衣替えの途中、懐かしい服を見つけた。
正座を崩して座り込んで、目線より少し上に広げてみる。
「結構お気に入りだったんだけどなぁー・・・もう流行りじゃないか。ほつれてるし」
少し名残惜しい気もするけど、いつまで取っておいてもしょうがないと適当に丸めるとゴミ箱へと歩いた。
ペダルを踏んで捨てようとすれば、シンクには昨日飲んだワインの空き瓶置いてあった。
あれ、昨日全部飲み干したっけ?しかも水で濯いである。
思い出すだけで頭痛がした気がして、知らないフリして服を投げ捨てた。
テーブルの上に置かれたのは、ポストから出すだけ出した目を通していない書類達。
さっと目を通し、適当に破くとゴミ箱に放り投げた。
確か明日はゴミの日だったはずだ。
「痛ったーい……気持ち悪っ」
また飲みすぎて起きた朝。
頭痛よりも胃のむかつきに、みぞおちあたりを擦りながら冷蔵庫へと向かった。
まずは水と、何かお腹に入れないと。
「え、私天才?酔っ払いながらも買ってんじゃん…」
冷蔵庫を開ければ、目立つど真ん中にお馴染みの胃腸ドリンク。
昨日の私良くやった、なんて褒めながら仕事行く準備をすれば、うっかり部屋のゴミ箱を倒してしまった。
「うっわ、最悪。あれ……?」
フローリングに広がったのは粉々に千切られた紙屑。
見え覚えのある封筒の色は確か、テーブルの上に溜まった書類だ。
昨日の私はどうかしていたらしい。
二日酔い対策も忘れず、要らない書類の処分まで。
しかもこんなに丁寧に細々と、床に散らばった紙くずを手際よく集める。
何か違和感は感じるものの、ふと時計に視線を移すと服に腕を通した。
「あ、今日ゴミの日だ」
口を適当に固く絞り、大きなゴミ袋片手に家を出た。
シャワーを終えた夜21時。
ショーツ1枚と大きめのバスタオルで出てくれば、ビール片手にクローゼットから適当にパジャマを手に取った。
「……あれ?」
お気に入りの服がかかるハンガーラックの1番前。
そこには数日前に捨てたはずのあの服がかかっていた。
「す、てなかったっけ……、」
手に取ってよく見れば、クリーニングのタグがついている。
畳じわが着いたシワは綺麗に伸びて、スカートのほつれも直っている。
数回瞬きをして首を傾げた後、ビールを一口飲んでクローゼットを閉じた。
何かを思い出したようにテーブルの上の書類を漁るが、目的の物は見つからなかった。
「あれ〜、同窓会の手紙来てなかったっけ?……呆けが始まったのかな。最近の私、変」
*
慣れた手つきで合鍵を回せば施錠の音が響いて、その度にホッと息をつく。
リビングから漏れる光と小さな音に目を細めて、静かにドアを開けた。
すやすやとソファに眠る彼女を見て、下がり眉を更に落とした。
「テレビつけっぱなし。また一人でワイン開けたの?最後まで飲まないくせに」
ワインの瓶を手に取り、そのまま口を付けて飲み干しながらリモコンでテレビを消した。
「よぃしょっと、」
起きないように静かに彼女をベッドへと運べば、身を捩った。
「、ん……」
「……。」
黙って彼女から離れると、リビングに戻った。
飲み終えたワインの空き瓶を水で濯ぐと、シンクに立てかけた。
テーブルの上の書類をいくつか手に取って、目を通していく。
一枚のハガキが目に付いて、近くにあったボールペンを掴んだ。
迷うことなく【不参加】に丸を付ければ、彼女に声をかけた。
「これ、明日の朝出しておくから」
「ただいま」
今日はちゃんと、ベッドに横になる彼女を見てホッとした。
微かに彼女から漂うアルコールの匂いに、ため息を着くとリビングに向かった。
ポッケから取り出した胃腸薬を冷蔵庫にしまうと、彼女に声をかける。
「あんま飲みすぎるなよ。ここに入れておくから、明日の朝飲むこと」
帽子をフックに引っ掛けて、傍にあったハンガーにコートをかける。
ポッケから出した球体を圧縮から解除すれば、クローゼットを開けた。
包装されたビニールを剥ぎ取れば、お気に入りのハンガーラックの1番前に引っ掛けた。
「これもさ、クリーニング出しておいたから。もう一度着ろとはいわないから、大事に取っておいてくれよ」
だってこれは、初めて会った時にお前が着ていたワンピースだから。
俺に取っては思い出深い物なんだと、物思いにふけるようにワンピースを眺めた。
ソファに座ると、乱暴に破かれた書類がゴミ箱から覗いているのが目に付いた。
「ったく…ちゃんと破れって、個人情報だぞ」
ゴミ箱から出した書類を手に取ると、細かく破いていった。
「まぁそのだらしない性格のお陰で、こうして会えてるんだけどね」
俺の独り言と彼女の寝息だけが部屋に響く。
起こさぬよう、布団に潜り込む。
そっと彼女の後頭部を持ち上げて腕を伸ばせば、その上に頭を降ろしてやる。
眉を寄せて寝づらそうな彼女が、コツンと俺の胸元に体重を預けた。
良い位置に収まったのか、再び寝息が聞こえてきて俺は微笑んだ。
「おやすみ。愛してる」
彼女が起きるまであと5時間。
それまで少しだけ目を閉じよう。