事情後、タバコに火をつける彼がテーブルの上の薬を手に取った。
「なにこれ」
小さな粒が並ぶシートは、うっすら色付けされている。
「…あぁ、ピル」
「ピルって、あのピル?」
そう言えば少し可笑しそうに笑った私は
「他になんのピルがあるの?」
なんて彼の手からソレを奪い取った。
今日の分は飲んだっけ…毎日決まった時間に飲むのが規則らしいけど、私の性格上それは難しい。
幸い副作用もなければ、飲み忘れも今のところなく続けられている。
「ずっと飲んでんのソレ」
「そう。ちょっと前から」
正確には7ヶ月前から。
彼と出会って意気投合して、流れでそのまま体を重ねた。
1回きりだと思っていたのに、定期的に私の元を訪れる彼は彼氏でもなければ友人でもない。
これが俗に言うセフレなんだと、4回目のセックスで気付いたのだ。
あの頃は私も純粋だったなぁ…なんて、彼のタバコを一本貰うと火をつけた。
「なぁ、ソレ飲むの辞めたら?」
「…え?」
「俺はいいのに。つーかそのつもりで生でやってんだよ」
「…そんなこと言って、出来たら困るのそっちでしょ?」
今更何を言っているんだ。
生理が来ないことに酷く脅え、出来てしまえば貴方はもう逢いに来てくれないんじゃないかと数日間病み続けた。
予定日を1週間過ぎた頃に訪れた生理を見て、安心感の後に訪れた落胆と。
あの時の私にその言葉を言って欲しかったと、心の中で思った。
「困るわけねぇだろ、なんのために通ってんだか」
下がり眉を更に下げて、彼が微笑む。
「お前は言葉よりも行動で示さないと納得しないタイプだろ?」
優しくおでこに口付けが落ちていく。
眉間に瞼に鼻先に、いつの間にか頬を流れる涙にも口付けを。
「…言葉だってたまには欲しいの」
「なんだよ、それなら早く言えって……愛してるよ」
お前が好きだとか、俺のものになれとか、幾度となく彼が放つ口説き文句を想像した中で
こんな簡単な一言で済むなんて思ってもなかった。
優しく抱きしめる彼が「あ、」っと小さく呟いた。
「?」
私の手に握られたシートを取り出すと、目の前でくしゃりと握りつぶした。
「もうこれはいらねぇから」
そう言って枕元のテーブルに置かれた、水の入ったコップの中に浸した。
破けたアルミのシートから、ゆっくりと水が染み込む。
「この薬の効果は?」
「真ん中あたりまで飲み進めてたから、しばらくは…」
「あっそ、まぁいいや。ゆっくりヤろうよ」
「んっ……」
彼の暖かい手が服の中へと入り込んだ。
恋人の関係をすっ飛ばして、特別な関係になったことにより
いつものセックスが恥ずかしく感じる。
全部を知っているはずなのに、これから見る彼の姿も私の姿もまるで初めてかのように。
きっとそれは彼も一緒で、私の肌をなでる指先がいつもより何倍も優しく感じた。