マジカル・セロリ

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 桜が満開を迎えた4月上旬。
 今日は待ちに待った登校初日。私もついに高校生に……所謂JKと言うやつになるのだ。
 誠凛高校は新設校で校舎も綺麗だし制服も憧れていたセーラー服だし、何よりこれからの高校生活が楽しみすぎて昨日全然眠れなかったんだよね。お母さんに叩き起こされたから今何とか起きれてる感じだ。

「なつみ! 全くもう、アンタは……いい加減鏡の前でニヤニヤするのやめてご飯食べちゃいなさい!」
「だってー、嬉しいんだも〜ん!」
「ほら、これお弁当。忘れないでよね」
「はーい。いただきます!」

 洗い終わった洗濯物を抱えたお母さんに促されて私はようやく洗面所からリビングへ向かう。ダイニングテーブルに並ぶ朝ご飯を見てお腹がグウッと音を立てた。やっぱり朝はガッツリ食べなきゃね。力出ないし!
 朝なのにご飯をお代わりしたらお母さんに呆れられてしまった。貴女の娘は緊張して食べられないとか言うほど繊細な心を持ち合わせていないのです……ごめんよ母上。
 ちなみにお父さんは単身赴任で今は家にいない。テレビ電話で制服姿を見せたら大泣きしてたなぁ……大袈裟すぎるよねぇ。

「あぁ〜……やっぱり眠いなぁ。じゃ、いってきまーす!」
「はいはい、車に気を付けてね」
「私は小学生か!」

 エレベーターに乗ろうとしたらボタンを押すより先に一階へ降りていってしまって、ほんの一瞬ガラス窓から中に赤い髪の人が乗っているのが見えた。顔までは見えなかったけどあの制服ってもしかして……。

「あれって……誠凛の、だよね?」

 一昨日くらいにお母さんが、高校生くらいの子がうちの上の部屋に越してきたって言ってたな。丁度私が出掛けてるときにお母さんがたまたまエレベーターに乗り合わせて挨拶したらしいけど……もしかしたらあの人が、そうなのかな?
 見覚えのあるブルーのラインが入った学ランに首をかしげていたらボタンを押し忘れてしまっていて、慌てて下向きの三角を押した。

「もー、早くこーい! 遅刻しちゃうよ!」

 これから始まる高校生活に胸踊らせながら私はエレベーターを待ちきれずに階段を駆け降りるのだった。






 桜吹雪が舞い散る中行われている部活勧誘。私も何枚かビラを渡されたけれど運動はそこまで得意ではないし、かといって文化部に入るほど奥ゆかしいわけでもないから今のところ部活をやる予定はない。でも調理部はちょっと気になるな――だってお菓子作りとかするって書いてあったから。学校で合法的に料理やお菓子が食べられるって幸せすぎる。私こう見えて料理は全く出来ない訳じゃないし。
 とりあえず候補は今のところ調理部かな。うーん……食い気ばっかりで色気がないなぁ、本当。別の高校に進学した友達からも散々言われて来たんだよね。しかたない、食べることが好きなんだから。

「あ……あの赤い髪……」

 今朝見たばかりのあの赤い髪の人がこの人混みを物ともせずズンズンと進んでいく姿が見えた。やっぱり同じ誠凛だったんだ。背も高いし赤い髪だからすごく目立つ。
 先輩なのかなぁ、なんて疑問に思いつつ私もあの赤髪の生徒と同じ方向へ歩き出すのだった。

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