7時10分
こんな忙しい時間帯に、インターフォンを押してくる奴なんてそうそういない。
スーツのジャケットに腕を通しつつ、覗き穴にから見えた男にため息を着いた。
「はぁ…荼毘」
ドアチェーンを外し、鍵を開けたと同時に開いたドアのせいで倒れそうになった。
そんな私を軽く押し返したかと思えば、適当にブーツを投げ捨て部屋の中に上がり込んだ。
「っ、ちょ!荼毘!これから仕事なの、帰って!」
私の制止など気にせず、慣れた手つきで寝室を開ければベッドに倒れ込んだ。
あぁ、昨日替えたばっかのシーツ。
その小汚いコートぐらい脱いで欲しかったと心の中で呟いた。
「ねぇ、来るなんて聞いてない」
「言ってねぇ」
被せ気味にそう呟いては、彼がため息をついた。
ため息を着きたいのはこっちだ。
「知らねぇ奴がいる所で寝れねぇんだよ」
彼の友人関係なんて全くもって知らない。
けれども彼から連絡が来る度、向こうの方で男性の声がしていることはあった。
最近つるんでいる仲間とやらが、そうなのだろう。
人がいる所で寝れないなんて、意外と繊細な部分あるのだと少し可笑しくなってしまった。
うつ伏せになって枕を両腕で抱え込んだ彼が、こちらを見てニヤついた。
「ヤラしてくれる女の所行っても寝かせてくれそうにないからなァ」
前言撤回、ただのクソヒモ野郎だ。
そこら辺にあったぬいぐるみを顔面目掛けて投げつければ、すでに毛布を被った彼の後頭部らしい部分に当たって転がった。
何だか悔しくて布団をはぎ取れば、すでに丸まってる彼の姿。
耳を塞いで、目を瞑る眉間はシワがよっている。
「少しぐらい寝かせてくれよ…。」
やけに弱々しい声と、よく見たらいつもよりも悪い顔色。
段々と静まっていく怒りの代わりに、今度は心配で心が落ち着かなくなってきた。
声を掛けることも出来ずに黙っていれば、彼からは規則正しい寝息が聞こえてきた。
ハッとして腕時計を見たが、こんな状況じゃ仕事には行けないと思った。
1時間もしないうちに瞳を開けた彼が、ペタンと座り込む私を見ると起き上がった。
「帰る。……悪かったな」
「っ、ダメ!」
再び横になる様、彼の腕を掴んだ。
「ほ、他の女の次でもいいから…荼毘が休めるなら、まだ居てよ…」
こんな女々しい台詞、私から出るなんて当の本人が一番驚いている。
なんて都合のいい女だろうと思われても、彼が寝息を立てて寝れるならなんだって良かった。
いつの間にか瞳いっぱいに溜まった涙は、瞬きしたら溢れてしまいそう。
「ばーか、嘘に決まってんだろ」
そう言って寝転んだ彼が、ついでに私の手を引いた。
抵抗することもせず、素直に彼の横へと寝転んでギュッとしがみついた。
「今度は甘えたか?キレたり泣いたり忙しい女」
呆れたように微かに笑った彼が、さっきよりも少しだけ顔色が良くなった気がした。