たら、どうするんだ?!」
言い争うスタッフを見ると、演目に関わるパフォーマーが大体決行組、事務や広報などのスタッフが大体中止組になっていた。話は平行線のまま進み、先に進まない。そんな中、痺れを切らしたのか、決行組の演目構成作家が叫んだ。
「『宙(そら)ニ堕チル人魚』は『WARLOCK』においての代表作になる演目だ!それを今更、中止できるか!!」
その言葉に俺はドキッとした。
『宙ニ堕チル人魚』は、『WARLOCK』で初めてやる演目で、構成時から「『WARLOCK』の代表作にする!」と力を入れてきた演目だ。この演目で俺は初めてメインに抜擢された。そして、この演目のストーリーにはユウの世界の『人魚を食べると不老不死に』という伝説と実際に夜空にあるという『天の川』という異世界の要素が入っているので、「この演目で世界に革命を起こす!」と演者もスタッフも皆が力を入れている。
初めてのメイン、初めての異世界の要素を交えたストーリーの演目…二つの要素は俺にプレッシャーを与えた。今まで適度に手を抜いてうまくやってきていた俺だけど、さすがに今回ばかりは手が抜けない。しかも、異世界にしかない要素を交えた演目。重圧は半端ない。
その重圧に負けないように練習に練習を重ねるが、これでいいのか正解が見えない。初めての事に苦戦する俺を心配するユウに俺はつい本音を溢した。ユウは難しい顔をしながら頷いた。
「俺も舞を踊る時、頭を悩ませたよ。相手は神様だし。でも、一般論かもしれないけど、芸術って正解ないだろ?だから、できたら凄いんだし。実際に演じるのはエースだ。残念だけど芸術に関しては、自分が納得するまで悩みながらとことん練習するしかないんだよ」
そう慰みにもならない事を言われてしまった。俺は話を聞くしかできない、とも。日に日にイベントが迫る中、重圧に押しつぶされそうになった俺は、休憩時間に逃げるようにデュースの所に行った。少しでも、デュースと話して楽になりたかったから。舞台衣装のまま現れた俺に仕事中のデュースはなんだかんだいいつつも俺に構ってくれた。ユウでも兄貴でもできないデュースとのやり取りに俺は心が軽くなるのを感じた。
「エース。練習、頑張れよ。イベント、成功するといいな」
「はぁ〜?天下のエース様に何言ってくれてんのぉ〜?デュースに言われなくても成功させるし〜?」
「そうだな。エースはやれば、できる子だ」
「…!たりめーじゃん!!」
去り際に頭を撫でられ、デュースからそう言われただけでやる気になる俺はチョロすぎる。穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。
「エースとデュースってさ、はたから見るとデュースがエースの事を好きだけど、実際はエースもデュースを同じくらい好きだよね」
ユウにそう言われた俺は何も言返せなかった。
その後、練習場に戻った俺は宣言通りにユウに腹に一発右ストレートをぶちかまされた。ただこれが効いたのか、後は厳重注意で終わった。ユウはユウなりに重圧に押し潰されそうな俺を心配し、気を使ったんだと思う。腹への一撃も抜け出した俺をそのままにしたら、周りに示しがつかないからと落とし前の意味も込めてしたらしい。まぁ、馬鹿みたいに痛かったんだけど。
ただ、そこからは割と集中して練習できた。相変わらず重圧は感じていたが、前よりは軽くなった…というか、デュースが「頑張れよ」って言ってくれたから頑張ろうって思って集中できるようになった。やっぱり、俺ってチョロ過ぎる。
だから俺なりに初めて頑張ってきた演目だから、中止は避けたい。絶対に成功させて、デュースに「頑張って成功させた」って胸を張って言いたい。こんなの、デュースには言えないけど。
「…俺も決行したい」
「エース?!」
ぽつりと呟いた俺の言葉はつい先程まで怒声が交わされていた筈なのに、いやに響いた。そのせいか、会議室にいた全員が俺を見る。それに俺はハッと口を抑えた。兄貴が慌てて嗜めるように名前を呼んだが、時すでに遅く、会議室にいた皆が俺を見た。
しまった。場の空気を読まず、火に油を注いでしまった。いや、ガソリン巻いたくらいマズイ。
「何を言っているんだ、エース君!君は今回の演目のメインだ!!君にも害が及んだら…!」
「メインだから、決行したいんだろうが!俺らでも分かるくらい、エースは練習を頑張ってんだぞ?!」
「あ、あー!とにかく、落ち着け!!そんなに熱くなっていたら、収まるものも収まらないだろうが!」
俺の一言に叫ぶ中止組と決行組を見て、兄貴が宥めるように手を振りながら叫んだ。普段、声を荒げない兄貴を見て、周りは少しクールダウンしたのか、バツが悪そうな顔をする。
「だが、トラッポラ…!」
「そうだ。エースには魔法執行官の知り合いがいるんだ。そいつに事情を話して警護してもらい、演目を行えばいいんじゃないか?」
「兄貴?!何を言って…!」
尚も食ってかかるスタッフに兄貴はそう言った。それに今度は俺が目を見開く。
何、言ってんだよ、兄貴!デュースはただでさえ、仕事で忙しいんだぞ?!いくらこの事件を担当する一人だからって、それはないだろ?!
