その人本当に推しても大丈夫ですか?

数年前まで新人ヒーローとして、期待の彼だった。
愛想のないファンサも、口の悪い発言も、全てにおいて若者の心を鷲掴んできた彼が。
今はヴィランとして生きているらしい。

彼に何があったのかは誰一人として知る者は居らず、幼馴染で有名な『デク』でさえ、彼に対しては無口を突き通している。
以前の彼のファンはほとんどが幻滅し、彼から離れていったと思いきや好意を寄せるファンは少なくないらしい。
表ではヴィランを支持することは罰される世間で、彼女達は嘘をついて彼を想い続ける。
そんな私もその1人だ。

派手な爆発音がすれば、そこには彼がいるも同然だ。
現場にすぐ向かえば、夜の空を爆発と共に飛ぶ彼の姿があった。
必死で追いかけるも、あっという間に夜空に消えていく。
会えるかどうかなんて分からない彼の姿を追いかけ続ければ、いつの間にか知らない路地裏に来てしまった。
乱れる私の呼吸音と、ポタリと顎から伝う汗の音がやけに響く。
酸素の足りないせいか、目の前がチカチカとして薄暗闇に慣れないでいた。
来た道を戻ろうと後ろを振り向いた所で、誰かにぶつかると尻もちを着いてしまった。
こんな薄暗い路地裏で誰かにぶつかるなんて、危険な事だと頭の中は警報が鳴った。

「、ご…ご、めんな、さ」

冷や汗がこめかみから垂れ、震える顎がガチガチと鳴る。
頭が上がらなくて、ひたすら自分の足元を見て謝った。
足元に落ちた【中指立てて】の団扇が、なんとも馬鹿らしく感じる。

「おい」

スっとしゃがみ込んだ男が、声をかける。
一瞬時が止まった気がしたのは、彼の声に聞き覚えがあったから。
よく見たらボロボロに汚くなったブーツに、禿げかけたオレンジ。
ゆっくりと視線を上げれば、そこには大好きな彼がいた。

「てめぇの面よく見るな」

「ッ!」

絶えず追いかけてきた私を認識していたことに、涙が出た。
じっと睨みあげる彼から視線が外せない。
団扇にチラリと視線を落とした彼が、馬鹿にしたように鼻で笑った。

「ハッ。ンなのでいいのかよ」

そう言うと私に向かって中指を立てた。
何も反応出来ない私の様子を見るかのように、少しだけ首を傾げた彼を見て、今日ここで死んでもいい。そう思った。
ポロポロと流れ続ける涙を見て、彼が私の顎を掴んだ。

「ん゙っ」

咄嗟に力が入った首元も気にせず、強引に上を向かせられると反対の手のグローブを口先で掴んだ。
するりと脱がされたグローブから覗く、ゴツゴツとした手。

「舌出せ」

「、ぇ」

「いいから、早くしろ」

言われるがまま、震える口から舌を差し出した。
自分の震える顎で舌を噛まぬよう、彼の期待に添えられるよう限界まで伸ばした。
どんどん近づいてくる手のひらが、舌先から触れると根元まで擦り付けるように押し付けられた。
しょっぱい味と男性独特の汗の匂いが広がって、鳥肌が立った。
離れていく手を見て、何が起きたか分からない私。
そんな私を見て、彼が耳元で囁いた。

「俺の個性、分かるよな?」

「ッ!!」

「boom」

意地悪くそう言った彼と共に、口の中をバチバチと何かが弾ける感覚。
舌の先に感じる強い刺激が、唾液と共に流れていく道を走っていく。

「ん゙っ、!ぎ、」

覗き込んだ彼が舌なめずりしてるのを見て、下半身が収縮してじんわりと温かくなるのを感じる。
だらしない顔をした私を見て、彼が立ち上がった。

「気分がイイ日は乗ってやるよ。まぁせいぜい頑張るこった」