燈矢の面倒を見たいと申し出たのは、これまでの償いのつもりでもあった。
周りを囲う壁とガラスは例の戦い後、比べ物にないほど強化されたものだった。
分厚いソレ越しの燈矢はあまりにも遠すぎて、黒焦げの息子が必死に息をしていることでさえ遠く感じ、目視するのは難しかった。
最後の言葉以降喋ろうとしない燈矢は、時々視線を動かしては止まりを繰り返した。
焼け落ちてしまった瞼に、この光は強すぎないかと目を背けたくなることもあった。
不規則にガクガクと震える下顎を見て、何度も身を乗り出した。
そんなある日、突然燈矢がポツリポツリと喋りだした。
「な ァ…ォ と、うさ…ん」
「燈矢!…燈矢…!!」
ガラスに両手を付けて叫ぶ俺のことが、見えているかなんて分からない。
俺の事が見えてなくても、それでも良かった。
目線がグラグラと宙を舞ったあと、辛うじて目が合った気がしたのだから。
「あの、女は…どこ、……?」
「……?」
「ほ ら、あの …馬鹿 みたいに、よく笑 う女……なま、え忘れ……ちま、った」
「……ッ!」
一人の女性の顔が思い浮かんだ。
ホークスから差し出された一枚の写真に映った女性は、荼毘と名乗る息子の横で幸せそうに笑う姿だった。
「どう せ、知ってん、だろ……?な ァ、 いいだろ……?アン タに夢中、で 忘れち、まってたんだ…」
「……すまない。その質問には応えられない」
彼女が今どこでどうしているか、生死すら、答えることは出来なかった。
「は、ひで ェ父親……」
か細い声でそう呟いた燈矢は、ゆっくりと俺から視線を下げた。
奥歯を噛み締めて、目の前のガラスを思い切り叩いた。
傷一つ付かないガラスに、血で滲んだ拳をギュッと握りしめるしかなかった。