正直容姿には自信があった。
学年、いや学校で一番可愛い自信があった。
ついでに言うなら、容姿だけじゃなくて性格だってソコソコ良い。
みんなに好かれるとまでは行かないが、友人も多かった。
嫌いな奴とまで仲良く出来るほど心は広くないけれど、いじめをするタイプでも無い。
悪い所と言えば成績は中の中で、男の友人が多い。
それぐらいだ。
そんな私が爆豪先輩にフラれた。
「爆豪先輩、好きなんで」
「わりぃ。興味ねぇ」
食い気味にそう言った先輩は、固まる私を気にすることも無くその場を後にした。
学校一の美男美女が一緒にいるのだから、周りに人が居ないわけないのだ。
ザワザワと周りの声が遠くに感じる。
私だけ時が止まったようだった。
爆豪先輩が好きだって噂で聞いたから、髪の毛を大人しめの栗色にした。
スカートだって膝よりほんの少し上。
メイクもナチュラルにして、派手なアクセサリーもネイルもやめた。
ガハハと笑う癖も直したし、口調だって気をつけた。
なのに、私の告白は最後まで聞いてすら貰えなかった。
次の日、学校に訪れた私はみんなの注目を集めた。
グレージュに染められた明るい髪に、キラキラとラメが入った目元。
気崩されたワイシャツに、下着が見えそうなほど短いスカート。
昨日までの“私“はどこへ。
「お、やっと諦めたのかよ。やっぱお前はそっちの方がいいって〜」
「そうそう、そのビッチ感が可愛いよお前は」
ほら、私はやっぱりこっちの方が可愛いんだ。
クラスの仲良い男子達だってこうして褒めてくれる。
ビッチだなんて余計な一言があったけど、別に何と思われようが構わない。
私の身は私で守るし、そんな男に引っかからないのだから。
“あんな奴“の為に頑張った私が馬鹿だった。
こんな私の努力に気づかないなんて、あの有名な爆豪先輩でもたいしたことなかったんだ。
自分にそう言い聞かせた。
それでも先輩の仲良い人が中庭を歩いていれば、彼は居ないのかと探してしまうし、女の子達がキャーキャー騒いでいれば気になってしょうがなかった。
あれから不真面目な生徒に戻ってしまった私は、授業を抜け出して自販機の前にいた。
イヤホンをして大好きなアーティストの歌を聞きながら、買ったジュースを取り出した。
久しぶりのネイルに缶のタブがなかなか開かない。
爪に負担がかからないように指の腹で押し上げようと苦戦していたら、横から伸びた手がジュースを取り上げた。
プシュ
タオルを首から下げたジャージ姿の爆豪先輩が、器用に片手で開けたのだ。
突然の登場に心臓は跳ね上がり、体温がどんどん上昇していくのがわかる。
こちらをちらりと見た爆豪先輩が、口をパクパクさせて何か言っている。
耳元のイヤホンをトントンと指先で叩かれた。
震える指先でイヤホンを外した。
「ンな爆音で聞いてっと耳イカれんぞ」
「……」
「おい、聞こえてねぇのかよ」
「き…きこ、えてます…」
「ん、ならいいわ。」
ガコンと自販機からジュースを取り出す先輩をひたすら目で追った。
喋ることも出来ないし、その場から逃げることも出来なかった。
「やたら変わったな」
「…ぇっ」
「見た目」
ジュースを飲みながら近づく先輩に肩が揺れた。
染めたばかりの綺麗な髪の毛をサラリと指先で触れる。
「…ふーん、良いんじゃね?俺はそっちの方が好きだわ」
突然そんなこと言う先輩は頭がおかしいのだろうか?
昨日あんなに盛大にフッておいて、今更好きだなんて思わせぶりにも程がある。
「っ…!これが、ホントの私です…!」
悔しくて声を張り上げてしまった。
思ったより大きな声が出たことにハッとすれば、先輩は目を細めて笑った。
なんで笑うの?なんで今更好きなんて言うの?もう諦めようって思ったのに、そんなの好きになっちゃうじゃん。
泣きそうなのを隠すようにうつ向けば、頭上から先輩の声がした。
「入学式ン時見かけたんだよ、お前のこと。上鳴がクソ騒いでた」
随分前から私のことを知っていてくれた事に、我慢しようとした涙はどんどん溢れた。
「そんで次見かけた時は全く違ぇ格好して、そこら辺の奴と同じようにしてたろ」
「あ、あれは!先輩の好みになりたくて…!」
咄嗟に顔を上げて反論した。
真っ直ぐこちらを見つめる先輩の目が見れない。
「何情報だよ」
「…わかんない、けど…噂です…」
「俺の好みなんか誰にも教えた事ねぇよ」
少し呆れたような先輩の表情にズキンと心臓が痛くなった。
「人の好みに合わせるような奴に興味ねぇんだわ」
“興味ねぇ“あの時言われた台詞だ。
もう1回言われるとは思ってもいなかった。
「ンで?てめぇは今どうなんだよ」
「…今の私が…一番好きな私、です」
「なら今のてめぇが一番好きだっつーことだわ。ただ…このスカートは短すぎんだろ、もうちょい直せよ」
指先でスカートの裾を掴むと、クイクイと下へ引っ張った。
じゃぁな、そう言って頭を少し乱暴にくしゃりと撫でた。
飲み終えた空き缶をゴミ箱に投げつけて、ジャージを肩に掛けた先輩は体育館へと歩き出した。
「っ…先輩!!やっぱり好きです!」
こちらを向くことなく手をヒラヒラさせながら先輩が言う。
「今度は最後まで聞いてやっから後でこいや」