ここは春の国

「いらっしゃいまー……あれ?」

ちょうどその日、実家であるアンティークショップの店番をしていた鈴火はドアベルの鳴る音で顔を上げながら声をかけるも、その人物を見て首を傾げた。

「まこ〜?」
「……お邪魔しますね。」

幼馴染のレイや進が組んでいるバンドのメンバーである、真琴だった。

「まこがここに来るなんて珍しいね?何か用?」
「……ちょうど近くまで来たので、進さんの方にも顔を出したんですが、今はいないみたいでしたし。」
「あー、レイとどっか行ったっぽい。」
「そうでしたか。……那由多さんは?」
「お姉ちゃんは今日はパートだよ!もう少ししたら帰ってくると思うけど。」


二人がそんな会話をしていた数分後、暑い暑いとぼやきながら那由多が帰宅した。

「ただい……あれ?鈴火〜?」

店番をしているはずの鈴火がいない。はてと思いながら、カウンター側に回ると、そこから居住スペースにつながる上がり框前に鈴火ともう一人誰かの靴が揃えてある。

(……男物の靴……?……進でも来てるのか?……いやでも見たことない靴だし……。)

家も近い小金井家と酒枝家、行き来も多いので自然と相手の持ち物をだいたい把握できる。妹の靴の隣に揃えてある男物の靴は、少なくとも彼の持っているものでは見たことがない。

「……鈴火ー?」

返事がない。室内にいるのは確かだが……奥にある茶の間にでもいるのだろうか。よく来る客なら店内の片隅にある簡単な茶会スペースを使うし、家に上げたことはあまりない。ふと、奥から人の声が聞こえる。耳を澄ませば、どうやら鈴火の声のようだ。

「いるじゃん。」

安心したように呟いたのと同時に、店の戸が開く。あ、と思いながら振り向けば、幼馴染の二人だった。

「レイ、進も……どうしたの?」
「いや、ちょっと寄っただけだ……て、ベルは?」

先に口を開いたのはレイだった。

「……二人が揃ってるってことはやっぱ他の誰かなのよね…。」
「は?」
「いやね……、」

二人に経緯を話し、時折声の聞こえる廊下の奥を見やる。

「鈴火にレイたち以外で男の知り合いなんて……、」
「いや、いるだろ?」
「あ〜、一人いるな。」
「………来栖くんてこと?でも彼あんまりここに来ないじゃない。まぁ、高良くんもだけど…。」

そんなことを言いつつ、3人は家に上がり奥の茶の間の方へと向かう。

「……?」

ちょうどその頃、茶の間で真琴と話していた鈴火は、姉の声が聞こえた気がして戸の方を見ていた。

「どうしました?」
「お姉ちゃんの声が聞こえたような……。」

そう言って立ち上がろうとする鈴火の手を、真琴が掴んだ。

「んぇ?」

きょとんとして何度もまばたきをする鈴火を、そのままぐいと引き寄せ、それに釣られ鈴火は再びソファへ腰を下ろした。

「まこ……?」
「……鈴火さん、以前、『好きだと言い続けていれば振り向いてもらえる』って、言ってましたよね。」
「う、ん……。」
「……なら……僕が言い続けていれば、振り向いてくれるんですか?」
「え、ぇ……?まこ……?」
「……どうなんですか?」
「それ、は……、」

ぐっと、顔が近づいてくる。

「ままま、まって!まこ!待って!?ちょっとたんま〜!!」
「……嫌です、といったら……?」
「それでもだめ〜!」

その刹那、茶の間の戸が勢い良く開かれる。二人が顔を上げれば、血相を変えた進を筆頭に気まずげな顔をした那由多とレイが室内を覗き込んでいる。固まる鈴火とは対照的に、真琴は冷静だった。

「……すみません、お邪魔してました。」
「……いや、真琴……そうじゃねえだろ……。」
「……何がです?……進さんに何か言われる筋合いはないと思いますが。」
「は……?」
「ならお聞きしますが、鈴火さんの何なんです?進さんは。」
「……。」

その言葉に、ぐっと進が言葉をつまらせる。

「……即答できない程度の仲なら何も言わないでください。」

そんな二人の間で硬直していた鈴火は、なんとか起き上がり二人の間に立つ。

「ね、ね、今日まこ変だよ?暑くて疲れてるんじゃない?ね?麦茶冷たいのと交換してくるからそれ飲んで落ち着いて……、」
「鈴火さん、」
「ぁぅ。」
「……僕は本気ですよ。」
「……でも、」

言い淀む鈴火より先に、押し黙っていた進が口を開いた。

「真琴、」
「……なんです?」
「……本気なんだな?」
「言った通りです。」

張り詰める空気の中で、鈴火はおろおろと真琴と進の顔を交互に見やる。

「……勝てるって踏んでるわけだ。」
「勝ち負けじゃないと思いますがね……決めるのは……。」

そう言って、真琴と進の視線が鈴火に注がれる。

「んぇ!?」
「……まあ、そうか。」
「そういうことです。まあ、進さんがそういう言い方をするなら……僕も負ける気はないですが。」


□□□


進と真琴がピリピリとした空気をまとったまま帰宅し、鈴火は一気に起こったことを処理しきれずにふらふらと二階の自室へ戻っていった。那由多とレイはカウンターを挟んで座り、冷たい麦茶を啜っていた。

「来栖くん、趣味悪いわね。」
「自分の妹に対してそういうこと言うか普通。」
「姉だからよ、全く……にしてもねぇ……。」
「あー……まこっちゃんあんな積極的なんだな。」
「そうね……さてと、どうなることやら……。」

end?
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作成:17/9/17
移動:20/8/29

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