センパイ
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「あれぇ、こはる先輩来てたんスか!」
「涼太君。お邪魔してまーす。部活お疲れ!」
「帰ってきてからもこはる先輩に会えるとかめちゃくちゃ嬉しいっス」
「あはは。何それ」
「あぁー、絶対冗談だと思ってる! 本当の事っスからね!」
「はいはい。嬉しい嬉しい」
部活でクタクタになりながら家に帰るとそこにはこはる先輩の姿があった。一つ年上の先輩はオレの姉さんの後輩でもある。家も近所だからこうしてたまにウチに遊びに来てくれる。
学校でも会えるけどこうしてリラックスしている先輩を見れるのはオレの特権だ。私服姿もカワイイ。
「涼太突っ立ってないで飲み物のおかわり持ってきてよ!」
「え〜!? こんな時間にクタクタになって帰ってきた可愛い弟にもっと労いとかないのかよ姉さん!」
「もう、そうだよ。いいよ、私がやるから涼太君はゆっくり休みなよ」
「こはる先輩〜! 先輩が姉さんだったらよかったのに!」
「涼太ぁ……こはるに手出したら……もぐからね」
「ちょっ、ええっ!? 何を!?」
キッチンで飲み物を注ぐ先輩はオレ達姉弟の掛け合いを見ながらクスクス笑っている。
あー、やっぱり先輩はカワイイ。かと言って先輩はずば抜けて美人てわけじゃない。言ってしまえば普通――でもこっちに来てからずっと先輩を見てきたから……何よりオレが先輩に惚れてしまっているから惚れた弱味ってヤツ?
いつもより三割四割増しくらいで先輩がかわいく見える。
02
「黄瀬コ(ラ)ァ! ボーっとしてんじゃねぇぞー!!」
「あ、す、スミマセンー!」
早川先輩……新キャプテンからの檄にオレは慌てて我に返って練習を再開する。
誠凛の優勝でW・Cも終わり笠松先輩達三年生は部活を引退した。三年生はこれから大学受験に専念することになる。もちろんこはる先輩もそうだ。昨日ウチに遊びに来ていたのは受験勉強の息抜きのためだったらしい。
そして受験が終わったら先輩達は卒業する。でも何だかまだ実感は湧いてこない。こはる先輩は地元の大学を受験するって言っていた。それを聞いたときオレは無性に安心した事を今でも覚えてる……先輩と離れるなんて考えたこともなかっからだ。
12月もあっという間に終わって新しい年を迎えた。センター試験が迫っているからか、年の瀬にこはる先輩に会うこともなくて少し物寂しい新年の幕開けになった。
笠松先輩達も初詣で久しぶりに会ったくらいだし、大学受験て大変なんだとまだ他人事のように感じている自分がいる。オレも二年になるし考えないといけないんだろうけど、どうしたらいいのかまだわかんねぇや。
「黄瀬ェー!!」
「ギャーッ!!」
03
「こはる先輩」
「あれ、涼太君。何か久しぶりだね、会うの」
「そっスね」
先輩に会ったのはセンター試験が終わった後だった。
久しぶりに見た先輩はどこか大人びて見えた。何でだろ。それと同時にオレの中に生まれた焦りみたいな気持ち。置いていかれるって、そう思った。
すぐ目の前にいるのに、手を伸ばせばその少し赤い頬っぺたに触れるのに。
「センター試験、どうだったっスか?」
「まぁ、何とかいけたかな、って感じ? でも来月の試験が終わってからじゃなきゃ何とも言えないかなぁ」
「先輩、手繋がないっスか」
「えぇっ? いきなりどうしたの涼太君」
「ほらっ、繋げば温かいっスよ!」
戸惑うこはる先輩の手は指先が少し冷たくてそして小さい。
オレを置いていかないで。ずっと傍にいて、名前を呼んで、笑ってて。オレ今泣きそうだ。
04
