何故彼と一夜を過ごしてしまったのかなんて。
あの時の私はどうかしてたみたいだ。
それなのにあの時のことは鮮明に覚えているし、私のが彼の形になっている気さえする。
思い出すだけで鼻の奥がツンとして、耳たぶが熱を帯びていく。
もう彼を仲間とは見れなくなってしまったし、私は彼の特別だと心のどこかで勘違いしてしまいそうだ。
綺麗とは言えないトイレの洗面所に、捻った蛇口からは勢いよく水が流れている。
両手で掬い上げ、顔に押し付けた。
火照りを落ち着かせるように何度も。
前髪やこめかみの髪が濡れて、肌に張り付く。
鏡に映る自分を見て、心臓が止まった。
「あからさますぎやしないか…?」
いつの間にか鏡越しに立つのは彼の姿だった。
壁に背を預け、両手を組む姿に息を飲んだ。
勢いよく振り向けば、一気に間合いを詰めた彼が目の前にいた。
覗き込むように屈めば、彼の影に覆いかぶされる。
仮面越しの彼が逆行でよく見えない。
濡れた水滴が、髪から首に伝っていく。
「あれで終わりだと思ってた?俺としては手放すつもりなんてないんだけど」
「……っ…あ、……」
口をパクパクとするだけで、言葉が出てこない。
見開いた瞳が彼から逸らせない。
「一応聞いておこうかな……。
お前はどうされたい?」