甘い誘惑


私には好きな人がいる。それは同じ学年でもないし先輩でも後輩でもない。

「よォ〜し。面倒臭ェけど授業やるぞ〜」

怠そうに教室へ入ってきたクルクル天然パーマの銀髪の教師。この人が私の好きな人。
学年でも成績は上位の方だけど、先生の授業だけは出来ないふりをする。そうすれば放課後、先生と二人きりになれるのを知っているから。

「お前さァ、何で俺の授業だけこんな壊滅的なわけ?嫌がらせですか」
「だって現国って数学みたいに公式があるわけじゃないから正解が分からなくて」

先生にとって私は大勢在籍している生徒の一人としか見ていない。今だって国語準備室に私と二人きりで居るのに大きな欠伸をしてとても怠そうにしている。そろそろ潮時なのかも知れない。私がいくら馬鹿なふりをしたって先生はそれに気付くことも無いし煩わしいだけのことだ。もう馬鹿なふりはやめにしよう。
次の定期考査から私は満点を立て続けに採っていた。実は現国は他の教科と比べても断トツで得意な教科だった。
授業中に解くプリントやテキストも今まで先生と話がしたくて、わざと手を挙げて分からないふりをしていたりしたが、もうその必要はなくなった。
ある日の先生の授業終わり、声を掛けられた。

「放課後、準備室来いよ」

呼ばれた理由は分からなかったが、もしかしたら今までわざと悪い点を採っていた事がバレたのかもしれない。
あっという間に放課後になり、あまり気が進まないまま私は久しぶりに国語準備室へと向かった。
ノックをすると相変わらず怠そうな先生の返事が聞こえ、少しほっとした気持ちになった。

「座れば?」
「はい」

言われた通り以前と変わらず先生と向き合うように少し錆びれた丸椅子に腰掛けた。

「何で今まで分からないふりしてたんだよ」
「何のことかさっぱり分かりませんが」

やっぱりその事だった。先生は相変わらず直球な言葉を投げかけてくる。でもそこが好きだった。回りくどくなくて、好きだった。

「まァそんな事言う為にお前を此処に呼んだんじゃねーんだけどさ」
「  え?」

一瞬だったが確実にそこに触れたそれ。思わず自分の唇に指を添える。鳩が豆鉄砲を食らったように目を瞬かせれば頬に先生の手が添えられ、徐々に後頭部の方に回っていきグッと引き寄せられ重なった。しかもさっきとは比べものにならないくらい深いキスで、このまま本当に食べられてしまうような気がするものだった。あまりに激しすぎるキスに息が苦しくなり、先生の白衣をぎゅっと握ると名残惜しそうに、ちゅっと下唇を吸い付かれてから先生が離れた。

「はぁ、はぁ、ど、うして?」

いきなりのキスでついていけない頭をフル回転させようとするが、あまりの衝撃で思考回路は完全にショートしていた。息が上がる中やっと言葉を発することが出来たが、先生はまた私の唇に食らいついてきた。

「や、んぅ、…は、ん」
「キスだけで満足か?」
「まっ、て、…んっ」

ニヒルな笑みを浮かべた先生の顔を見てぞくりとした。男の人なのに色気があって低音ボイスで囁かられ、こんなにも甘くて気持ちのいいキスをされて拒む事が出来るほど私にはもう、理性なんてなかった。

「俺さァ、逃げられると燃えるタイプなんだよね」


20171020