ヒモが似合う男とそれを飼う女

おかしい、こんなはずじゃなかった。
きっと仕事のし過ぎで疲れていたんだ。

顔から胸元まで広がる火傷を見た時は、咄嗟に目を逸らしてしまった。
けれどもよく見たら綺麗な顔立ちは私のモロタイプで、どこからどう見てもお金を持っているようには見えなかった。
ってことは腹も空かせているだろうし、住む家もないだろう。
そんな勝手な思い込みをして彼の手を引けば、意外にも彼は黙って着いてきた。

玄関のドアを開けて

「ちょっと狭いけど適当に、」

なんて話している間に、彼はさっさと靴を脱ぎコートをほっぽり投げるととソファに座った。
ソファにくつろぎながら頭を預けたままこちらを見て

「飯は?何ご馳走してくれんの?」

「…ぇ、あ…な、なんも無いから、頼もうか、」

「魚じゃなきゃなんでもいい」

そう言って立ち上がると私の横を通り過ぎ、冷蔵庫に手をかけた。
慣れた手つきでビールを取り出すと、美味しそうな音を立ててプルタブが開いた。

「何見てんだよ。アンタも飲みてぇの?」

そう言って飲みかけのビールを私に手渡して、我が物顔で再びソファに座る彼は先程拾ったばかりの男だ。
ふつふつと溢れ出る怒りで、握ったビール缶からベコっと音が鳴る。

「で、ていってよ、」

「なんか言ったか?」

「出ていってって言ったの…!」

「は?俺を飼いたいって言ったのはアンタだろ?」

私の言葉にイラつきもせず、馬鹿にしたように笑った。

「それはそうだけど、こんなに礼儀知らずとは思わなかった!」

「アンタ面白いこと言うな。男連れ込んでおいてよく言えるよ」

立ち上がった彼が、立ちすくむ私の元へとゆっくり歩き出した。
後ずさって逃げようにも、背中に感じるのは冷蔵庫の機械音だった。
咄嗟に振り向上げた腕はビール缶ごと彼に掴まれてしまい、飲み口から零れる液体が私と彼のシャツを汚した。
ビール独特の匂いがして、真っ白なシャツが薄黄色に染まって肌にくっついた。

「礼儀なんて知らねぇけど、アンタを喜ばせる術は知ってるぜ?」

「、んっ!」

彼の唇が重なって、抵抗する間も無いほど舌が口内を掻き回した。
息するのが必死で、刺激に耐えるように彼のシャツを握った。
歯列をなぞり、舌の根元まで絡んでしまえばさっきの怒りが霞んでいく。
それでも唇同士が離れて首筋を舐められれば、ギリギリ残った理性が働いた。

「ち、ょ……ひぁッ!ま、まって」

「何?もっと乱暴なのが好みか?」

「違ッ、」

「ならもっと悦べよ」

「あぁっ……んん…ぁッ、」


気付けば朝を迎えてしまい、隣を見れば彼の姿はなかった。
夢だったのかと思えば奥の方からシャワーの音がして、それだけで大事な部分がじわりと熱くなった。

しばらくして出てきた彼は身支度を済ませコートを手に取ると、挨拶もなしに玄関に向かった。
私はそれを追いかけて彼を引き止めた。

「、あのさ」

「ん」

「コレ……よかったら使っていい、から…」

差し出した鍵を腕ごとを引かれると、彼のおでこと私のおでこがコツンとぶつかった。
咄嗟のことに引こうとした後頭部は、がっしりと彼の手で包み込まれた。
目の前に広がるのは彼の瞳の色で目が離せなかった。

「いい子で待っててくれよ」

そう言ってあっさり離れた彼は、玄関にへたり込む私に振り向くことも無く家を出て行った。