「まぁ、お兄ちゃんに任せなさい」
食ってかかろうとする俺に兄貴はそう囁くと話し始めた。
「魔法執行官が一人でもいれば、抑止力になる。それに一人でも話しておけば、いざという時、何故通報しなかったんだって話にはならない。そもそも脅迫状が来ただけだ。確かこの脅迫状は来るだけで、今の所は自主的に何かしなければ何も起きてないんだよな、エース?」
「それは…そうだけど…」
デュース達から事件の話を聞いた俺は一応兄貴にも一通り話しておいた。こういう事件があるらしいって程度に。それを聞いた兄貴は「ふーん?」と聞いただけだったけど、まさかこんな所で…!
「けど、トラッポラ…!」
「エースの知り合いの魔法執行官は優秀だ。しかも、この事件の担当の一人らしい。それに俺達もマジカルアーティスト。魔法で客を守ることができる。いざとなったら、俺達が客を守ればいい」
そこまで言うと、兄貴はとどめと言わんばかりに頭を下げた。
「頼む…俺の弟が生まれて初めて真剣に取り組んだ演目なんだよ…やらせてやってくれ…」
「……」
頭を下げながら懇願する兄貴に会議室にいた全員が黙った。俺も兄貴がまさか頭を下げてそんな事を言うとは思わず、黙る。
「…エース、お前は出て行け。後は俺の仕事だ」
「兄貴…わりぃ…」
兄貴に促され、俺は会議室を出ていった。いても兄貴の邪魔にしかならなそうだから。
その後、会議の結果、イベントは決行する事になった。通報はとりあえず止め、デュースにだけ事情を話して承諾したら警護を頼むらしい。その決定を聞いた俺はデュースに申し訳なく思った。
ただ、デュースばかりに負担をかける決定に悪いと思いつつも、イベントが決行する事に決まったという事には安心した。とりあえず、今までの練習は無駄にならない。ユウから決定を聞いた俺はそのまま兄貴の元に行く。きっと…いや多分、兄貴の説得のお陰で決行になっただろうから。
まぁ、俺の一言が悪い意味でのきっかけだったし?兄貴は俺の為に頭を下げたし?説得も頑張っただろうし?感謝…してやらんでもない。
「兄貴…その、ありがと…」
「何が?」
「頭、下げてくれて…あと、イベント…決行の方で説得してくれて…」
何か改めて兄貴に礼を言うのは恥ずかしくて。俺が頭をかきながら言うと、兄貴はけろっとした顔であっさり言った。
「あぁ、あれ?ああ言って悲痛そうな顔したら、反対できないだろ?いい加減、会議が長くてうんざりしていたし」
「そんな下心で頭を下げたの?!俺の感動、返してくんない?!」
前言撤回。兄貴もやっぱりヴィランだった。
「ただいま」
「おかえり〜」
「え!?エース?!なんで先に帰っているんだ?!」
先に帰っていた俺が帰ってきたデュースを迎えると、デュースは俺をギョッとした顔で見た。あんまりな対応に俺は頬を膨らませる。
「なんだよ、それ?俺が早く帰ってちゃ悪いのかよ?」
「そうじゃなくて。最近、ずっと練習で遅かったじゃないか。イベントが近いからって。夜遅く帰ってくるから、夕飯も別々だったし」
「今日は早く練習が終わったんだよ。夕飯、もうすぐでできるから、手洗いうがいをしてこいよ」
驚くデュースに笑いながら答えると、俺はまたキッチンに戻った。作った料理をダイニングテーブルに並べていると、スーツとネクタイを脱いだデュースが近づいてくる。
「オムライスだ!」
「卵、安かったからな。たまにはいいだろ?」
「ありがとう、エース!今日は久し振りにエースと夕飯食べれるし、夕飯はオムライスだし!!良い事尽くめだ!」
夕飯のメインがオムライスだと知ったデュースがパッと顔を明るくする。それに笑いながら答えるとデュースはうきうきしながら席に座る。しかし、
「…エース」
「何?」
「何を企んでいるんだ?」
「え?」
「なんか、出来過ぎじゃないか?練習はともかく…夕飯も僕の好きなオムライスなんて?」
「あは、あはは…」
訝しげに聞いてくるデュースに俺は笑うことしかできなかった。さすが、デュース。俺との付き合いが長いから、俺の事をよく分かっている。
実は兄貴に頼まれたんだ。「デュース君に事情を話して、秘密裏に警護を頼んでこい」って。嫌だよ、デュースに迷惑かけたくないし、第一そういうのは上の人間が言うもんじゃない?そうだ、兄貴が言えばいいじゃんって言ったら、「誰の説得のお陰でイベントが決行される事になったんだっけ?」と言われてしまった。それを言われれば、俺は何も言えない。俺は渋々、本当に渋々ながらデュースに脅迫状の説明をし、警護を頼む役を引き受けた。その為に今日は練習を早めに切り上げさせてもらった。
