あぁ、やってしまった。
あと少しの所で油断してしまった。
動かない右半身を引き摺って、どうにか逃げ込んだのは古びた倉庫だった。
みんなのことは心配ないだろう。
逃げ足だけは早いミスターがついてるんだ、きっとトガちゃんだって無事なはず。
さて、私はこれからどうするか。
ホントだったら、今すぐにでもヒーローをぶっ殺してやりたいところだけど。
残念ながらもうすでに右手足の感覚はない。
逃げる事も戦うことも出来ないなんて、ダサすぎる。
こんな姿弔には見せられない、なんて苦笑いがこぼれた。
みんな悲しんでくれるかな…私、少しでも役に立てたかな。
そう考えると彼女の顔が頭をよぎる。
トガちゃん、きっと悲しむだろうな。
初めて会った時から好きだった。
荼毘はイカレ女なんて言うけれど、私にとっては可愛らしいどこにでもいるような女の子だった。
私が生きやすい世の中になって欲しいなんて言ってたけど、一番の仲間思いは彼女だった。
女は彼女と私だけで、何をするのにも2人だった。
喜びも悲しみも2人でたくさん分け合った。
「大好きだよ」そう言えば、すぐに「私も大好きです」そう返してくれた。
手を差し伸べれば握り返してくれて、
抱き締めれば、私の力よりももっと強く抱き締め返してくれた。
キスをせがめば、少し照れた顔してキスしてくれた。
彼女のおかげで、私は幸せだった。
虚ろな意識の中、胸元で震えたスマホ。
震える手で掴んだが上手く力が入らず、足元に落ちた。
画面には[トガちゃん]の文字。
光る液晶が着信を知らせた後、真っ暗になった画面。
しばらくしてまた光る液晶。
数分おきに来る着信にギリギリの意識が保たれる。
鬼コールがトガちゃんらしくて、笑いがこぼれる。
「おい!大丈夫か!」
頭上からした声にゆっくり瞼を開けた。
「……みすたーぁ?」
地べたに座り込む私の前にしゃがむと、何やら応急処置を始めた。
どっからどうみても手遅れな私に、なんて優しい男なんだと改めて思う。
「傷塞いだら俺の圧縮で運んでやるから、耐えろよ!」
「ふふ、無理だよ」
「はぁ?無理なわけねぇだろ!諦めるなって」
「私が一番わかってるの…っはぁ……それより、お願い聞いてくれない、かな?」
そう言った私を前にして、彼が黙った。
「トガちゃんにね、伝えて欲しいの
大好きだよーって
ずっとずっとずー……っと
私ね、この人生選んで良かったって。
全部ぜんぶ、君のおかげなの。
だからね、最後のお願い……
忘れないで、私の事。
これから先、何があっても忘れないで…
君の幸せな未来に、私も連れて行って……
最後までわがままでごめん……って」
そう言って彼女は目を閉じた。
「……もしもし、トガちゃん。ちゃんと最後まで聞こえた?」
『……。』
「大丈夫、必ず連れて帰るから」
スマホの通話ボタンを切ると、胸ポケットから一枚のハンカチを取り出した。
血で汚れた口元と、涙で濡れた頬を綺麗に拭った。
「綺麗な状態で、帰ろうな……」
もう聞こえるはずのない彼女にそう告げ、圧縮に閉じ込めた。