【クラスメイトの荼毘先輩】
高校3年生。
クラス替えで仲の良い友人とは離れてしまった代わりに、好きな男の子と同じクラスになれた。
出席番号順で斜め前の彼を眺められる日が来るとは、学校生活も嫌なことばかりでは無いらしい。
周りをキョロキョロと見て回れば、私の後ろの席だけ空席だった。
新学期早々休みだなんて、体調管理がなってない奴か、ヤンキーぐらいだ。
数日後通常授業が始まった頃、後ろのドアから入ってきた生徒を見て後者だと気付いた。
だらしなく着崩された制服に、ガラの悪い目つき。
女物の香水とタバコの匂いが混ざって何とも不愉快だ。
彼が後ろの席に座ると、背中に感じるのは威圧感。
できるだけ関わりたくないと椅子を前に引きずれば、思ったよりも苦しくて後悔した。
授業中はだいたい寝てるか、どこかに行って居ないか。
ほとんどの先生は見て見ぬふり。
一部の口うるさい先生は、彼を注意することを諦めなかった。
「なぁ、次なに」
「……。」
「おい、聞こえねぇの。アンタに言ってんだよ」
ガンッと椅子の底を蹴りあげられた。
私じゃないと思って油断した身体は、盛大に跳ねた。
恐る恐る後ろを振り返れば、怒りを含んだ瞳と目が合ってしまった。
「こ、古文です、」
「なんで敬語なの……あぁ、ダブりって知ってんのか」
目を逸らしつつ頷けば、それ以上何もツッコまれなかった。
「まぁいいや。俺寝るから、アンタ壁な。屈んだら殺す」
物騒な台詞を吐き捨てると彼は寝始めてしまった。
その日の授業は背筋をピンと伸ばし、微動だにしない私がいた。
授業終了のチャイムと共に起きた気配がしたと思えば、彼がゲラゲラと笑って立ち上がった。
「おもしれぇ女。またよろしく」
そう言うと教室から出ていった。
その日以降、彼は何かにつけて絡んできた。
授業中は寝ている自分を庇うよう支持され、少しでも油断して前のめりになれば椅子を蹴り挙げられた。
珍しく起きている日は、私の背中をシャーペンの後ろで突っついたり、上手く巻けた髪の毛で遊ばれることもあった。
喉が渇いたかと聞かれ、乾いてないと答えたのにジュースを買いに行かされることもあった。
2ヶ月がたった頃、私に転機が訪れた。
1人ずつ箱の中のクジを引くこれは、“席替え”である。
引き終わり、盛大に席移動を始めれば、隣はまさかの片思い中のあの子だった。
嬉しくて嬉しくて、ニヤける頬を必死に抑える私の椅子にガツンと当たった机。
ご機嫌に振り向いた先を見て、一気に青ざめた。
「こりゃ奇遇だなァ。また仲良くしようぜナマエチャン」
嘘だ、そんなはずはなかった。
確か後ろは今井くんのはずで、荼毘先輩じゃなかった。
慌てて今井くんを探せば、同じように青ざめた顔を不自然に背けられた。
引き続き最悪な日々を過ごすのかと思いきや、唯一癒しをくれたのは片思い中の彼だった。
彼と話をしている間は、意外にも荼毘先輩は邪魔をするようなことはしてこなかった。
このまま徐々にフェードアウトかなぁ、なんて呑気に考えてたら、隣の席の彼が風邪で休みだった。
「アンタ、そいつが好きなの?」
「そぉっ……そんなことないです、けど…」
突然の話題に声が裏返った。
くくく、と喉を鳴らして笑う声が聞こえてきて、やばいと思った。
「そんなつまんねぇ奴辞めて、俺にしとけば?優しくしてやるよ」
なんて、軽いナンパ。
いい加減荼毘先輩にはイラついていたし、もうコリゴリだと思いを込めて無視した。
こんなことしても荼毘先輩には効かないことも分かってたけど、これで飽きてくれるなら万々歳だった。
「何?シカト?へぇー…」
先程より声が低くなった気がして、鳥肌が立った。
プツッ
背中に何かが触れてビクリと肩を揺らした瞬間、胸元が軽くなった気がして数秒後異変に気付いた。
ブラのホックを外された……!
咄嗟に胸元を抑えて、勢いよく後ろを振り向いた。
少し前のめりに頬杖着いた彼が視界いっぱいに広がって、その距離数センチ。
ニヤリと笑うその顔面の良さに今更気付いた私は、言葉に詰まってしまった。
「決めた。アンタとその男の間、めちゃくちゃにしてやる」