嘘ついたら針千本

最近、銀ちゃんの様子がおかしい。少し前までは私の仕事が休みの日は万事屋に出向き、一緒に昼食と夕食を共にするのが日課になっていた。それなのにここ最近になって依頼が入っている、と断れ続けている。そんな感じで一ヶ月以上銀ちゃんに会えていない。こう言っちゃ悪いが、そもそもあの万事屋に私がお休みの日にこうタイミング良く依頼なんて入るのだろうか?少し疑い始めた私は、もちろん今日も依頼だと断られているが万事屋を訪ねる事にした。

「御免くださァい」
―――ガラガラガラ
「名前さん!お久しぶりですね!」
「新八くん久しぶり。銀ちゃんいる?」
「あれ?一緒じゃなかったんですか?」
「…依頼だって聞いてたんだけど」
「おかしいな〜依頼なんてここ一ヶ月全くありませんよ?てっきり名前さんの家に入り浸ってるのかと思ってましたよ〜」

当初アハハハハ、と笑う新八くんだったが私が深刻な顔をしていると状況を把握したのか、え?と洩らし重々しい顔つきになった。とりあえず此処ではアレですし中でお話しましょうと中に案内され、温かいお茶を淹れてもらいそれをズズッと一口飲み込み深呼吸をした。

「名前久しぶりに来たくせにお土産ないアルか?」
「ごめんね神楽ちゃん。銀ちゃんから今日は依頼があるって聞いてたから皆んな居ないのかと思って持って来なかったの」
「依頼なんて無いネ。  でもそうしたら何で名前は私達に会いに来たアルか?」
「それは…」
「銀ちゃんに今日は依頼だって聞いてたんでしょ?」
「…名前さん、詳しく話してもらえませんか?」

私は二人に今の状況を話した。銀ちゃんに依頼だと嘘を吐かれていた事、神楽ちゃんや新八くんも一緒の依頼に出ていて万事屋には誰にも居ないと言われた事、だから私は一ヶ月以上も万事屋に顔を出さなかったという事を。

「銀ちゃん、毎日は帰って来ないアル。たまに帰って来たとしても夜遅くで、少し寝たらまたすぐ出掛けて行くネ」
「だから僕らはてっきり名前さんの所に行っているとばかり思っていて…」
「そっ…か。 二人ともちゃんとご飯食べてる?」
「…え? 一応食べてますよ。卵かけご飯ばかりですけど」
「駄目だよちゃんとしたもの食べないと。お昼まだでしょ?何か作るからキッチン借りるね」

そう言う事、と考えて良いのだろうか。嗚呼、もう神楽ちゃんや新八くんとこうして話したりする事も無くなっちゃうのかな。銀ちゃんにももうこのまま会えないで終わっちゃうのかな。じっとしても思い浮かぶのはこんな事ばかりで少しでも気を紛らわす為に昼食の準備を始めようとキッチンへと向かう為二人に背を向けると神楽ちゃんがぴしゃりと言い放った。

「お腹すいてないアル」
「え?」
「泣いてちゃ包丁危ないネ」
「      」
「ご飯はまた今度作りに来てヨ。名前の作るご飯大好きアル!」
「名前さんが此処に来ずらかったら僕らが名前さんの家に行きますから!」
「…神楽ちゃん、新八くん。 あり、がとっ」

涙はなかなか止まってくれず、このまま此処に居ては二人に迷惑が掛かると思い、また来るねと言い残して万事屋を出た。
帰り道、よく此処の河川敷で銀ちゃんと陽が暮れるまで話したなぁ、と久しぶりに芝生の上に腰を下ろした。目の前では子ども達が飛行機のラジコンを飛ばして楽しそうに遊んでいた。それをぼーっと眺めていると背後から聞き覚えのある声聞こえて来た。思わず振り返るとその声の主とばっちり目が合ってしまった。あんなに会いたくて会いたくて堪らなかったのに、私はその場から逃げるように走った。

