くちびる

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「んだよ……何見てんだよ」
「別に〜。何でもない」

 火神君は不思議そうに首を傾げつつ再び飲みかけの炭酸ジュースのペットボトルに口をつけた。
 何かで聞いた話で記憶もあやふやだしそれが本当かどうかは分からないけど、飲み物を飲むときの唇の形はキスをするときの形らしい。だから私はじっと火神君の唇を見つめていた。
 彼の飲むときの唇の形は少しだけ開いて軽く宛がえている感じ。
 こんなこと真剣に見つめて変態だって自分でもそう思う。何でかな、火神君が好きすぎてダメなのかもね。

「火神君てさぁ、好きな子とかいないの?」
「……あ? んだ、よいきなり」

 お昼を食べ終わってまったりしている中、私はずっと気になっていた事を思い切って火神君に訊いてみることにした。
 返答次第では私のこれからが決まる……。

「だぁって〜、別にモテないわけじゃないでしょ、実際」
「知らねぇよんなこと……別に興味ねぇし」
「……で、どうなの黒子君。近くで見てて」

 火神君はこう言う話題があまり得意ではないっぽいな。浮いた話も確かに聞かないけどさ。私としては嬉しいけどどうなのかなって。
 第三者からの意見を訊くために話を振ると、本を読んでいた黒子君はまさか自分に訊かれるとは思っていなかったらしく少しビックリしながら顔を上げた。黒子君は火神君と一緒にいる時間も私より長いし、何より人間観察に長けている彼なら何か知ってるかもしれない。
 何やら焦っている様子だし、これは何か有力情報を得られる感じかな? 聞きたいような聞きたくないような複雑な心境だ。

「えっ……うーん、そうですね……あ、そう言えばインターハイ予選の時に桃井さんの事を可愛いと言っていましたね」
「……桃井さん?」
「ば……っ! あ、あれは別に深い意味はねぇよ!」
「ふぅん……黒子君、桃井さんてどんな子?」
「どんな子……中学の時に撮ったプリクラならあります」
「え、見たい。て言うか黒子君がプリクラって想像つかない」
「黒子テメっ……! 佐藤も何なんだよさっきから!」

 誘われれば撮りますよと、黒子君がバッグのポケットから取り出したプリクラを受け取る。今より幼い黒子君と他に男の子が四人と女の子が一人写った仲睦まじいプリクラ。この女の子が桃井さん……めちゃくちゃ美少女なんですけど。

「ふ〜ん……火神君てこう言う子がタイプなんだ……」
「だから、違うっつってんだろ!」
「火神君て面食いだったんだね」
「つーか、ソイツは黒子の元カノだっつーの!」
「え。マジ? 黒子君この子と付き合ってたの!?」
「違います。桃井さんは中学の時バスケ部のマネージャーだった子です。デタラメ言わないで下さい火神君」

 テメーもさっき言っただろと火神君も反論したけど、火神君が言ったことは事実だと黒子君が言い切った。またシラーっとした目で見れば火神君はますます焦って変な汗までかいてる。どんだけ苦手なのこう言う話題……。

「そう言えばこの前、火神君の家に行ったときアレックスさんがいましたね」
「アレックスさん……? 今度は海外の人……?」

 写真はないからと黒子君がそのアレックスさんとやらをネットで検索すると、金髪でスタイル抜群のお姉さんの写真が表示された。元WNBAのバスケ選手らしい。て言うかまためちゃくちゃ美人じゃん……あんなにスタイル抜群で胸もあるって、私が敵う部分何もないんだけど……。

「やっぱり面食いじゃん、火神君」
「アレックスはオレのバスケの師匠だよ! 黒子も紛らわしい言い方してんじゃねーよ!」
「でもキスしてたじゃないですか」
「……へぇ、バスケの師匠とキスねぇ……ふぅん」
「だ、だから! あ、あれは挨拶みたいなもんで……! アレックスにも深い意味はねぇって……!」
「火神君て、初そうに見えて実は経験豊富だったんだねぇ」
「だっ……から、マジでそう言うんじゃねーんだって……」

 訂正していくことに疲れたのか火神君はぐったりと机に突っ伏した。ちょっといじめすぎちゃったかなぁ……なんて。
 そりゃ、好きな人の近くにあんなに美人さんばっかりいたら嫉妬だってしちゃうに決まってるじゃん。実際、どっちにも私なんて足元にも及ばないしわけだし……。

「でも火神君はちゃっかりファーストキス済ませちゃったって事だよねぇ……」
「確かに。そうなりますね」
「あ、あれもカウントされんのかよ!? あれは、不可抗力っつーか……オレだってしたくてしたんじゃねーよ!」
「でもキスはキスだし。それなら今私に出来る?」
「なっ……!?」

 人差し指で唇を指しながら見つめると、火神君は顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせて固まってしまった。黒子君からもすごいこと言いますねと聞こえてきて私は思わず吹き出してしまう。

「冗談に決まってるでしょ〜。わ、私だってファーストキスは好きな人としたいし……」
「じょっ……冗談にしたって限度っつーもんがあんだろ! 心臓に悪ぃ……つーか、こう言う話マジで勘弁してくれ……」

 冗談半分、本気半分って感じだった。
 私は火神君とファーストキスがしたい。て言うか、何てこと考えてるのよ自分……やっぱり変態?
 でも私は火神君とキスがしたい。火神君じゃないと絶対無理ってくらい彼じゃないと嫌だ。
 私だって一応女の子だから理想のキスのシチュエーションくらい夢見たりするけどどれも火神君からって言うのは無理なものばかりだし、私からしちゃうって言うのもアリだと彼を見て考えるようになってきた。

「あっ」
「わりっ」

 火神君の肘に当たってお弁当を入れている袋が床に落ちた。神様が味方してくれたのか、咄嗟に拾おうと二人で屈んだら思いのほか至近距離に火神君の顔があった。
 私達の周りだけ時間が止まったような、スローモーションのように感じる。
 火神君に手を引かれて椅子からずり落ちそうになったけどそれは起きなかった。受け止められた訳ではない。私が今火神君とキスをしているからだ。
 体勢が体勢だから一瞬触れるだけのキスだった。私は永遠のように思えたけど……。

「……今の」
「あ? オレ何かしたか?」

 何事もなかったように火神君はまたジュースを一口飲む。
 あの火神君に負けた……何かしたか、だって。ムカつく。ここ教室だよ。いくら昼休みだからってクラスメートの皆がいない訳じゃないのに……私も火神君とキスすることばっかり考えていたけどさ。今ありえないくらい顔が熱い。
 でも火神君も案外大胆なところもあるんだね。ならこれからはもう少し攻め込んでもいいのかな。一番難しいと思ってた教室でキスをするって言う理想のシチュエーションも実現できちゃった。
 これは期待してもいいの? 気まぐれじゃないよね。
 ねぇ、火神君。
変態的に火神君が好きなヒロインが書きたかったけどよく分からない感じになりました。もちろん(?)黒子君にがっつり見られてます。(2018/02/01)


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