キャバクラで働きましょう 5

【本入初日】

怒涛の3日間に疲れてしまったのかよく眠れず、気付けば寝落ちしていた。
起きたのはちょうど家を出る時間だった。
慌てて用意をシャワーをし、化粧は下地だけ。
ヘアメイク中に仕上げを済ませればいいだろうと、マスクをして家を出た。

…のだが。
店前に着くと、そこには大きな男が立っていた。
地下への階段を通せんぼするかのように佇む男。
彫りが深くて、顎がちょっと出てて…正直怖い。

「す、すいませんっ、通して下さい、」

震える声で話をかけるも聞こえていないのか、ピクリとも動かない。
ただでさえ遅刻なのに、このまま一生お店の中へは入れないんじゃないか。

「何してんのお前」

聞き覚えのある声が後ろからして、振り向けば荼毘さん。
コンビニ袋ぶら下げて、ネクタイすら結ばれていないカッターシャツは大きく気崩されている。

「だ、荼毘さん」

「何、お前も遅刻?初日からやる気ねぇ嬢だな」

「っそういう荼毘さんだって」

「なら仲良く怒られようぜ」

大男の前に荼毘さんが立つと、スっと体を横にずらし会釈をした。
気にすることなく階段を降りていく荼毘さんを見て、ハッとした私も続いて降りていった。


「接客舐めてんなら今すぐ帰れ」

荼毘さんがドアに手をかけると中から聞こえてきたのは、男性の声だった。
高くもなく低くもないその声は、耳に入っただけで背筋が凍るようだった。
足を踏み入れれば、微かに聞こえたのは女の子のすすり泣く声。

前に立つ荼毘さんの間から見えたのは、真っ白な髪の後ろ姿。

「悪い。遅れた」

「……ミーティング終わり。今日もよろしく」

こちらを振り返りコツコツと歩いてくる男性が、荼毘さんの前に立った。

「遅い。いい加減にしろよ」

「悪いって言ったろ、代表。 それに、初対面でそんな怒ってたら嫌われちまうぜ」

私の方を指さした荼毘さんと、顔を覗き込んだ白髪の男性。

「っ、!お、おはようございます、」

「あぁ、アンタか。おはよう…って言いたいところだけど遅刻」

「すみませんっ、!」

「……いいよ。早く着替えておいで」

彼らの横をぺこりと頭を下げながら横切ると、更衣室まで全速力。


用意を済ませ更衣室を出れば、既に店内には男性客で溢れていた。
すぐさま接客の席に着くと、あっという間に数時間が過ぎた。

接客中にフロアを歩き回る中で、白髪の人は居なかった。
代表と呼ばれるくらいだし、相当偉い人なのだろうか。
女の子に怒っている所も見てしまったし、私は遅刻してしまったし。
今日はこのまま会わなければいいな、と心の中で祈った。


「ご馳走様でした」

お客さんを見送ると、小さなため息が出た。

「お疲れ様です。相性良さそうでしたね」

スピナーさんが声をかけた。

「はい。とても話しやすい人でした」

「そうですか。結構飲んでましたけど大丈夫ですか?キッチンでお茶でも飲んできてください」

「ありがとうございます」

やっぱりスピナーさんは優しい人だ。
言われた通りキッチンへ行くと、適当なグラスにお茶を入れた。

「お疲れ」

「ひゃ!」

「そんな驚くか、普通」

キッチンの入口で、クククッと笑っているのは白髪のあの人だった。
危うく落としそうになった手元のグラスに、荼毘さんの件を思い出させた。
ここの人たちって本当に気配がない。
荼毘さんほどの見た目じゃないが、この人も結構不気味に感じる。

「今日のは遅刻?」

「あ、えーっと、ギリギリに店前まで着いたんですけど…店前の男の人が、怖くて」

「あぁ、マキア?なんだ、それなら店にでも電話くれれば良かったのに」

確かにそうだったと納得して、改めて店の番号をスマホに登録した。

「この業界、無断欠席と遅刻は罰金だから気をつけるんだな。今日のはノーカンにしとく。マキアは叱っておくから、残り頑張れ」

そう言うと、私に背を向けキッチンから出ていこうとした。

「あ、言い忘れてた。ギガントマキアって言うんだぜ、あいつの名前。かっこいいだろ?俺が付けたんだ」

そう言うとキッチンから出ていってしまった。
全体の色素が人より薄くて、よく見たら綺麗な顔。
スタイルだって良いのに、子供みたいに笑った顔がやけに頭に残ってしまった。

(代表さんって…名前はなんなんだろう)