【悩みが多い迫先生】
たまたまだった。
告白されるな、とかそんな空気一切なかった。
仲のいいクラスメイトだと思っていたし、異性とも意識してなかった。
好きなんだ、と言い終わる頃に初めて気付いたのだ。
瞬きを数回して、なんでこんなことになったんだと頭で処理していく。
シーンと静まり帰る廊下の踊り場には、もう他の生徒はいない。
うっかり聞き逃した予鈴はとっくのとうに鳴ってしまったらしい。
「あー…えっと、とりあえず教室戻らない…?」
やっとの思いで出た返事は、自分でもありえないと思った。
「いや…今返事聞きたい…」
ほら、やっぱり。
彼の反応は正しいと頭の中で頷きつつ、次の無難な応えを考える。
振る方が労力がいるものだと考える私には、この時間は苦痛でしかない。
派手に振るなんてできない私は、八方美人だと言われても仕方がない。
「おい、授業始まってんぞ」
階段を登ってきた人の声で、2人の肩が跳ね上がった。
ひょこりと顔を出したのは、迫先生だった。
「授業サボって告白も青春だからとやかく言いたくないけどさ、しつこいのは良くねぇなぁ〜」
そう言われた男子生徒は、見る見るうちに真っ赤になってしまった。
何か言いたそうに口元を動かしたが、私と目が合うとさっさとその場を後にした。
ほっとした私の横を先生が歩くと、「お前もさっさと行く」と頭を小突いた。
「…ありがと、先生」
「いや、それほどでも。おじゃま虫じゃなくて良かったよ」
「……ごめん、なさい」
「ん?何が」
「ちゃんと断れなくて…」
「いや、いいんじゃねぇの。あと半年は一緒に生活して行かなきゃいけない、大事なクラスメイトだろ?相手のこと考えつつ、曖昧に流すのも大事だよなぁ〜。相手も自分も傷つかなくて丸く収まるもんなぁ」
なんて、トゲのある言い方。
こちらを見ようともしない先生を見て、足を止める。
それに気づいた先生も足を止め、私の方へと振り向いた。
「……嘘だって、意地悪したかっただけ」
そう言ってニッコリ笑うから、安心して私も微笑んだ。
「そもそも俺があんなクソガキに劣ると思うか?」
「いいえ」
「だよな。お前は俺に惚れてんだろ?」
自信満々な先生の問いに、間髪入れず頷いた。
「それならよろしい」
私の頭を大きな手が優しく撫でた。
心地よくて目を閉じかければ、先生の指先が私の頬を抓った。
「分かったんなら授業いけよ」
「はーい」
ニヤける頬を抑えつつ、教室に戻る私。
その後ろで大きなため息をつく先生の姿を、私は知らない。