指輪

久しぶりに外食しようだなんて、消太さんにしては珍しかった。
人が多くなる19時頃、予定よりも早く来てしまった私は駅前の端っこで彼を待っていた。
(人、多いな…)
慣れない人の流れに気分を悪くした私は、近くのお店に逃げ込んだ。
大きくもなく、小さくもない上品な店員の声掛けに、ココがアクセサリーショップだと気づいた。
時間潰すにしてはちょっと場違いだけど、外を見て眉間にシワが寄った。
スマホを覗き込めば待ち合わせ時間はあと10分程だから、眺める程度なら自然だろうと思った。

ショーケースに並べられたアクセサリーは、どれも女性が好むものばかり。
見た目も値段も派手な物から小ぶりの物まで、眺めていく中で気になるものがあった。
前のめりになってショーケースを覗き込めば、店員がこちらに歩み寄った。

「お取りしましょうか?」

「いえ、」

「お願いします」

背後から声がして、ビックリして振り返れば消太さんが居た。

「っび、くりした…」

「悪いな、遅れて」

「ううん。よくここだって分かったね」

連絡入れなくてごめん、と話せば

「人が多いからどっかに逃げ込んでると思ったよ」

と微笑んだ。

私たちが話し込む前で、店員さんはそっと指輪を差し出した。

「こちらでよろしかったですか?」

「ぁ、はい」

この指輪が気になってはいたけれど、いざ目の前に差し出されてサイズを聞かれると緊張してしまった。
どの指を出せばいいか分からないし、そもそもこの指輪が私に似合うのだろうか。
指の産毛の処理はいつだったっけ…
ネイル伸びきってなかったっけ…なんて。
店内の温度が暑いのか、それとも私が熱いのか、気にすればするほど緊張は増していく。

ショーケース前に差し出した両手が、もじもじとそれを表した。
それを見た消太さんは、私の手を掴むと薬指をトントンと指さした。

「この指でお願いします」

「かしこまりました」

測り終えると、同じサイズの指輪が差し出された。
ゆっくりと自分の指に嵌めて、手をかざした。

「……可愛い」

「うん。似合ってるよ」

「他のもお試しになりますか?」

「お願いします」

私が答える前に消太さんが答えれば、店員さんは嬉しそうにショーケースを開け始めた。

「せっかくだから他のも合わせてみな。こんな所滅多に入らないんだから」

そう言うと私の隣から離れた消太さんは、店内を眺め始めた。
落ち着いた彼はいつも通りだし、変な意識して緊張してるのは私だけでなんだか恥ずかしかった。
男性ってこういう所緊張するってどこかで見た情報に、彼は当てはまらないのだと思った。

次々に差し出される指輪を嵌めて眺めては、あれじゃないこれじゃないと彼が口出した。
もちろん私も好みを主張したし、店員さんからのアドバイスもあった。
値段を見て驚愕した私を見て、彼が可笑しそうに笑った。



「まだ見てるのか?」

ソファに体を預け、天井に向けて手をかざした私に彼が声をかけた。
マグカップを持った彼が、ソファの背もたれ側に立つと私を覗き込んだ。

「だって、嬉しくて」

右手の薬指に光るのは、真新しいリング。
左右に手をかざして色んな角度から眺めれば、キラキラと光った。

「…右手で良かったのか」

「うん、左手はなんだか緊張しちゃって」

そう微笑んだ私を見て、同じように微笑んだ。

「まぁ、いいよ。風呂入ってくる」

私の頭をポンポンと撫でた彼が、目の前のテーブルにマグカップを置いたあと、小さなパンフレットを私に手渡した。

「?何これ」

首を傾げながらパンフレットを手に取った私に、彼が話した。

「あそこのなら俺でも違和感なく付けれそうだよ」

そう言いながら彼は脱衣所に消えていった。
ブライダルと書かれたパンフレットを見て、いても立っても居られなくなった私は衣服を脱ぎかけた彼に飛びついた。