冬の夕方は日が落ちるのが早い。街灯が点り始めて、空が紺とオレンジの混ざりあった不思議な色をしている。特に会話もないまま先輩と手を繋いで歩道を歩く。遠慮がちに握り返された手が妙に愛しい。
伝えなくちゃと、オレは足を止めた。先輩も足を止めて振り返る。
「こはる先輩」
「ん? なに?」
「先輩……先輩、オレと結婚してくれませんか」
「え? 結婚? え?」
いまいち状況を理解できていない先輩は目をくりくりさせて戸惑っていた。オレも自分で何を言ったのか一瞬分からなかった。好きですって伝えるはずだったのに。
だからって先輩と結婚したい気持ちは嘘じゃない。気持ちを伝える順番をちょっと間違えただけだ。
「もちろん、今すぐとかじゃなくて……でもいつか、オレのお嫁さんになってほしいっス。ずっと傍にいてほしいんス……先輩に」
「え、あの……その、そう言ってもらえるのは嬉しいけど……私達付き合ってないし……」
「じゃ、じゃあ、結婚を前提にオレと付き合って下さい!」
「えぇっ!?」
05
ついに卒業式の日がやってきた。満開の桜が辺りをピンクに染めている。
先輩に告白したあの日、すぐに返事を貰うことは出来なかった。そりゃそうだ、付き合ってもいない後輩からいきなりプロポーズをされてはいだなんて答えられるわけがない……オレも絶対そうだろうし。卒業式まで考えさせてくれと言われて早く聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちがごちゃごちゃになって今日までずっと全てが上の空だった気がする。式の最中もぼんやりと先輩の後ろ姿を見つめてた。明日から先輩はいない。もちろん笠松先輩も森山先輩も小堀先輩もみんな。やっぱりまだ実感がわかない。でも改めて先輩達を見ていたら今になって寂しいと言う気持ちが湧き上がってきた。
「今年こそは絶対I・H、W・C優勝しろよ」
「ゔっ……最後までプレッシャーかけるとかやめて下さいっスよぉ……」
「もちろんっすよキャプテン! 今年こそはや(り)ますよオ(レ)ェ!」
「お前は相変わらずうるせぇな! ラ行も言えてねぇし、つかオレはもうキャプテンじゃねぇ!」
「オレも笠松も小堀も大学でもバスケは続けるつもりだしたまに顔出してやるよ」
「バスケ、続けるんスね」
「辞める理由もないしな」
先輩達がバスケを続けることは素直に嬉しかった。
こんなオレを迎え入れて最高のチームを作り上げてくれて、チームプレイの楽しさと先輩達の頼もしさを教えてくれて、そして最後までオレを信じてくれたこの人達とまたバスケが出来るから。
Epilogue
「こはる、先輩……」
笠松先輩達と話している間もオレはこはる先輩を探していた。
探しに行こうとしたら卒業生の先輩達(全員女の子)に囲まれて写真を撮ったりして時間をとられてしまったけど、やっと先輩を見付けたときは嬉しかった反面、さっきよりもさらに別れの実感で胸が埋め尽くされて足が動かなかった。胸元に卒業生の証の赤い造花と卒業証書を抱えた先輩も少しぎこちない笑顔を浮かべている。
「卒業おめでとうございます……」
「ありがとう。無事卒業しちゃいます」
「……先輩、泣いた?」
「えっ」
「目が赤いっス」
「あはは……バレちゃった」
泣かないと思ったんだけどな、と先輩は照れ笑いする。
オレも泣かないと思っていた。でも今ちょっと泣きそうだ。
「あの日の返事、待たせちゃってごめんね……」
「いや……オレの方こそ突然あんなこと言ってごめんなさいっス」
先輩の言葉に心臓が一瞬止まった。
まさか先輩の方からそれに触れてくるなんて……もしかしたら試合の時より緊張してるかもしれない。こんなこと言ったら笠松先輩にどやされるな。
