「今日ポッキーの日なんだって、知って……どうしたの?」
“ポッキーの日”
その言葉に激しく動揺した俺は、カウンターの椅子から勢いよく立ち上がった。
大きな音を立てて倒れた椅子のキャスターが、コロコロと回る音が響く。
「っ、いや…別に」
できるだけ平然を装って倒れた椅子を起こした。
再び座るが、彼女との距離は先程より遠い。
きっとこのぐらいがちょうどいいはずだ。
これ以上近付いたら、俺が俺で無くなっちまう。
「ねぇ、何この距離」
空いた空間を指さす彼女は、少しだけ不満そうだ。
「は、ぇ?何が」
「動揺しすぎでしょ」
大袈裟な鼻息を吐いてた彼女が、カバンからポッキーの箱を取り出した。
ヤバい…!
今すぐに彼女を止めないと、俺もお前も戻れなくなっちまう…!
「う、動くな!その箱を置いて、椅子から立てよ!」
「はぁ?いい加減にしてよ。さっきから何?」
「良いから!お前が混乱してんのはわかってる!でもな、危ないから!それを早く置け!」
「混乱してんのはアンタじゃん。ねぇ、なんなの?ただのポッキーだって」
俺の制止も聞かず、彼女はソレを開けてしまった。
中から出てきたのはボツボツのコーティングが施された……
ボツボツ?
なんだあのボツボツ。
コンプレスから聞いてた情報とは違う物が袋から出てきてしまった。
忙しなくキョロキョロする俺に、呑気な彼女が喋った。
「普通のが良かった?私アーモンドついてるやつが好きなんだよね」
「ア、アーモンド……」
「そう、アーモンド。食べたことない?いる?」
こちらに向けられた棒が、まるで剣のようだ。
目の前に突き出された剣に、冷や汗が垂れてくる。
「やめ、ろ…こっちに向けるなって、」
「え、先端恐怖症?…ごめんね?」
降ろされたソレは、ゆっくりと彼女の口へと向かう。
*
『今日がなんの日か知ってるか?伊口くん』
『急になんだよ、知らねぇし本名やめろよ』
『11月11日ポッキーの日。巷では友達同士でお菓子を分け合ったり、日頃の感謝を込めてプレゼントしたり様々なんだけどね。
ここだけの話。一部の女性の間では、合図とされているんだよ』
『……合図?』
『そう。ポッキーを差し出して“一緒にイケナイ事しませんか?”の合図』
『そんなまさか。コンプレス、また俺の事揶揄ってるんだろ。さすがの俺でも騙さ』
『本当だよ』
『……っ。』
『渡されたら最後、彼女達の期待にちゃんと答えてあげなきゃならない。困るだろ?お前経験ないんだから』
『そ、それは今関係ないだろ…!』
『いやいや、大アリ。童貞君がちゃんと答えてあげないと女性は可哀想だろ』
『……どうしたらいいんだよ』
『まずは服を脱がせてやるだろ?ちゃんとエスコートしろよ。
寒くないように暖房は強め。出来ればパンツは履かせたままでいい』
『ぉ、おう…』
『そしたらさ、ポッキーを2本とって彼女の乳輪をくるくるくる〜って撫でてやんな。先端ギリギリ使ってさ』
『く、くるくる……』
『忘れちまいそうならメモったほうが懸命だな』
『!おぉ、そうする』
『そしたら興奮した彼女の肌が、ゆっくりチョコレートを溶かしてくから。
でもまだ何もするなよ?大事に取っておいた乳首が待ってんだから。
今度は強弱つけて乳首をいじめてやんの。グリグリ突っついたり、弾いてみたりさ。
ポッキーが折れないように気をつけろよ?』
『おぉ……突っついた、り、弾いてみた、り…っと』
『今度は下な。パンツも脱がしてやったら、彼女が両足を開きやすいようにしてやんな。M字でもいいし、寝転んでもいいし。
そしたら1本ずつ挿れてやんな』
『いれ、!?』
『チンコ入れるところだよ、わかんだろ?
そんでさ、何本がいい?もっと?なんつって、言葉でも攻めてやんの。出来るか?』
『おぉ……な、なんとなく』
『OK。その後はお前に任せるよ。最後まで可愛がってやってもいいし、頭おかしくなるまでポッキーゲームしたらいいし』
『おぉ…!やって、やる…!』
*
「あー、美味しかった。ご馳走様」
「ぁえ!?ご、ご馳走様!?」
「うん?だってスピ食べないんだもん。嫌いだったんでしょ?」
「いや、嫌いっていうか、乳首くるくるして、何本?って
イケナイこと、合図じゃ」
「はぁ!?何言ってんの馬鹿じゃない!?」
真っ赤になって怒った彼女は、俺を軽蔑するような目で見て出ていってしまった。
「コンプレス…!お前のせいで」
「ん?なになに。どうした、そんなに怒って」
「お前のせいで勘違いされたんだよ!変なこと吹き込みやがって!」
「変なこと?………あぁ本当にやっちゃったの?w
いやぁ、すっごい暇だったんだよ。お前揶揄うぐらいしか思いつかなくて。ごめんごめん、俺から許してやってって言っておいてやろうか?」
「……いやもういい。頼むからもうなんもしないでくれ」
こいつのことはもう二度と信じない。
そう心に誓った。