みんなでコストコ

朝早く待ち合わせ、2台の車でコストコへと向かった。
なんだかんだ久々に5人揃った私たちは学生の頃から変わっていない気がする。
それでもみんな大人になったし、私と勝己は結婚して子供も産まれた。
そんな一人娘もそろそろ妹か弟を迎えようとしている。

「前回より結構大きくなったね」

そう言って車から降りた瀬呂はお腹をさすった。

「いきなりお腹触るとかセクハラじゃん、瀬呂」

そう言いながらお腹に手を伸ばす上鳴の手をパシンと振り払う勝己に苦笑いの切島。

「ンな事言った後に触るてめぇの方がよっぽどセクハラだろうが」

「まぁまぁ、落ち着けって。それにしてもデカイな。チビちゃんの時の比じゃないもんな」

「ね、ホントだよ。双子ってこんな大きいんだよね〜」

そう、次に出来た子供たちは双子なのだ。
大きなお腹をさすると色々な所を蹴ったり叩いたり、お腹の中は大忙し。

「性別は?」

「あえて聞いてないの。楽しみにしておこうと思って」

「へぇ、お前らしいのな。俺、やっぱり女の子がいい〜」

「んー、俺は男がいいな!」

「なんでお前らが決めんの。爆豪は?」

「ンなの元気に産まれりゃどっちでもいいわ」

「…それで?本当は?」

「…男」

「えー、なんでよ?女の子ばっかりも可愛くない?男の子も見たいけどさ」

「男だったら姉ちゃんもかぁちゃんのことも守れンだろ」

「かっちゃんらし〜」

「漢らしいな!ばくごー!」

「確かに。それに女の子は嫁に行っちゃうしねー?」

「あ?やめとけや」

茶化された勝己は心底嫌そうな顔。
5人で集まった時にしか見れない勝己の顔に懐かしさを感じる。
私と娘といる時はもっと優しい顔だけど、みんなといる時は少年に戻ったようなあどけなさがあるのだ。

「ママ?らっこして?」

この子はもうすぐ2歳になるチビちゃん。
まだ妹か弟が産まれるなんて実感もないし、甘え坊の女の子。

「ママは腹が大きいから難しいんだ。パパが抱っこしてやるから」

そう勝己が両手を伸ばせば顔を左右に振り泣きそうな娘。
パパが嫌なのではなく、ママがいいと駄々を捏ねる娘に少しショックな勝己パパ。

「お、チビちゃん。こっちくるか?」

切島がそう声をかければ嬉しそうに両手を伸ばす娘。
余計な事を言いそうになる上鳴の口を塞ぐ瀬呂に、見るからに嫌そうな勝己。

「きり!らーいすき」

きりと呼ばれた切島は頬ずりされて嬉しそうだ。
勝己を慰めようと手を握れば、娘には聞こえないような声で

「お前らはアイツにだまされんなよ」

そうお腹に向かって言うから、聞こえてた瀬呂と私は笑った。



「俺、ちょっと隣の店見てきていい?並んでてよ」

そう言って瀬呂は列から離れた。

「なぁ、今日何買うの?」

2台のカートを押しながら開店前の列に並んでいると上鳴が声をかけた。

「うーん、うちは定期的に来てるから、定番のばっかだよ」

「俺さ、リスト作ってきたんだけど見てくんね?」

「いいよ!てかさ、気になるやつあるならシェアする?一人暮らしだと消費キツくない?」

「あーそれ助かる!色々調べてたんだけど欲しいやつほとんどでけぇの!」

手渡されたリストを見れば確かに。
トイレットペーパーもキッチンペーパーもあっては困らないが、一人暮らしで置く場所にも困るだろう。

「あ、これ!新商品でしょ?うちも買うつもりだったからよかったら。あとねー、ここらへんの肉とかは勝己に処理してもらえばいいよ」

「は?何勝手に言っとんだ。そんぐらいてめぇでやれ」

「えぇー!かっちゃん頼むって!」

「いいじゃん。うちで小分け処理してあげれば」

「…チッ。手伝えよ」

「手伝う手伝う!いやぁマジ助かるわぁ」

「その代わり、このドーナツ一つちょうだい」

「一つと言わず全種類持っていっていーって」

「わー!ありがと」

「なになに?楽しそうな話してるじゃん」

「ん、おかえり」

しばらくして帰ってきた瀬呂の手には暖かい飲み物が。

「妊婦って寒さダメって言うじゃん。今日なんかさみぃし」

手渡されたのはホットのルイボスティー。
こういう所本当に気の利く人だと思う。
しかも飲み物のチョイスも最高。

「ありがと。良い旦那になるよ」

「はは、こちらこそ。お前に言われると嬉しいわ」

「実はちょっと寒くてお腹張ってたの」

「大丈夫なんか」

「あんま無理すんなよー」

「うん、大丈夫。もう残り1ヶ月切ってるしね。しばらく出来なくなる事はやっておきたいの」

「産まれたら最低1ヶ月は家出れないんだっけ?」

「そーそー、私だけなら出れるけどね。けど産後の1ヶ月って母体も休ませておかないと後に本当にくるから」

「それで無理しまくった誰かさんが言うんだからそうなんだろうな」

嫌味っぽく言った勝己が本当は心配してるのも分かっている。
完璧な嫁をこなそうとして無理した私は、娘が生まれて4ヶ月後に体調を崩したのだ。
上手くいかない育児と家事に情緒が不安定になってしまった私は遂には泣き出してしまった。
私の異常にいち早く気づいた勝己は、俺も一緒に育児をさせろと苦しそうに言ってきたのを今でも覚えている。

