「なんで俺が」
「だから俺達は仕事があるんだって。とにかく頼んだ!食うもん食わねぇといつまで経っても治らねぇから」
押し付けられるように手渡されたのは、食事の乗ったトレー。
暫く顔を見ていないと思ったら、流行りのウイルスに侵されてるらしい。
食事と一緒に渡されたのはマスクと手袋。
どうやら感染力が桁外れに強いらしい。
そう説明されたが仕方なくマスクのみを付けると、部屋に入った。
「あ、荼毘」
「なんだよ元気じゃねーか」
こちらに気づいた彼女は、ベッドの上でスマホを弄っていた。
「飯、全部食えってよ。Mr.が」
差し出せば眉間に皺を寄せて嫌な顔をした。
「おぇ〜。いらない。荼毘食べておいて」
「俺だって要らねぇよ」
そう言いながら彼女を見れば、以前より痩けた頬に血色の悪い顔色。
人に対して全く興味のない俺でもわかる、これは「病人」だ。
Mr.の言葉の意味を理解し、スマホに夢中な彼女の前に器ごと差し出した。
「俺が文句言われんだ、めんどくせぇから早く食えよ」
「だからいらないって!」
器に入ったうどんの汁が零れそうなほど、乱暴に押し返してきた。
「味がしないんだってば。ウイルスの後遺症なんだって」
目の前にかざされたスマホには、ウイルスの情報が書かれている。
「もう苦痛なの。何食べても味しないし、食感だって気持ち悪い。ただの作業なんだって、食事が」
ガキみたいに駄々をこねると、うっすら涙をうかべ必死で訴えた。
「……」
そんなこと俺に言われても困る。
そもそも俺には全く関係の無いことで、こいつが死のうが生きようが対してダメージはない。
だからといって、今日この場で死なれてしまっては後々面倒なのは間違いなさそうだ。
暫く沈黙が続いた後、完全に冷えきったうどんを啜った。
眉をしかめた彼女がちらりと俺を見る。
目が会った瞬間、彼女の顎を掴んで引き寄せた。
びっくりした彼女の半開きの口に、咀嚼したうどんを流し込んだ。
「ッゴホ……っ、なにすん……ん゙!」
何度も何度も、器からうどんが無くなるまで繰り返した。
最後の方は彼女は泣きじゃくり、ボロボロと口の端から溢れるがお構い無しだった。
要件を済まし、何食わぬ顔で部屋から出ていった。
*
「荼毘悪いな、食事任せちまって」
「あんなめんどくせぇこともうやんねぇよ」
「あぁ、それはいいんだけど……お前何やったの?」
「は?」
「食事届けたら泣かれたんだよ。食べるからやめてくれって」
「あー…食うのが作業みたいで嫌だって言うから口移しで食わせた」
「はぁ?!」
「うるせぇ、なんだよ」
「いや…あー…うん……お前に頼んだおじさんが馬鹿だったわ」