「今日で卒業だし、大学に通うから今までみたいに気軽に会えなくなっちゃうし、涼太君かっこいいからからかわれてるのかとか私のことなんて直ぐに飽きちゃうんだろうなとかずっと色々考えてた」
「そ、それは絶対ありえないっス! 絶対に! だってオレ、こはる先輩じゃなきゃ、ダメなんスよ……」
言いながら涙が出てきて慌てて拭ったけど先輩に思いきり見られた。目の前で突然泣き出したもんだからまた目をくりくりさせて驚いている。何より恥ずかしすぎてヤバイ……泣かないように頑張ってたのに本当に最悪だ。
「確かにオレ、モデルとかやってるしチャラチャラしてるって思われてるだろうけど、こう見えても結構一途なんスよ……この一年、オレはこはる先輩しか見てなかった」
「えっと……ごめん……こんなこと男の子から言われたことないからどんな顔したらいいのか分からなくて……」
恥ずかしいと、こはる先輩は赤くなった顔を隠すようにうつ向いて口元に手をかざす。そんな先輩が可愛くて抱き締めたい衝動に駆られた。オレが先輩に飽きるなんてありえない。この世に絶対なんて確証は存在しないけど、今はその絶対を胸張って言い切れる。
「その……こんな私で本当にいいの? 全然可愛くないのに……」
「何言ってるんスか。先輩はめちゃくちゃ可愛いっスよ。オレが言うんだから自信もって下さい」
「ぷっ……自分で言っちゃう、それ?」
いつもの先輩の笑顔におさまったはずの涙がまた溢れ出してきて、視界がボヤけて咄嗟に顔を伏せた。本当オレ、どうしちゃったんだろ。先輩の前だから格好つけていたかったのに格好悪いところばっかり見せてる……いや、先輩の前だからこそ情けない部分もさらけ出せるのかもしれない。先輩にはオレの色んな部分を知ってもらいたい。
「よろしくね、涼太君」
「はい゙っ……ゔぅ〜……先輩のこと、絶対に幸せにするっスぅ〜!」
「泣かないでよ涼太君〜、これじゃ私がいじめてるみたいだよ〜」
頭を撫でられてオレは思いきり先輩を抱き締めた。抱き締め返してくれた先輩は背中を優しく擦ってくれて、オレは先輩の腕の中で泣いてしまった。
「オレ……先輩みたいに大学に通うかとかモデルを続けるかとかプロを目指すかとか……先のこと全然何も考えてなくてむしろオレの方が先輩に似合わないし、でもオレなりに焦りも感じてて……」
「私だってまだ目標とか決まってないし、何か秀でた特技がある訳じゃないよ。でも涼太君は今バスケを頑張ってるからずっとすごいと思うけどなぁ。バスケに詳しくない私が軽々しく何か言える立場じゃないけど涼太君が決めたことなら私は応援するよ」
「もぉー……先輩のそう言う大人なところがオレを焦らせるんスよ〜?」
「えぇっ……全然大人じゃないよ私なんて」
「でもあと二年もしたら先輩は二十歳になるし、大人じゃないスか」
「二十歳かぁ。まだ二年もあるからよく分からないや」
先輩の大人びた横顔に目を細める。何か眩しくて。
オレより先に大人になっていくから焦ってしまうんだ。もうすぐ17になるけど先輩には追い付けない。
「先輩……オレのこと置いていかないで下さい」
「いかないよ? どうしたの?」
「……オレバスケとか勉強ももっと頑張って格好よくなって先輩のことメロメロにしてやるっスから覚悟しててくださいね!」
「ど、どうしたの突然……これ以上涼太君が格好よくなったら大変だからちょっと困るかなぁ」
「あーもー!! 大好きっす先輩!」卒業シーズンと言うことで。泣いている黄瀬君の頭を撫でるヒロインが書きたかったのです。何かもう恐ろしいほどにヒロイン大好きな黄瀬君になってしまった。彼のお話を書くとどうしても先輩ヒロインになってしまう。(2018/3/5)
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