「なるほどね。そういうのちゃんと覚えておいて、自分の時に活用しないとだよな」

「そうそう、奥さん出来たらどうやって機嫌取るとかもな」

「上鳴の奥さん鬼嫁確定なの?」

「やだけどさー、俺尻に敷かれるタイプじゃん?そこらへんうまくやっていかねーと」

「その前に相手からだろ?」

「はぁ?切島うぜー」

「こら!そなこといわなぁよぉ!」

「え!?チビちゃんごめんてぇ」

娘にペコペコと謝る上鳴の姿を見て微笑んだ。

「ほら、そろそろパパと交代して?きり重いって」

そう娘に声をかければ首にしがみつきイヤイヤと横に振る。
それに嬉しそうに笑う切島も満更でもなさそうだ。

「はは、いいって。今日はずっと抱っこしててやるからな。もう少しでおねぇちゃんになるんだもんな!今のうちたくさん甘えとかねーと」

「おねーちゃ?チビちゃんはチビちゃんだよぉ」

「まだわかんねーか、ごめんなぁ」

切島の顔の傷を触ってみたり、髪の毛を掴んでみたり娘は楽しそうだ。

「いいよなぁ…子供」

「ん?欲しくなった?」

「お前のとこ長ぇだろ。ちゃんと話してんのか」

「まぁまぁ勝己。切島だってタイミングがあるんだって」

「いや、俺はいつでもいいんだって。けど彼女はまだ働きてぇって、今の仕事楽しいんだと」

「バリバリのキャリアウーマンだもんね、彼女さん。結婚したらやっぱりやりずらいこともあるのかもね」

「難しいよなー、結婚も子供作んのも」

「結婚してすぐに子供ってわけじゃねぇだろ。そこらへんしっかり話せや」

「……おぉ!だよな!ちゃんと話してみるわ!」

「子供がいる事が全てじゃないよ。いたらすごく幸せなこと沢山あるけどさ、やりたいことも行きたいところも制限されるし。夫婦の時間だって減っていくもん。結婚だってそうだよ。してもしなくてもずーっと一緒にいることは出来るんだし。人それぞれだよ」

「おぉ!なんかそう言われたらスッキリしたわ。難しく考えすぎてたのかもしれねぇ」

「そうそう!子供に癒されたかったらいつでもうちにおいで」

「だからってうちの娘を誑かすなよ」

「はははどうかな、ばくごーんちのチビちゃんは可愛いからなぁ!」

そんな会話をしてるとスタッフからカードの提示をお願いされ、コストコ内へと入った。

大きなカートに飛び乗り騒ぐ上鳴に、注意しながらも一緒にはしゃぐ瀬呂。
娘を抱っこしながら振り回される切島を見て、終始気に入らなさそうな勝己。
大人になってもこんなに騒げる彼らを見て、私も!とはしゃげば焦った顔した彼らに笑いが零れた。





その日の夜、お腹の張りは強くなり始めた。
娘が寝る隣で、腰をさすってくれる勝己。

「陣痛来てる感じなンか?」

「ん、んー、たぶん?なんかまだ我慢出来る気がするから前駆陣痛な気がするんだよね」

「…無理すんなよ」

「勝己にはバレちゃうね、っ」

「当たり前だ…不安なことあンなら話しとけ。そんな状態で出産なんか体に悪すぎんだろ」

そう言われ、我慢してた物が次々と口から溢れた。
コロナ禍で、立ち会いもお見舞いも出来ない状態での出産への不安と、娘への心配。
甘えん坊でママっ子なこの子が寝てる間に、私が病院へ行ってしまうこと。
起きたらどんな気持ちで退院までの時間を過ごすのか。
娘に会えないのが一番辛いなぁ。
そう伝えれば勝己は汗ばむ私のおでこをタオルで拭うと手を握った。

「まずは元気なそいつらを産んでこい。そんで出来るだけ楽してこい。甘えられる所は医者でもナースでも使え。その間チビは俺が全力で甘え殺したる」

「ふふふ、殺しちゃだめじゃん」

「そんぐらい本気ってことだわ。帰ってきたら今度はてめぇを甘え殺したる。双子は任せろ、だからお前はヘラヘラしとけや」

「ん、ありがと」

「不安にさせねぇから、余計なこと考えんな」

その数時間後、本格的な陣痛に変わりタクシーで病院へと向かった。
翌日、無事に産まれた子供達とテレビ電話越しの勝己と娘の笑顔に、幸せな気持ちになった日だった。