…隣には月詠さんも居たからだった。

「銀時、追いかけなくて良いのか」
「やべぇよ、あいつ完全に勘違いしてる感じだったぞ…」
「よし、じゃあ、わっちは此処で。大分泣き腫らしていた様に見えたがちゃんと話しをするんじゃぞ」
「おぉ…」
「世話になったな」

どれくらい走ったのか、後ろを振り返っても銀ちゃんは追いかけて来る気配すら感じられなかった。これで終わったんだ…。そう思うと、せっかく引っ込んでいた涙がまた溢れてきて視界を歪ませる。足を引きずる様に歩き、この先どうやって生きていこうか考えていた。あんなちゃらんぽらんでも私にとって銀ちゃんは全てだった。失って、改めて存在の大きさが感じられた。

「おいっ!」
「ぎっ銀ちゃん?」

切羽詰まった様な大きな声がした。そこには先程振り返った時点では見えなかった姿あった。思いっきり走ってきた様で額には汗がうっすら滲んでいた。最後の挨拶をしにきてくれたのだろうか。それなら私も意地を張っていないで笑顔でさようならを言おう。

「追いかけてきてくれたんだね」
「当たり前ェ、だろう、が!」
「正直どうしてこうなったのか解らないけど、私も頑張るね」
「はっ?」
「今までありがとう。  大好きだったよ、銀ちゃん事」

まだ息を整えている銀ちゃんにそう告げて私はまた歩き出した。これ以上銀ちゃんの顔を見ていると自分の気持ちが溢れそうで駄目だった。別れるなんて嫌、銀ちゃんじゃないと嫌なの。そう言ってしまいそうだったのだ。
するといきなり肩を掴まれて銀ちゃんと向き合う形にされてしまった。こんなに泣いてるとこ見られたくないと思っているのに関わらず、もう涙腺は完全に崩壊していて涙は全く止まってくれない。

「ちょ、ちょっと名前チャン?  大好きだったよってどーいう事?なんでそんな感じになってるの」
「だっ、て…お互い前を向き合わないとっ」
「え?本当どういう事!?これってもしかして別れ話とかそーいうのなの??」
「…違うの?」
「いやいやいや!!待ってよ名前チャン!流石に一ヶ月以上も放ったらかしちゃったのは悪いと思ってるけど浮気してたとかそーいうのじゃないからねマジで!」

肩をブンブン揺さぶられながらも、何故か必死になっている銀ちゃんの顔をじーっと見つめ浮気以外に何があるんだろう?と思う。それに別れたかったのは銀ちゃんの方なのに何がどうなっているのか理解出来なかった。

「さっき月詠さんと居たし…」
「それは今までアイツから依頼引き受けてて今日終わったんだよ」
「え…でも今日万事屋に行ったら二人とも依頼なんて一ヶ月来てないって言ってたよ」
「おまっ、ガキ二人連れて吉原なんて歩けねぇだろうが」
「鳳仙と戦った時は連れて行ってた」
「あれ以来あんな所連れて行ってねぇって」
「      」
「止めて、その間怖い」

後程、依頼内容聞くと吉原で非合法の薬物が蔓延していて、その黒幕が月詠さんのかつての師匠、地雷亜という者だったらしい。そして怒らないで聞いてねと念を押されてから聞いた内容は、その組織のアジトに潜入する際に月詠さんとチンピラ夫婦を装ったと聞かされた。

「ねぇ名前チャン、誤解も解けた事だしこれから家寄って行っても良い?」
「え?  それはもちろん良いけど」
「お前と一ヶ月以上も会えてなかった訳だしさ?色々と溜まってるものが」
「あ、そうだ。神楽ちゃんと新八くんも呼ぼうよ。さっき迷惑掛けちゃったからお礼したいし!ていうか私が万事屋行った方が早いか」
「はぁ?駄目だ駄目!これ以上お預けくらったら銀さんのマグナムが爆発しちまうよ」
「…何の話してるの。  二人とも銀さんが帰ってない間ずっと卵かけご飯だったみたいだから美味しいもの食べさせてあげなきゃね」
「ねぇ、ちょっと俺の話聞いてる…?」



20170509