【ダイキライな荼毘先輩】
「っ♡今こっち見てなかった?」
嬉しそうに手ぐしで髪を整えたのは、一番仲のいい友人だった。
「知らなーい。私あの人苦手。っていうか嫌いの部類」
そう言えば友人は呆れたように、でも嬉しそうに笑った。
「アンタって可愛いのにもったいないよね。まぁ一人ライバルが減ったと思ったらラッキーだけど」
友人がちらりと視線を送る先にいるのは、女癖の悪さで有名な『荼毘先輩』。
親が偉い人らしい彼は、お金に困ってなければ女にも困って居ないらしい。
飽きもせず彼の周りを着いて回るのは、上級生の女共。
厚ぼったい化粧に、鼻が曲がりそうな香水。
スカートはパンツが見えそうなほど短くて、明るく染められた髪の毛は悲鳴を上げている。
「あの女達が居なかったら今すぐにでも話しかけに行くのに……」
「ホント懲りないね。私が男だったらアンタが一番可愛いよ」
なんて冗談言えば、嬉しそうな友人がギュッと抱きついてきた。
離して、なんて言いながらしっかりと彼女を抱き締めれば、お互い吹き出した。
抱き合ったままクルクルと周れば、私の足が何かに当たった。
「痛ぇ」
「っ、ごめ、……」
ハッとして友人から離れて声のする方を向いて、次に続く言葉を失った。
「は。お前ごめんなさいもちゃんと言えねぇの?」
馬鹿にしたように私を見下したのは、大嫌いな荼毘先輩だった。
成長途中の小柄な私を見下す姿に、唾を飲み込む。
「……ごめんなさい」
「なに?聞こえねぇ」
「ちょっと〜荼毘やめなよ〜」
クスクスと周りを取り囲む女が笑った。
悔しくて、惨めな自分に顔が赤くなった。
下唇を噛み締めて、頭を下げた。
一歩離れたところで見つめる友人が、私よりも泣きそうな顔で見てた。
♢
あの後荼毘先輩は私の名前と学年を聞き出すと、「じゃぁまたな」と言ってその場を後にした。
あの日を境に、荼毘先輩はやたらと私に絡んでくるようになった。
虐められるわけでもなく、暴力を振るわれるわけでもなく、ただただ私を傍に置くようになった。
回数をいくら重ねても、彼の隣は居心地が悪くて気分は最悪だった。
その中でも一番怖かったのは、本人ではなく周りを取り巻く女達の存在だった。
荼毘先輩が居ない所での虐めは想像を絶するものだった。
唯一あの現場を知る友人でさえ、私を睨んだ。
まるで自分の物を横取りされたのような視線は、痛いほど私に刺さった。
「もう、辞めてもらえま…せんか…」
もう限界だった。
殴られても罵られても良かった。
彼からも、周りの人間からも離れることを望んだ。
あの時と一緒で頭を下げた状態で、謝る私を荼毘先輩は黙って見つめた。
「……ヤダって言ったら?」
ゾクリと鳥肌が全身を襲う。
「……っ、な」
「お前俺の事ダイキライ、だろ?」
図星のソレに、首を横に振るのが遅くなってしまった。
慌てて否定しようとする私を見て、彼が笑った。
「最初から知ってんだよ。ただ俺は、お前が嫌がる顔見てぇだけ」
ガッカリした?
そう言って俯く私の視界に入り込むよう、屈んだ。
この人は何を言っているんだろうと、血の気が引いてくる。
「まさか自分が気に入られてる、とか思ってないよなァ?」
二チャリと音がして、口が裂けそうなほど笑う彼を見て吐き気がした。
「なんだよ、そんな顔も出来んの?……飽きねぇ女」