先生のためならなんだって出来る

「やぁ、弔。君に紹介したい女性がいるんだ」

先生に手を取られ、通された部屋には1人の男の子が居た。
体つきが小さく、拘束するように掴む手は大人の手だろうか。
大きくて体には不釣り合いに見えた。

私のことをちらりと見た彼と目があえば、お互い笑うことも逸らすこともない。
なんて不気味な子だろう、そう思ったのが第一印象だった。

初潮を迎えたばかりの私を、先生は一人の女性と表現してくれた。
そればかりが嬉しくて、目の前の男の子よりも先生の横顔をずっと眺めていた。

「君はこれから彼の物だ。彼と一緒に成長していくんだ」

先生の横顔に夢中で、言われた事が理解できなかった。
途端に泣きじゃくる私の頭を撫でるといつもの優しい声で

「大丈夫だ、今までだって上手くやって行けたんだから。君は僕にも彼にも必要なんだ」

そう先生が耳元で囁いた。
目を閉じて先生の言ったことを脳に刻み込む。
それを見て安心したかのように先生は私の頭を撫でた。


それから数年、私は弔の隣にずっといる。
彼にとって初めてのキスも、セックスも、全部私だった。
自分の物だと言う私への認識が強く、私が居ないと取り乱すことが多かった。

「…っ、はぁはぁ……」

「どうしたの?弔」

「ど、こいってた…」

「どこも行ってないよ。ずっといたでしょ?」

「違う!昨日の夜だよ……!」

昨日の夜は先生に逢いに行ったんだ。
先生の腕に、胸元に、何度もキスして。
そうしたら先生がたくさんたくさん褒めてくれるんだ。
君が知らないだけで、私はずっと前から先生の物なんだよ。
そう言いかけて、開きかけた唇が閉じた。

「なぁ、お前は俺のなんなんだ……?」

「……私は……弔の“物”だよ」

「そうだよな、だったら俺のために死んでみろ……!」

「……わかった」

そういって彼の手を取ると、自分の首筋に押さえつけた。
5本の指がしっかりと触れるように。
そうすれば彼が慌てたように私を押し返した。
どうして彼が拒んだのかも、悲しそうな瞳で見つめるのも私にはこれっぽっちもわからない。
だって先生はそんな顔しないから。

「どうしたの?弔のために死ぬから、弔の手で殺してよ」

「…っ、うるさい!」

頭を抱えて蹲る彼の背中へと手を添えた。
小さい頃から何度もしてきたかのように、優しくさすれば頭を挙げた弔。
今度は頭を撫でれば、泣きじゃくる子供のように私の腰を抱え込んだ。
何も考えることも無く、ただただ無心で彼を宥める。

ねぇ、先生?私は貴方に必要とされて、貴方に愛されたいです。
どうか私だけを見てくれませんか?

「 ……」

弔が私の名前を呼ぶ。
弔の向こうに、先生の面影を感じた。

「…せん、せ……」

ピタリと一瞬止まった彼が、何か言いたげに見つめる。
弔でも先生でもない誰かの唇がゆっくりと動くから、聞きたくなくて私から口付けた。