連合学園 6

【餌付けとキスと後輩と】

生理痛がきつくて保健室に訪れた。
一段といつもより重く感じる下腹部に、出来れば横になりたいなぁ…なんて。
生憎ベッドは全部埋まってて、肝心の先生はお出かけ中。
なんてタイミングの悪い日なのだろうか。

先生がいないと処方して貰えない頭痛薬の在処は知っていた。
慣れた手つきで引き出しをまさぐれば、見覚えのある青と白の箱。
パキッとシートを切り離して、備え付けのウォーターサーバーに行くと流し込んだ。

はぁ、とため息をついて、視界に入った何かに気づいた。
ウォーターサーバーの少し横、誰かの足が目について覗き込めば1人の男の子。
真っ白な肌は少し青白く見え、首筋に掻きむしった後。
全体的に健康とは言えない男の子が、死んだように眠っていた。

「……生…きてる…?」

「寝てる」

「ひぁ!!」

目にかかった髪の毛を、少し指先でズラした所で彼が喋った。
ゆっくりと開いた瞳は真っ赤で、少しだけ後ずさってしまった。

「……誰アンタ」

「え、あ、私はたまたま、」

「ふーん。まぁいいや、なんか持ってない?腹減った」

「ち…ちょっと待ってね……」

そういえばと、スカートのポッケから取り出したのは棒付きキャンディに穴が空いたフエラムネ。
こんなのでお腹が満たされるはずはないのだが、数秒間見比べた後彼はフエラムネを手に取った。
包装紙を破り取り出すと、ぱくりと口の中に放り込んだ。

ピィーー

唇を少し尖らせ音を鳴らせば、満足そうに微笑んだ。

「懐かし。ごちそーさま」

そう言うと彼は立ち上がって保健室を後にした。

後で聞いた話、彼は死柄木弔くんと言うらしい。
1個下で、同学年からも先輩からも人気なのだとか。
確かに綺麗な顔立ちをしていたし、色素の薄さは儚さを感じさせた。


予鈴が鳴り皆が教室へと戻っていく中で、私は中庭にいた。
次の授業はサボってしまおうと、自販機の前に立つと後ろから声をかけられた。

「なぁ。今日は何も持ってないの」

「?」

振り向いた先に居たのは、いつかの死柄木弔くん。
相変わらずの体調の悪そうな顔に、姿勢の悪い猫背。

「んー、今日はごめんね。何も持ってないや」

そう言って自販機に視線を戻して、幾つかあるボタンをウロウロ。

「…あ、なんか飲む?」

食べ物を持っていない代わりにジュースを進めれば、彼が隣へと歩いてきた。

「甘いの好き?それともコーヒー?……あ、お腹すいてるならコンポタにでもしとく?」

「……。」

「?」

迷っているのだろうか、返答がない彼が気になって振り向いた。
思ってたよりも近いその距離に、咄嗟に後ずさった体。
ジュースを選んでいるのかと思ったその視線は、私をじっと見つめていた。
ゆっくりと彼が屈むように近づいて来て、あっという間に唇が重なってしまった。

「ッ!」

ガコンー

ビックリしてボタンに手を着けば、ジュースが落ちてきた。
コンポタを手に取った彼が、固まる私を見てニヤリと笑う。

「次、何も持ってなかったら続き。 するから」

そう言うと彼は自分の校舎へと歩いていった。


それから私はいつ何時、彼に出会ってもいいようにとお菓子を持ち歩いた。
棒付きキャンディに、ビスコ、占い付きのチョコに少し高めのクッキー。
それとフエラムネ。
ブレザーのポッケはいつもパンパンで、彼に会う度可笑しそうに笑われた。


彼が現れるのはいつも突然で、決まって私が一人の時だった。
あの事件があった日、目撃者がいなかったのは救いだと思う。
彼を知るようになってからは、噂話でさえ聞き耳を立ててしまうぐらいなのだから。

「ねぇ、センパイ。腹減った」

何十回目に現れた彼を前に、いつもに増して胸が高鳴る。

「何が食べたい?キャンディ?クッキー?あ、チョコ?」

捲し立てたように喋れば、彼が首を横に振った。

「どれもヤダ。好きじゃない」

「え、この間は結構好きだって……」

「他にないの?」

そう言ってニヤリと笑った彼を見た途端、あの時のことを思い出してしまった。

“次、何も持ってなかったら続き。 するから”

顔に熱が集まって、真っ赤になっているのがわかる。
そんな私を見て益々嬉しそうに笑う彼は意地悪だ。
1歩1歩、彼が近づいてくる度後ずさる私に、気づけば背中には壁。

ふと、胸ポケットに入れていたフエラムネを思いだした。
ハッとして顔をあげれば、彼と目が合った。

「アレでいいよ、音が鳴るやつ」

持っている、と喉まで出かけて飲み込んでしまったのは何故だろう。
首を横に振ってギュッと目を瞑れば、いやらしい水音を立てて唇を撫でられた。
それが彼の舌だと気づくのは少し後のこと。