一方的に別れを切り出したのは高校の卒業式の次の日。最後の爆豪の顔が忘れられなくて、逃げるように地元を出てきた。あれから数年。無理やり連れてこられた合コン先で会うとは思わなかった。
大学からの友人と久しぶりに呑む機会があった。
特にオシャレすることも無く、Tシャツにパンツにキャップで行けば友人たちはみんな本気モードだった。
「合コンならパスだって言ったじゃん」
逃げようとする私の腕を掴んだ友人の顔は本気だった。
「たまには私たちに付き合ってよ」
そう言って両サイドから腕を拘束されて店に入った。
「みんな素敵ですね!」
「いやいや、君たちこそモデルさんかと思ったよ」
「やだぁ〜」
なんてThe合コンみたいな会話で楽しんでる中、目の前の男は私をじっと睨む。
「爆豪くんってカッコイイね!めっちゃモテるでしょ!好きなこのタイプってどんな子?」
友人の中でもイケメン好きの子が爆豪をロックオンし始めた。
「ショートの女」
「…えっ」
周りを見ればロングばかりの中に私だけショート。
待て待て待て。空気読めって、爆豪さんよ。痛いくらいみんなの視線は私に刺さってる。付き合ってたのなんか何年前の話よ!そんなに私に振られた事が許せなかったのか!?
「そ、そっか…じゃぁ好きな格好とか」
友人も引くに引けず質問を続けた。
「ヒラヒラしたのは好きじゃねぇ。Tシャツにパンツでキャップが似合う女」
いやいやいやいや、まさにそれ私ですやん。何こいつわざとやってんの!?すごい性格悪いじゃん!この後みんなでトイレいって作戦会議どころか、集団リンチされるんじゃないの!?そういうのも全部分かってて言ってんるんだこの男は。
他の女子も男子も、空気のピリつき具合に慌て始めた。
意地でも目を合わせたくない私と、こちらをずっとガン見するこの男。
「じゃ、じゃぁさ、女の子たちはどんな人が好きなの?」
ナイスアシスト!一人の男が空気を読んで話題を変えた。更に一際空気が読める友人がすかさず答えた。
「私から行くね!えっと、スポーツが好きな人!一緒
に野球観戦とかしたい!」
「おぉー!いいね、俺もスポーツ好きだよ!」
「じゃぁ次私!私ねぇー……」
どうにか本来の合コンに戻りつつ、気づけば私の番。隣の友人が肘で私をつつく。男子からも「頼んだ」と無言のプレッシャー。
「え、っと……私は読書が好きで、お互いの好きなことを尊重し合える人がいいか、な……」
適当に思いついた答えをすれば、男の子からの反応も良さそうで、友人からも頷く姿が見えた。ホッとしたのも束の間。
「ハッ!てめぇが好きなのはくだらねぇ漫画だろーが。無差別に誰にでも懐くような奴が何気取っとんだ」
目の前のあの男が鼻で笑った。怒りのピークは頂点に達し爆発した。
「はぁ!?なんなのあんたさっきから!いつまで彼氏気取りしてんのよ!他人のフリしとけばいいのに!」
「どこが彼氏気取りだアホ!勝手に勘違いしてんじゃねぇ!表出ろクソ女」
そう言って掴まれた手。強引に店の外まで連れていかれれば、振りほどいた。
「いったいんだけど!」
掴まれた腕を大袈裟にさすれば、バツが悪そうに爆豪が眉をピクリと動かした。
「どういうつもり!?」
「あ?それはこっちの台詞だ」
「…?なにが」
「急に別れるって言い逃げしやがって…実家まで出ていきやがったら捕まえらんねぇだろうが」
「つ、捕まえるって人を犯罪者みたいに……。べつにいいでしょ、そんな昔のこと」
「よくねぇよ。忘れた頃に人の夢ん中まで出てきやがって。てめぇなんか忘れてぇのに、なんでンなとこにいんだよ」
眉間に皺を寄せて苦しそうな顔した爆豪が言った。
普段誰にもこんな顔しないはずなのに。数年前の別れ話の時もこんな顔してたっけ。数年前の出来事がフラッシュバックして、罪悪感と切なさが私を襲った。
「私だって合コンなんかきたくて来たんじゃないし。それに私の中で爆豪は無かったことになってるよ」
そんなわけない。数年ぶりに会っても相変わらずで、輩かと思わせるほど怖い顔面も、鋭い目つきも。全部あの頃と変わってなくて、やっぱりカッコイイ。そう思った。
色んな人と付き合ってきたけど、やっぱり爆豪が1番かっこよかったし、1番自然体で居られたのだから。一瞬も忘れたことないのは私の方だった。
私の冷たい言葉を聞いて、俯いた彼がため息をついて頭を乱暴にかいた。
「……そうかよ。わりぃな絡んで」
そう言って渡された手には、私の荷物。いつの間に荷物まで持ってきたんだと、相変わらずな彼に下唇を噛み締めた。
「…そぉいうところ。なんでも先回りして、なんでも出来ちゃう爆豪がやだったの」
「……」
「勉強もスポーツも、料理も裁縫も全部ぜんぶ!最初は誇らしかったけど、なんのために女の私が居るのか不思議だった。私じゃあんたの事何一つ喜ばせられないんだってずっと思ってた」
「んなわけねーだろ。ぜんぶてめぇのためだった」
「っ!なにそれ!私が何も出来ないから!?」
「違ぇ!てめぇの喜んだ顔が見てぇから、ババァに習ったり勉強したりしたんだわ!」
「……ぇ、ちょ…っと待ってなにそれ…」
彼の言葉に呆気に取られてしまい、力の入った肩がゆっくりと抜けていく。
私にしてみればあの時の鬱憤を数年越しに発散してやったところなのに、あの爆豪が「全部私のためだった」なんて言い出して。悔しい気持ちも腹立たしい気持ちも、全部一気に溢れ出ちゃって。残ったのは恥ずかしさ。
両手で顔を覆って、爆豪に見られないように俯いた。
待て待て、数年間ずっと私の夢を見続けて、ずっと私のことを引きずってたって事!?スパダリを演じてたのは私のためで、才能マンと呼ばれた爆豪が実は頑張り屋さんだったってこと!?
「おいこら、てめぇ何ニヤケとんだ。」
「別に…ふふ、にやけてなんか、ないです…ふふ」
「まぁ、泣かれるよりかはいいわ。それで?」
「それで?」
「ここまで俺に言わせてんだ。ニヤけてるってことは喜んでんだよなぁ?」
グイグイと私に近づく爆豪。昔と変わらない、少し悪いこと考えてる顔で私を見下ろす。
「これからどぉすんだって聞いてんだよ」
「……え、っと…やり直し、ます?」
「何を前提に」
「何をって……誤解を解く?仲直り?」
「ハッ笑わせんな。結婚を前提にだろうが」
そう言って気づけば彼の顔が目の前にあって、あっという間に口を塞がれた。目を瞑る間も無いうちに、リップ音をたてて離れた爆豪。
真っ赤な私を見つめて、彼が笑った。
それは唯一昔とは違う。
目を細めて柔らかく笑った彼の顔だった。大人になってこんな優しい笑い方になったんだと。
私の知らない間の彼のことが知りたくなって、彼の腕を強く引っ張った。
少しだけしゃがんだ彼の口にキスをした。