「ま、食ったら話すからさ。とりあえず、ぱぱっと食べようよ」
「…そうだな」
俺の態度に訝しげにしながらもデュースは手を合わせて「いただきます」と言った。俺も同様に手を合わせ、「いただきます」と言う。ユウに教えてもらった食事の挨拶だ。学生時代、オンボロ寮で食事する度に言われたせいか、今でもこの挨拶をする。
「あれ?なんで、この服がここにあるんだ?」
食事していたデュースがリビングのラックにかけられている服に気がついた。俺がフェアリーガラで着た衣装とデュースがノーブルカレッジに行った時に貰った衣装だ。
「あぁ。実は今日、新しい衣装の合わせしたんだけど、衣装係が違う!って発狂してさ。で、俺のマジカメでガラの衣装を見た衣装係がこれだ!って叫んで、この服を元に新しく作りたいから持ってきてくれって」
はは、と乾いた笑い声で俺は話す。なんか、やっとできたメインの衣装を合わせたら、なんか微妙に俺と演目の間で違和感があったらしい。そこで様々な写真を見た結果、ガラの衣装がイメージに合っていた、と。さすがに演目が演目なのでそのままは使えないが、デザインは基にしたいらしい。
そう思うと、クルーウェル先生って凄かったんだなぁ…
「僕のは?何でだ?」
「…それも食ったら話す」
ノーブルカレッジの方の衣装にも触れられたので、そちらははぐらかした。いや、こっちは警護に関わってくるであろうから、後回しにしたんだけどさ。
すると、デュースは「ふーん…?」と首を傾げながらも頷いた。とりあえず、飯の間は話さなくていいので、一安心だ。
いや、食べたら話すけどさ。でも、絶対デュースは不機嫌になるだろうから、話したくないんだよな〜。
久し振りのデュースとの食事だというのに、俺はどこか憂鬱になりながら食事をした。
「…という訳なんだ」
「いや、普通に通報してくれ」
食事の後、脅迫状が来た事、でもイベントは決行すること、それで警護をデュースに頼みたい事を言ったら、即座にデュースに突っ込まれた。それに、うぐ、と詰まる。正論だからだ。
「だぁかぁらぁ!通報したら、事が大きくなるだろ?!お客さんにバレたら、最悪イベントが出来なくなるじゃん!!俺はそれだけは嫌だ!」
俺は詰まったのを誤魔化すように叫んだ。
会議で通報するか否かも争っていたのは、イベントを決行する時にこの情報が漏れてお客に不信を抱かせない為だ。最悪、『WARLOCK』の評判に関わる。それだけは避けなければいけない。
中止なら問答無用に通報できたが、イベントは決行が決まった。だから、お客さんには脅迫状の事は隠さなければならない。
丁度いい事に、この事件はデュースも担当だ。なんとかデュース、あるいはスノーさん辺りまでで対応してもらいたい。
「そもそも!脅迫状が来ているのに、イベントを決行するな!!何かあったら、どうするんだ?!」
「だから!俺は練習を無駄にしたくないんだよ!!それに、俺がメインなのは初めてなんだ!」
「だったら、解決してからイベントを行えばいいだろ?!それなら、安全にイベントを行えるだろうが!」
デュースのその一言に俺はぶち切れた。
「馬鹿野郎!イベントを行うのは、準備がくそ大変なんだよ!!」
「え、エース?」
座って話していた俺が急に立ち上がって叫んだからか、デュースは怯んだ。そんなデュースに俺は畳み掛ける。
「演目の練習だけじゃねぇんだ!演目決めて、プログラム組んで!!会場を手配して、衣装作って、宣伝の為に広報活動して!販売品を決めて値段設定して、前日まで会場設営して!!」
「え、エース…?まだあるのか?」
「まだ山程あるわ!とにかく!!イベントをやるのはくそ大変なんだよ!キャンセルだって、それはそれでくそ大変だし、損害が出るんだ!!」
あまりにも準備するのが多くて耐えられなかったのか口を挟んできたデュースに、俺は腹の底から叫んだ。
『WARLOCK』は会社経営しているプロダクションだ。その為、専門のスタッフがいる。だけど、イベントをやるとなると担当スタッフ達はこれ以上の仕事をやり、イベント当日を迎えるのだ。勿論、当日は声出しや音響、照明などの準備をし、リハーサル等で十分打ち合わせながら時間までに間に合わせて演目を開始し、終わったら撤収作業もある。その撤収作業だって、大体当日あ中、長くても翌日までだ。
