【体入2日目】
昨晩の生まれて初めての経験に、目覚めが悪い朝だった。
正確にはとっくにお昼を過ぎており、なんだかんだ身支度を終える頃にはお店に行く時間になっていた。
昨日はわずか3時間の勤務時間だったが、今日はオープンから。
昨日は女の子と一言も話を出来なかったから、今日は挨拶ぐらいは出来るだろうか。
気の合う子はいるだろうか、それともドラマのようなドス黒い裏があるのだろうか。
期待と不安が一気に押し寄せて、胃がキリキリと痛くなった。
「着替え終わったら、今日はヘアメイクもしてもらって下さい」
出勤するなり、スピナーさんからそう言われドレッサーの前に座った。
専属のヘアメイクさんはとても愛想のいい人だった。
「そっかぁ〜2日目か。このお店いい子多いから、大丈夫だよ」
多いから、と言うあたり、多少のイザコザはあるのだと思った。
でもよく考えたら、女の子同士ってキャバクラじゃなくても喧嘩するし。
当事者が自分じゃなければいっか、なんて。
「あ、ヒミコちゃんおはよう〜」
ヘアメイクさんの声に気づき、鏡越しにそちらを見れば綺麗な黄色が視界に入った。
「おはようございます!あ!もしかしてあなたが新しい女の子ですか!?」
ヒョコリと顔を出して鏡越しに目が合ったのは、なんとも可愛らしい女の子だった。
「は、初めまして」
「かぁイイねぇ〜。後で沢山お話しましょうね」
ニッコリと笑った口元から覗いた八重歯が印象的だった。
お客さんのお見送り後、待機に戻れば彼女がいた。
1個分のスペースを開けて隣に座れば、スマホに夢中だった彼女が顔を上げた。
「お疲れ様なのです」
「、お疲れ様です」
「どうですか?うちのお店」
「え、っと…まだ全然わかんなくて」
「いいお店なのできっと気に入るとおもうのです!」
空けていた1個分のスペースを、彼女がグッと縮めて座った。
「みんな優しいですし、いい子ばっかりなのです!あ、荼毘くんを除けば」
「その人って、あの…火傷、の…」
「そうです。もう会いましたか?何か変なこと言われてませんか?」
「たぶん…大丈夫…」
まさか彼の顔を見て小さく叫んでしまったなんてこと、彼女には言えなかった。
「荼毘くんは存在自体が失礼なので、気にしちゃダメなのです。敬語使えませんし」
「…確かに」
スピナーさんの敬語がやけに新鮮に感じるほど、荼毘さんや迫さんの距離が近い事を改めて思った。
「本当は女の子に敬語がマナーです!私たちは商品なので。その中で調子乗ってしまう女の子もいるので、荼毘くんみたいな黒服が必要なんですけどね」
「なるほど、」
「それも含めて、いいお店ですよ」
ニッコリと笑った彼女の笑顔に可愛らしさを感じつつ、その瞳から目が離せなかった。
狙われているような緊張感に、若干心臓が早くなった気がした。