【初めての指名】
初めての指名を頂いた。
ワンタイムと短かったが、好きなドリンクも飲ませてくれて楽しい1時間を過ごした。
お客様のトイレに付き添えば、スピナーさんがすれ違いざまグッと親指を立てて喜んでくれた。
新規のお客様を連れてきた荼毘さんが、接客する私を見てニヤリと笑ってくれた。
チラッと盗み見たスマホには、迫さんから「初指名おめでとう」とメッセージが来ていた。
たかが一指名にこんな喜ぶ嬢なんて私だけだと思いつつも、とてつもなく嬉しかった。
無事に本日の営業は終わりを迎え、帰り支度を済ませる中、休みのはずだったヒミコちゃんが店に訪れた。
「ナマエちゃんお疲れ様でした!」
「ヒミコちゃん!」
「この後少し空いてますか?」
「?うん、大丈夫だよ」
そう言って連れてこられたのは、深夜でもやっている焼肉。
大きなテーブルを囲むのは死柄木さんに、荼毘さん。
スピナーさんと迫さん、ヒミコちゃんと私。
「ナマエちゃん何飲む?」
迫さんにメニューを渡されて、烏龍茶を頼んだ。
「なんだよ、酒飲めよ」
「別にいいだろ、店終わってんだから」
アルコールを進める荼毘さんに、それを阻止してくれるスピナーさん。
「お前は頼みすぎなんだよ。自分で食べないの頼むなよ」
そう言って文句言うのは死柄木さん。
何故このメンバーの中に自分が呼ばれたのかも分からず、次々にテーブルの上には食事が運ばれていく。
「さぁ、乾杯しましょう!お祝いなのです」
「?」
「ナマエちゃんが初指名おめでとうなのです!」
ヒミコちゃんの掛け声と共にグラス同士がカチンと鳴った。
乱暴に押し付けられた烏龍茶が、揺れて零れそうになる。
「え!あ、いや、」
「焦んなくていいから。ゆっくり」
「はい……あ、ありがとうございます」
なんだか照れくさくて、ボソボソと呟いてしまった。
それを見て微笑んでくれる人達と、黙々と肉を焼いていく荼毘さん。
各々仕事やプライベートの話で盛り上がる中、ヒミコちゃんが体を擦り寄せて耳元で呟いた。
「皆さんに気に入って貰えないとご飯には連れて行ってくれないのです。みーんなナマエちゃんのことが大好きなんですよ」
そう言って離れたヒミコちゃんを見れば、ニッコリと笑った。
人に気に入られることに悪いことなんてないのだからと、素直に嬉しい気持ちになった。
しばらくして落ち着くと、死柄木さんが伝票を持って先に帰ると立ち上がった。
「ご馳走様でした」
皆さんに紛れて私もお礼を伝えれば、死柄木さんがお店の中では見れない顔で優しく笑った。
「またいつでも飯なんて連れて行ってやるから、頑張ってな」