イベントのキャンセルだって大変だ。関係者各社への連絡、お客さんへの連絡の周知、チケットの返金作業等など…会場だって抑えたから、キャンセル料だって払わないといけない。どっちにしろ、イベントを一度でも決めたら金も労力も払うのだ。
『WARLOCK』のイベントは大きいから大変だ。それぞれがそれぞれの役割を果たさないとイベントは無事に行えない。デュースはそれを分かっていない。まぁ、学生の頃はともかく、今は魔法執行官だしな。
俺の怒涛の攻めにデュースはしばらく詰まるが、やがて決意した目で俺を見た。
「…けど!何かあったら、どうするんだ?!イベントやるのが大変なのは分かったけど、でも事件を隠してやるのはお客さんに失礼だし、解決してからやれば安心だし!!」
そして、デュースは言ってはいけない一言を言ってしまった。
「たかがステージ如きに命を賭けるな!」
その一言に俺は頭の中で何かがプツン、とキレるのを感じた。
「…へぇ…デュースは俺のパフォーマンスを『如き』と言うくらい、そんな大した事ないと思っているんだ?」
「エース…?」
「俺さぁ…今回の演目、初めてのメインだからさ…頑張ったんだよ。らしくないけど、真面目に練習してさ…何度も何度も…」
「え、エース…?おい、エース?」
ぶつぶつと語り出す俺にデュースが何度も声をかけるが、俺はそれどころではない。ひたすら言葉を紡ぐ。
「今回の演目さ…『WARLOCK』でも初めての演目でさ…皆、すげー力いれてんの…『WARLOCK』の代表作にする!って…だから、すげー重圧で…練習から逃げたくなるくらいだった…」
デュースが俺を心配して言ってくれたのは分かる。逆の立場だったら、俺も言っていたかもしれない。
…いや、言わないか。だって、俺はデュースの魔法執行官になるという夢を一度も止めなかった。魔法執行官はなるのも大変だが、仕事も大変だ。基本、魔法執行官の仕事は命懸けだからだ。普通の奴が交際相手だったら、一度は引き留めたかもしれない。
でも、俺はデュースの夢を一度も引き止めなかった。それがデュースの夢だと知っていたから。魔法執行官になって、デュースのお母さんを安心させたいからって知っていたから。だから、できる限り、俺で出来る事は手伝った。
なのに…なのに…!
「お前は…!俺の初めての努力を否定するのかよ…?!」
「!」
「お前に『頑張れ』って言われたから…!頑張ったのに…!!」
俺の言葉にデュースは顔をハッとさせた。どうやら、やっと自分が言ってはいけない事を言った事に気がついたようだ。だが、もう遅い。
「…え」
「触んな!」
俺に伸ばされたデュースの腕を俺は振り払った。威嚇する猫のようにデュースを睨み、俺は苛立ちながら荒い深呼吸を繰り返す。
「…話はお終い…警護するにしろ、しないにしろ…とりあえず話したから…」
悪いけど、後片付け宜しく、と言うと俺は部屋に向かった。去る俺にデュースは小さく「…分かった」とだけ呟いた。部屋に戻った俺は鍵をかけ、ベッドに腰掛ける。
違う。こんな筈じゃなかった。うまくデュースを言いくるめて警護を頼む筈だったのに。
心配するデュースの気持ちも分かる。俺だってデュースが事前に命の危険があると分かっている仕事に向かおうとすれば、引き留めるかもしれない。
でも、あの一言は駄目だ。今回の演目は俺にとっては「たかが」「如き」じゃないんだ。初めて真面目に取り組み、嫌いな努力で練習した。それを「たかが」「如き」と言われるのは許せなかった。
きっかけは今回は俺の初めてのメイン演目なのと、デュースに「頑張れ」と言われたからだけど。でも、確かに俺は俺なりに真剣に今回の演目に取り組んできた。初めて真面目に取り組んだ。「命をかけて」いると言ってもいい程に。
でも…イベントを決行するにはデュースの協力も不可欠で…
「駄目だ、頭の中が冷静にならない…」
怒りで頭がバグった俺はデュースに悪いと思いながらも少しでも冷静になろうと、ベッドに横になった。





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